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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 1) メタンハイドレートとは

2012-11-16 | 鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」ほか

(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10



はじめに) 資源大国日本

 日本は今、海底資源・地下資源によりエネルギー・資源大国になろうとしている。それらは、慎重に、ゆっくりと、賢く使うべきもである。経済成長のためではない。右肩下がりの時代を生きる減速に必要なエネルギー源と考えるべきである。心豊かな生活のために。

1) メタンハイドレートとは


{ハイドレートの結晶構造は石鹸の泡}  包接化合物(クラスレート)の一種である。メタンハイドレートでは、水分子が水素結合で作る立体網目のカゴ毎に、メタン分子が収まっている。立体網目は、水分子が作る正五角形の面から成る正12面体(Sカゴ)が2個、正五角形12面と正六角形2面の計14面から成る14面体(Mカゴ)が6個の割合で形成されている。カゴの各面は両側の2つのカゴとの共有であり、従ってMカゴの正六角形は、接続している隣のMカゴの正六角形と共通になる。Mカゴは一線に連続していることになる。また各辺は3つのカゴの共有であり、頂点は4つのカゴの共有である。この立体構造は石鹸水の泡と良く似ている。

{ハイドレートの結晶構造は立方体}  立方体単位胞の8つの頂点には正12面体のSカゴが位置するので、単位胞あたり1個に相当する。向きを変えた中心の1個と合わせてSカゴは2個である。14面体のMカゴは一直線に並ぶが、横に(X)、縦(Y)に、奥(Z)にと3方向に向いている。立方体の面には2個づつ配置されて計12個になるが、隣の面と共有するので、単位胞の所属は6個になる。これらのカゴの全てにメタン分子が入ればその数は合計で8個である。メタン分子1個は5.75個の水分子で囲まれている勘定になる。なお、MカゴにNbを、SカゴをSnにと置き換えれば、それは超伝導金属間化合物のNb3Snの結晶構造のA15構造になる。


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注:この講演原稿では、字引のように項目を挙げて説明を加えている。知りたいときに、知りたいことを、探せるようにしたつもりである。講演の中で全ての説明はできない。何度も読み返して頂ければ幸いである。また、図・表はできるだけ使わないことにしている。検索すれば直ちに調べることができるからである。好奇心を発揮して貰いたい。
{ハイドレートから取り出せるメタンは} メタンハイドレートに含まれるメタンを気体として取り出せば、その体積は最大で170倍になる。しかし、メタン分子の充填率が100%にはなっていない。他の原子・分子が占有したり、空隙である可能性もある。

{メタンハイドレートの相安定性}  安定領域の温度・圧力の境界は、+10℃で76気圧、+4℃で50気圧、0℃で26気圧、-30℃で10気圧、-80℃で1気圧などである。言い換えれば、温度が低下すれば圧力は小さくても安定であり、圧力を高くすれば温度が高くても安定である。

{海水の圧力}  水深10mの水圧は、水の圧力1気圧+水面を押す大気圧1気圧=2気圧である。約600mの海底は約60気圧であり、プラスの海水温でもメタンハイドレートが安定な領域になる。このような海底から湧出してくるメタンが、高圧下の海水に触れて直ぐにメタンハイドレートの小さな白い粉末状の固体に変わる現象が観察されている。

{燃える氷、メタンハイドレート}    海底地層中から掘り出したメタンハイドレートは見たところは、白く固くて氷に似ており、触れば冷たく感じる。火を付けると炎を出して燃えるが、常温・常圧で比較的安定である。正に「燃える氷」である。なお、水とメタンガスを配合して、所定の高圧・低温に保てばハイドレートを実験室で作ることができる。
 注)メタンハイドレートの状態を「メタンハイドレートとは、『燃える氷』とも言われ、天然ガスの主成分であるメタンが、高圧・低温の海底下や凍土下でシャーベット状に固まったもの。」とする説明が見受けられる。間違った表現であろう。「固く白い燃える氷」ではないのか。

