今日はコメント欄で面白いご指摘を頂いたので、その記事について考えてみたい。
毎日新聞2013年2月13日「木語:戦場英会話の演習=金子秀敏」
この記事によれば、FCレーダ照射に代表される中国の海軍の行動に呆れ果てて、中国空軍が恥じも外聞も捨てて海軍を諌めようとしているということの様である。我々の歴史の中でも、太平洋戦争開戦に際して軍部の中でも意見が割れ、帝国陸軍側はイケイケどんどん的な発想であったのに対し、帝国海軍の山本五十六連合艦隊司令長官などは、1年間であれば思う存分戦って見せるが長期戦となったら勝ち目がない、と冷静に見切っていたと言われる。この見通しは非常に正確なものであったが、個別の戦闘で勝利が続く間に生じた軍部の自惚れが彼の戒めを押し殺し、結果として日本を敗北へと導くことになった。この様に、どの国においても比較的短絡的な発想に陥りやすい職業軍人であれば、一枚岩とはならずに様々な考え方の人間が力を持つことがあり得る。上手くシビリアンコントロールが効けば問題ないが、中国の様な民主主義が十分に発達していない国家では、弾けた将軍が何名かいたとしてもおかしくはない。
その様な中で、中国国内ではこれまで地味な存在であった海軍が、最近ではこれまでの第1列島線までを視野に入れた戦略から、太平洋に繰り出して第2列島線までを制覇しようという拡大路線に変わってきた。空母までも導入し、アメリカと比較すれば極めて見劣りする貧弱なものではありながら、形だけはアメリカに追いきつつあるように思わせるものである。だから今現在、中国海軍が有頂天になっていることは十分に予想できる。一方で、比較的エリートが集まる空軍では、浮き足立った海軍を覚めた目で見ながら、余りにも弾けた行動でそのとばっちりを受けないように警戒する動きがあることも予想できる。だから、この記事が示す内容が真実である可能性は十分にある。
ただ、細かく見ていけば微妙にニュアンスは違うのかも知れない。森本前防衛相などは繰りテレビで発言していたが、今回のFCレーダ照射を(明示的か否かは微妙だが)指揮したのは一介の艦長レベルではなく、もう少し上層部であるだろうとのことである。この点では、この記事の推察するトカゲの尻尾きりが出来ないという内容と合致するのであるが、私の個人的な見解は少し微妙で、可能性としてはふたつのケースがあると考えられる。ひとつは上層部が明示的にその様な威嚇行為を指示したというケース、もうひとつは弾けた艦長が好き放題にやり始め、それが噂として別の艦長にも伝わり、一種のゲーム感覚で弾けた艦長同士が競って威嚇を行っていたことを、上層部がその事実を知りながら放任していたというケースである。
青山繁晴さんの情報によれば、海中においても中国の潜水艦が日本の潜水艦に極端に接近し、魚雷を装てんし注水音に続き魚雷発射口を空ける音をわざと聞かせるというこれまた非常に危険な威嚇行動も確認されていたり、民主党政権時代にも何度かFCレーダが照射されていたであろうことが明らかにされていたそうである。仮に上層部が直接的に関与していてもいなくても、これだけ危険な威嚇行為が頻発していれば、上層部の耳に噂話として入っていなければおかしい。上層部が明示的な威嚇の指示をしている場合には、この問題が話題になった時点で「何が悪い!」と開き直る幹部が現れ、比較的短時間で中国政府からの公式見解が発表される可能性が高い。しかし、実際に時間を要したことからは、その様に明示的な威嚇の指示をするような幹部がいないために、直ぐに答えが出なかったのではないかと予想される。多分、無謀な威嚇が横行しているという噂話を聞いた上層部が「これではまずい!」と考えれば、その様なことを慎むような明確な指令を発するであろうが、唯でさえ「愛国無罪」という雰囲気がある中でブレーキをかけるのに躊躇して放任したのではないかと私は予想する。しかし、これを放任していたとすれば、それはそれで上層部の責任問題につながるため、この微妙な案件にどの様な対応をするかで喧々諤々と議論があり、公式見解までに3日を要するに至ったのではないだろうか?
