けろっぴぃの日記

最近、政治のことをはじめとして目を覆いたくなるような現状が多々あります。小さな力ですが、意見を発信しようと思います。

APECの総括と解散風の行方

2014-11-11 23:51:23 | 政治
北京で開催されたAPECが閉幕した。

終わってみれば、習近平国家主席とは時間が限られる中で日中首脳会談を開催し、偶発的な衝突を避けるための海上連絡メカニズムの実施に向けて協議を進めていくことで一致するに至った。首脳会談前の握手のシーンでは完全に無礼な態度を見せられたが、安倍総理は記者からの質問に対し「それぞれの国の事情があるのだろう」と指摘して大人の対応を示し、更には続くビジネス諮問委員会の会合の場で習主席から「初めて会ったときは他人でも、2回目からは友人になる」と温かい言葉をかけられたことを披歴(暴露?)し、結果的には中国の思惑を完全にいなすこととなった。海上連絡メカニズムの確立は日本では最優先課題であったので、少なくとも日本からすると得たものは十分に大きい。

さらには韓国の朴大統領ともAPEC首脳の夕食会で隣の席となり、ここでまざまな懸案について意見交換するに至った。各国首脳が英語の国名のアルファベット順に着席するルールでJとKで隣通しになったためだが、結果的に韓国の主張する条件付きの会談ではなく無条件での会談が成立するに至り、オバマ大統領に対して「韓国との前向きな関係改善のポーズ」を示すことに成功し、この点でも得たものは大きい。

一部では、中国との間で交わした「日中4点合意」が日本外交の敗北と見る筋もある。門田隆将氏は自身のブログの中で、「尖閣の“致命的譲歩”と日中首脳会談」として中国共産党にしてやられたと「致命的」な失策と評価している。問題は第3項目目の記述で「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域で近年緊張状態が生じていることに異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで、意見の一致を見た」となっていることの解釈である。実際、中国共産党機関紙の「人民日報」系の環球時報が「歴史的な勝利」と宣言しており、完全に中国の思う壺と評価しているのだが、この辺の解説は下記の記事に詳しく書かれている。

The Wall Street Journal 2014年11月10日Japan Realtime「日中、どちらが譲歩したのか-日中の英語翻訳に微妙な違い

実はテレビで宮家邦彦氏が指摘していたが、通常の外交文書は日本語・中国語がそれぞれ正式な文書で、報道向けにその共通の英語訳が日中共同で作成されるのが一般的である。しかし、今回の場合には、日本語版、日本語版の英訳、中国語版、中国語版の英訳の4つのバージョンが存在する。このウォールストリートジャーナルの記事の最初の部分に解説があるが、面白い背景があるようだ。

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合意声明の中国語版と日本語版を細かく検討してみると、それぞれ国内向けのために可能な限り好都合になるよう、周到に言葉を選んだことが明らかだ。日本当局者によれば、日中双方は当初、合意のためのたたき台として中国語の声明を使用し、その後それを日本語に翻訳した。当局者によると、日中双方はまた、それぞれ別個の英語の翻訳を作成した。これは中国が準備した英語版に日本側が同意しなかったためだったという。
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つまり、正式に共通の合意がなされているのであれば共通の英訳が存在するはずだが、その共通の英訳が存在しないということは非常に特殊で、つまり「合意ではない」という合意がなされたことを明示している。表現的には、日本語では「(異なる)見解(views)」とされているのが中国語では「(異なった)立場(positions)」としている。さらに戦争の歴史については、中国側は二国間関係における「政治的障害」を克服するため日中双方が「若干の合意に達した(reached some agreement)」とし、日本側は「政治的困難(political difficulties)」を克服することで双方が「若干の認識の一致(shared some recognition)」をみたとしている。共通の英語の合意文書が存在しないこととの整合性を考えれば、そこに「some agreement」など存在せず、諸問題を解決する必要性という「some recognition」を共有しているが「合意は出来ていない」と考えるのが世界標準の考え方だろう。

幾ら中国国内で評判が良くても意味がないし、日本国内で評判が良くてもそれも意味がない。世界がどう認識するかが重要で、その認識を4つのバージョンという特殊な状況を生み出して世界に示した点で外交の勝利と言える。

以上、終わってみればプーチン大統領とも会談したし、何らかの揚げ足を取られることもなかったので、この点で安倍総理の評価は高いと思われる。更に、国内では安倍総理の不在を利用して解散風が吹き荒れるに至っている。一説では消費税先送りを理由の解散とするとの話だから、野党は政治的な対立軸を明確にしたければ「消費税見送り反対」とすべきだが、これでは選挙は戦えないので、消費税見送りに前向きな発言をせざるを得ない状況に追い込まれた。その様なスタンスを明確にすれば明確にするほど、安倍総理は消費税先送り法案への野党の協力を取り付けやすい。どうせ臨時国会中には先送り法案は審議されないので、12月に入っても野党は消費税延期の踏み絵を迫られることになり、踏み絵を踏めば消費税を先送りし、踏み絵を踏まなければ(先送り反対)解散に打って出れば良いので、非常にやり易い状態になった訳である。

多分、野党は一斉に先送りに賛成するだろうから、安倍総理は解散の必要性が無くなり「解散見送り」という結果に至るだろう。国内でもAPECでも、戦略が完全にツボにハマった感じである。

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