{自己保存効果} ハイドレートが安定に存在できない常温・常圧であっても、メタンを放出して残された水は氷結して表面を覆う。これは、メタンと水に分離する反応が吸熱であることによる。この氷が保護被膜の作用をして反応を遅らせ、常温でも比較的安定である。しかし、このことがメタン採掘に際して抗井を氷結閉塞させる可能性を孕んでいる。

{固体・液体・気体}  一般に、物質に圧力を加えれば、体積は小さくなる。そして、気体は固体に変化(相転移)し、体積を減少させていく。物質の温度を下げれば、体積は縮小する。気体は液体に、液体は固体に相転移し、その時は発熱を伴なって温度を一定に保とうとするかのように振舞う。自然界では、外界からの変動を、自分自身を変化させて緩和しようとしている。

{水素結合} 1個の電子を持つ水素原子は1価であり、共有結合の結合手は1つで、水分子はH-O-Hと表される。しかし、電子を引き寄せる酸素が少しマイナス(δ-)に偏り、電子が引っ張られた水素は少しプラス(δ+)になっている。イオン結合ではないが、静電的な結合状態が水分子のδ-と他の水分子のδ+が引き合って水素結合ができる。これが水の様々な面白い性質の原因となっている。ハイドレートを形成するのもその一例である。

{地球上に生命を育む水} 常温付近に氷・水・水蒸気の安定域が接近している(高い融点と沸点)、暖まり難く、冷め難い(大きな比熱)、水滴ができる(大きな表面張力)、水に浮く氷(氷の比重が大きい)、物質を溶かし込む(大きな溶解性)などである。全て水素結合のなせる業である。この特異な性質が水になければ、地球上にこれだけの様々な生命は生まれ出なかった。

{メタンハイドレートの起源} 微生物分解起源と熱分解起源のメタンハイドレートがある。地層中に堆積した動物や植物の生物起源の有機物をバクテリア(古細菌)が分解し、メタンを生成する。一方、更に地中深く沈み込んだ有機物は地熱により熱分解し、メタンを発生させる。いずれも隙間の多い砂泥互層(ダービダイト)に集積する。海水温は深くなると低下し、圧力は高くなる。海底下の地層は深くなるとさらに圧力も高まるが、温度も地熱により高くなる。その中間にメタンハイドレートの安定な温度域・圧力域が存在する。

{メタンハイドレートの分布域は} 静岡から四国・九州の100~300km沖合、南海トラフ一帯に分布する。その他に茨城県沖、新潟県沖、北海道南岸沖などが有望視されている。水深700~2000mの海底下、100~500mの地層がメタンハイドレート形成の条件を満たしている。海底疑似反射面(BSR)で当たりを付け、試錐を行って詳細を知ることができる。

{海底疑似反射面(BSR)とは} 船で曳航するエアガンから大きな音波を出し、多数の受信機で地層からの反射音を記録する。地層構造からの反射とは別に、層状に横たわるメタンハイドレートの下層境界部分からの強い反射が帰ってくる。このBSRは海底地形に平行になっている。これから下は水とガスを含む柔らかい地層であり、上に行くほど地熱の影響が弱まり、メタンハイドレートの安定な温度・圧力になる。BSRはその境界面であり、その分布調査からハイドレート層の存在域が推定できる。

{メタンハイドレートの賦存量は} 日本周辺に賦存するメタンハイドレートは、我が国の天然ガス年間消費量の約100年分と推定される。天然ガス消費量は年間937億m3である。

{泥火山とは} 南海トラフの地中深部の未固結堆積層に高圧がかかり、流動化してその上位にある浸透率の低い粘土層を破砕して、表面に噴出してきたものが泥(どろ)火山である。メタンハイドレート層に貫入・上昇した泥ダイアビルは泥の他に、メタンと水を伴って噴出する。