ただ、海軍と空軍の話については少し微妙だとも感じている。というのは、1月中旬にはスクランブル発進と称して日中中間線付近を飛行中の米国の電子偵察機を執拗に追い掛け回してみたりもしているから、これは海軍だけではなく空軍の中にもその様な弾けた将軍がいたとしてもおかしくはない。また新聞記事に記載されている赤軍と青軍の空中戦演習に関して言えば、どちらも中国軍機なので、この中国の新聞記事の意味することは「アメリカに負けた」というニュアンスとは少々異なる。ただし、演習において仮想的な敵国と自国を色分けするならば、選抜した1軍を赤軍(自国)にして能力の劣る2軍を青軍(敵国)とするだろうから、例えて言えば、WBCの選抜チーム(侍ジャパン)が広島相手に0-7で敗れたことを報じたようなものである。たった1試合で一喜一憂するのは不適切であるが、あの緊張感のなさそうな山本浩二監督では、選手を戦う集団として纏め上げられないのではないか、という批判の声が上がってもおかしくはない。この結果、「日米と戦争を行う準備はまだ十分ではない!」、「急いではいけない!」という引き締めのニュアンスをかもし出すことは可能である。しかし、あくまでもこれは空軍が行った演習だから、海軍の連中はこれを読んでも「空軍の恥さらし!」と言い返すのは目に見えている。だとすれば、海軍を諌めるために空軍を使ったという説には少し無理がある。この意味では、(中国では何と呼ぶか知らないが)統合幕僚長の様なさらに上位の幹部が山本五十六長官の様な良識を持ち合わせていて、「空軍も海軍も弾けた奴がおるが、お前ら隙だらけじゃないか!こんな状態で戦争なんて10年早い!今回の件は俺が有耶無耶に幕を引いてやるから、今後は勝手に弾けるんじゃない!」とたしなめているのではないかと予想する。そのぐらいの上位の幹部の指示でないと、あの様な記事は禍根を残してリスクが大きいと思う。
なお、ここから先はおまけであるが、記事の中で少し引っかかる部分いついては少しだけコメントしておく。FCレーダというのは私の推測では非常に指向性の高いレーダ用のアンテナを用いて照射するため、その指向性方向に対しては高い信号利得を確保できるのだろうが、角度が少しずれると急激に信号の強度が落ち込むのではないかと予想される。そうでなければ、誰かがFCレーダを照射した途端にその空域にいた多くの戦闘機においてそのレーダ波を拾ってしまい警報音が鳴ってしまうことになるから、この指向性は相当なものなのだろう。実際、小野寺防衛相はそのFCレーダのアンテナが艦船のどの部分についていて、そのアンテナをレーダ信号受信時に目視したところこちらを向いていたのを確認(つまり撮影もしている?)しているとテレビで発言していた(補足すれば、アンテナの指向性は電子的に制御できるのだろうが、粗方の方向だけは物理的に合わせるのだと思う)。これに対し、北朝鮮の核実験に備えてアメリカ軍なども空中警戒中であったというが、このFCレーダ照射事件は尖閣の北方100km程度の日中中間線付近で起きているから、北朝鮮に対する警戒を意識して偵察活動を行っていたというのであれば、その偵察機などはこの場所から相当距離が離れた場所に位置していたことになる。であれば、FCレーダを直接照射された日本の艦船以外では、その信号を受信して「あっ、やったな、こいつ!」と把握するのはかなり困難ではないかと考える。その意味では、「周辺のアメリカ軍も含めてバレバレであるのに、トカゲの尻尾切りが出来ないから知らぬ存ぜぬと突っぱねた」のではなく、中国側が証拠で身動きが取れなくなる可能性は十分に低いから、強気な否定発言をしたに過ぎないのではないかと思っている。というのも、動かぬ証拠とは自衛隊がある程度の解析能力をさらけ出す返り血を伴うことを意味する。仮にそこまでの証拠を出されても、裁判の様な証拠に基づき白黒をはっきりさせる場がない以上、動かぬ証拠を示してもしらを切り通すことは可能である。この辺は、世界に中国の危うさを示せればそれで良い日本と、国連憲章などを盾に国際レベルでの警告が発せられさえしなければそれで良いと考える中国との考え方の違いである。しかし、日本は十分に上述の目的を達成しているから中国がしらを切り通そうとどうでも良い話ではある。
ということで、あくまでも私の勝手な解釈であるが、中国軍の良識ある上級の幹部は尖閣をめぐる局地戦レベルでも戦争のリスクの大きさを熟知していて、今回の様な日本からのメッセージを読み解き、それをさり気なく部下に対して諭しているのではないかということで、日本としては備えだけはしっかり行うが、あまり中国との戦争を意識する必要はないのだと思っている。
その平和の維持のためにこそ、隙を見せない毅然とした態度、世界に対する情報発信力が重要なのだと感じている。
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毎日新聞2013年2月13日「木語:戦場英会話の演習=金子秀敏」
この記事によれば、FCレーダ照射に代表される中国の海軍の行動に呆れ果てて、中国空軍が恥じも外聞も捨てて海軍を諌めようとしているということの様である。我々の歴史の中でも、太平洋戦争開戦に際して軍部の中でも意見が割れ、帝国陸軍側はイケイケどんどん的な発想であったのに対し、帝国海軍の山本五十六連合艦隊司令長官などは、1年間であれば思う存分戦って見せるが長期戦となったら勝ち目がない、と冷静に見切っていたと言われる。この見通しは非常に正確なものであったが、個別の戦闘で勝利が続く間に生じた軍部の自惚れが彼の戒めを押し殺し、結果として日本を敗北へと導くことになった。この様に、どの国においても比較的短絡的な発想に陥りやすい職業軍人であれば、一枚岩とはならずに様々な考え方の人間が力を持つことがあり得る。上手くシビリアンコントロールが効けば問題ないが、中国の様な民主主義が十分に発達していない国家では、弾けた将軍が何名かいたとしてもおかしくはない。
その様な中で、中国国内ではこれまで地味な存在であった海軍が、最近ではこれまでの第1列島線までを視野に入れた戦略から、太平洋に繰り出して第2列島線までを制覇しようという拡大路線に変わってきた。空母までも導入し、アメリカと比較すれば極めて見劣りする貧弱なものではありながら、形だけはアメリカに追いきつつあるように思わせるものである。だから今現在、中国海軍が有頂天になっていることは十分に予想できる。一方で、比較的エリートが集まる空軍では、浮き足立った海軍を覚めた目で見ながら、余りにも弾けた行動でそのとばっちりを受けないように警戒する動きがあることも予想できる。だから、この記事が示す内容が真実である可能性は十分にある。
ただ、細かく見ていけば微妙にニュアンスは違うのかも知れない。森本前防衛相などは繰りテレビで発言していたが、今回のFCレーダ照射を(明示的か否かは微妙だが)指揮したのは一介の艦長レベルではなく、もう少し上層部であるだろうとのことである。この点では、この記事の推察するトカゲの尻尾きりが出来ないという内容と合致するのであるが、私の個人的な見解は少し微妙で、可能性としてはふたつのケースがあると考えられる。ひとつは上層部が明示的にその様な威嚇行為を指示したというケース、もうひとつは弾けた艦長が好き放題にやり始め、それが噂として別の艦長にも伝わり、一種のゲーム感覚で弾けた艦長同士が競って威嚇を行っていたことを、上層部がその事実を知りながら放任していたというケースである。
青山繁晴さんの情報によれば、海中においても中国の潜水艦が日本の潜水艦に極端に接近し、魚雷を装てんし注水音に続き魚雷発射口を空ける音をわざと聞かせるというこれまた非常に危険な威嚇行動も確認されていたり、民主党政権時代にも何度かFCレーダが照射されていたであろうことが明らかにされていたそうである。仮に上層部が直接的に関与していてもいなくても、これだけ危険な威嚇行為が頻発していれば、上層部の耳に噂話として入っていなければおかしい。上層部が明示的な威嚇の指示をしている場合には、この問題が話題になった時点で「何が悪い!」と開き直る幹部が現れ、比較的短時間で中国政府からの公式見解が発表される可能性が高い。しかし、実際に時間を要したことからは、その様に明示的な威嚇の指示をするような幹部がいないために、直ぐに答えが出なかったのではないかと予想される。多分、無謀な威嚇が横行しているという噂話を聞いた上層部が「これではまずい!」と考えれば、その様なことを慎むような明確な指令を発するであろうが、唯でさえ「愛国無罪」という雰囲気がある中でブレーキをかけるのに躊躇して放任したのではないかと私は予想する。しかし、これを放任していたとすれば、それはそれで上層部の責任問題につながるため、この微妙な案件にどの様な対応をするかで喧々諤々と議論があり、公式見解までに3日を要するに至ったのではないだろうか?