{リチウム}  メタンが噴き出している泥火山で、メタンと共に噴出する水に大量のリチウム(海水の1000倍)が含まれている。しかし、その理由は解明されていない。NaClはメタンハイドレートの安定領域を低温・高圧側にシフトさせ、インヒビターとして使えると報告されている。他の塩とは逆に、海水中に含まれるLiClがメタンハイドレート形成を助けるのかも知れない。あるいは、濃縮されるとすればその仕組みを考える必要がある。メタン回収に際して得られるであろう「リチウムに富んだ水」から、効率の良いリチウム回収が期待できそうである。リチウムイオン二次電池の正極材料、電解質、負極材料の何れにも必要である。今後のエネルギー問題にとって不可欠の物質である。

{メタンの発生源} 湿地帯・湖沼、熱帯雨林、天然ガス、海底から湧出、泥火山、家畜の糞尿や牛のゲップ。一方で、森林の土壌がメタンを吸収すると言われている。

{天然ガス} 主成分はメタン。輸送・貯蔵は、気体の1/600の体積を持つ液体状態(LNG)で行うが、温度を-162℃以下に保たなければならない。

{大気の役割} フロンのような人工的な化学物質以外では、水蒸気(H2O)、炭酸ガス(CO2)、メタン(CH4)の保温効果が大きい。大気は地球環境を暖かく包む毛布の役割である。太陽から受け取った熱エネルギーを宇宙に放散するのを遅らせ、冬夏、夜昼の温度差を緩和する役が大気である。この作用が過度であれば温暖化になる。

 

 

「計測と制御で創る未来の地球」計測展2012 OSAKA 
           日時:10月31日(水)~11月2日(金)
           場所:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)10階
主催:((社)日本電気計測器工業会
〒530-005大阪市北区中之5-3-51、電話06-4803-5555

特別講演 (鈴木朝夫氏)
日時:10月31日(水)、13:30~15:00
場所:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)10階、1009会議室
演題:
新エネルギー資源の使い方~メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ
The best use of Japanese new energy resources
講演要旨:
 日本は今、海底資源・地下資源によりエネルギー・資源大国になろうとしている。それらは、慎重に、ゆっくりと、賢く使うべきものである。経済成長のためではない。右肩下がりの時代を生きる減速に必要なエネルギー源と考えるべきである。心豊かな生活のために。
 Thanks to submarine and underground resources, Japan is becoming rich in energy and natural resources. Those resources should be used cautiously, slowly and wisely; not for another growth but for realizing economic maturity.

講師 鈴木朝夫(すずき ともお)
高知県メタンハイドレート開発研究会、理事長
Promotion of Methanhydrate Utility & Synergy in Kochi、Chief Director
     (略称:PROMETHEUS in KOCHI---
 Pro(motion)of Met(han)H(ydrat)E U(tility)& S(ynergy)in KOCHI )
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講師略歴:
氏名:     鈴木 朝夫(すずき ともお)
所属、役職: 東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、
     高知県メタンハイドレート開発研究会理事長 
略歴: 1932/10/10生まれ(千葉県)
       1955  東京工業大学 金属工学科卒業
東京工業大学 精密工学研究所 助手、助教授、教授、(工学部評議員)
1993 北海道大学工学部 材料工学科 教授(学科長)
1996  (社)日本金属学会 会長 
1997  高知工科大学 物質環境システム工学科 教授、(副学長・工学研究科長)       2001  高知県産業振興センター 理事(プロジェクト・マネージャー)
        高知県公安委員会 委員、委員長
2006~   高知県宇宙利用推進研究会(てんくろうの会)会長
              NPO牧野の森(くるくる五台山)代表
              高知ファンクラブ代表
高知県メタンハイドレート開発研究会理事長 等
2011   瑞宝中綬章(教育研究功労)の叙勲

 

〒718-0054 高知県香美市土佐山田町植718

鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

0887-52-5154、携帯 090-3461-6571

 

 

 

1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は 

 

 

 

 

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