ただ、海軍と空軍の話については少し微妙だとも感じている。というのは、1月中旬にはスクランブル発進と称して日中中間線付近を飛行中の米国の電子偵察機を執拗に追い掛け回してみたりもしているから、これは海軍だけではなく空軍の中にもその様な弾けた将軍がいたとしてもおかしくはない。また新聞記事に記載されている赤軍と青軍の空中戦演習に関して言えば、どちらも中国軍機なので、この中国の新聞記事の意味することは「アメリカに負けた」というニュアンスとは少々異なる。ただし、演習において仮想的な敵国と自国を色分けするならば、選抜した1軍を赤軍(自国)にして能力の劣る2軍を青軍(敵国)とするだろうから、例えて言えば、WBCの選抜チーム(侍ジャパン)が広島相手に0-7で敗れたことを報じたようなものである。たった1試合で一喜一憂するのは不適切であるが、あの緊張感のなさそうな山本浩二監督では、選手を戦う集団として纏め上げられないのではないか、という批判の声が上がってもおかしくはない。この結果、「日米と戦争を行う準備はまだ十分ではない!」、「急いではいけない!」という引き締めのニュアンスをかもし出すことは可能である。しかし、あくまでもこれは空軍が行った演習だから、海軍の連中はこれを読んでも「空軍の恥さらし!」と言い返すのは目に見えている。だとすれば、海軍を諌めるために空軍を使ったという説には少し無理がある。この意味では、(中国では何と呼ぶか知らないが)統合幕僚長の様なさらに上位の幹部が山本五十六長官の様な良識を持ち合わせていて、「空軍も海軍も弾けた奴がおるが、お前ら隙だらけじゃないか!こんな状態で戦争なんて10年早い!今回の件は俺が有耶無耶に幕を引いてやるから、今後は勝手に弾けるんじゃない!」とたしなめているのではないかと予想する。そのぐらいの上位の幹部の指示でないと、あの様な記事は禍根を残してリスクが大きいと思う。
なお、ここから先はおまけであるが、記事の中で少し引っかかる部分いついては少しだけコメントしておく。FCレーダというのは私の推測では非常に指向性の高いレーダ用のアンテナを用いて照射するため、その指向性方向に対しては高い信号利得を確保できるのだろうが、角度が少しずれると急激に信号の強度が落ち込むのではないかと予想される。そうでなければ、誰かがFCレーダを照射した途端にその空域にいた多くの戦闘機においてそのレーダ波を拾ってしまい警報音が鳴ってしまうことになるから、この指向性は相当なものなのだろう。実際、小野寺防衛相はそのFCレーダのアンテナが艦船のどの部分についていて、そのアンテナをレーダ信号受信時に目視したところこちらを向いていたのを確認(つまり撮影もしている?)しているとテレビで発言していた(補足すれば、アンテナの指向性は電子的に制御できるのだろうが、粗方の方向だけは物理的に合わせるのだと思う)。これに対し、北朝鮮の核実験に備えてアメリカ軍なども空中警戒中であったというが、このFCレーダ照射事件は尖閣の北方100km程度の日中中間線付近で起きているから、北朝鮮に対する警戒を意識して偵察活動を行っていたというのであれば、その偵察機などはこの場所から相当距離が離れた場所に位置していたことになる。であれば、FCレーダを直接照射された日本の艦船以外では、その信号を受信して「あっ、やったな、こいつ!」と把握するのはかなり困難ではないかと考える。その意味では、「周辺のアメリカ軍も含めてバレバレであるのに、トカゲの尻尾切りが出来ないから知らぬ存ぜぬと突っぱねた」のではなく、中国側が証拠で身動きが取れなくなる可能性は十分に低いから、強気な否定発言をしたに過ぎないのではないかと思っている。というのも、動かぬ証拠とは自衛隊がある程度の解析能力をさらけ出す返り血を伴うことを意味する。仮にそこまでの証拠を出されても、裁判の様な証拠に基づき白黒をはっきりさせる場がない以上、動かぬ証拠を示してもしらを切り通すことは可能である。この辺は、世界に中国の危うさを示せればそれで良い日本と、国連憲章などを盾に国際レベルでの警告が発せられさえしなければそれで良いと考える中国との考え方の違いである。しかし、日本は十分に上述の目的を達成しているから中国がしらを切り通そうとどうでも良い話ではある。
ということで、あくまでも私の勝手な解釈であるが、中国軍の良識ある上級の幹部は尖閣をめぐる局地戦レベルでも戦争のリスクの大きさを熟知していて、今回の様な日本からのメッセージを読み解き、それをさり気なく部下に対して諭しているのではないかということで、日本としては備えだけはしっかり行うが、あまり中国との戦争を意識する必要はないのだと思っている。
その平和の維持のためにこそ、隙を見せない毅然とした態度、世界に対する情報発信力が重要なのだと感じている。
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