今日のうた

思いつくままに書いています

STRAY SHEEP

2020-08-09 15:11:34 | ③好きな歌と句と詩とことばと
70歳にして生まれて初めて、米津玄師のCD「STRAY SHEEP」を予約した。
届くまでの約2ヶ月間は、しばし憂き世を忘れさせてくれた。
早速聴いてみると、音楽の世界が拡がりを見せ、完成度の高い作品だ。
特に「カンパネルラ」と「PLACEBO+野田洋次郎」は音楽がずっと
頭の中で響(な)っていて、口ずさみたくなる。
米津は宮沢賢治に影響を受けたと語っているが、「カンパネルラ」は
彼へのオマージュだ。MV(ミュージックビデオ)も素晴らしい。

私が好きな「Flamingo」や 「TEENAGE RIOT」が入っていた。
この2曲だけは彼自らがアレンジしている。
その他に番組とタイアップした曲がいくつか入っているが、
どれも成功している。
要望に応えて作るのは、さぞかし苦労が多いと思うし、
それをこなすのは並々ならぬ才能だと思う。
だが私は、彼の内から湧き出るような曲が好きだ。

たとえば、「ひまわり」は「TEENAGE RIOT」の延長線上にある曲だと
思うが、こうしたひりしりした痛みを感じる曲が、私は好きだ。

これまでもラブソングは数多く聴いてきたが、その中でも
「カナリヤ」は究極のラブソングだと思う。
若さからの繊細で柔らかな感性で作られていて、聴きながら泣いてしまった。
ラブソングで泣いたのは初めてだ。
普遍性のある曲として、ずっと歌い継がれていくだろう。
私はチューリップ・財津和夫の「青春の影」の次の歌詞を思い出していた。
「今日から君はただの女 
 今日から僕はただの男」

米津は昨日(8月8日)のテレビ対談で次のように語っていた。

「(今はコロナで)不要不急が叫ばれているが、それを判断する鍵を
 人に委ねてはいけないと思う」     (引用ここまで)

今も、音楽を含む芸術や娯楽に救われている人が大勢いることだろう。
こうしたものに価値を見出せない国は、文化国家とは言えない。
またこのことを政治家が理解できないのであれば、あまりにもお粗末だ。
この非常時に、文化や芸術に予算をつけない国があろうとは!
高齢者で持病のある私は、日々コロナに怯えつつ、音楽や映画、小説などに
救われながら生きている。

追記1
YouTubeで、「STRAY SHEEP Radio」を聴いた。
米津がこのアルバムに入っている曲を中心に、独りで語るラジオ番組だ。
私のような凡人でも生きにくい世の中なんだから、繊細で感受性の強い彼は
さぞや生きるのがしんどいのでは、と聴きながら思った。
世の中の様々な出来事をよく知っていて、それを自分のこととして
深く考える。更にはどうしたらいいのか考え抜く。
こうして生まれた曲も、誰かを傷つけてしまうのではないかと悩む。

自分は永久に苦しみ続けるしかないと腹をくくった、と語っていた。
たとえそこから逃れて晴耕雨読のような生活を選んでも、
自分はそれでは満足できない。
もっとイージーな曲作りをしたのでは、自分が飽きてしまう。
苦しみながら作り続けるしかないようだ。
才能があることは、ある意味、苦しみと同義語なのかもしれない。
それにしてもいつも思うのだが、彼は豊富な語彙を用いて自分で考え、
自分の言葉で語っている。
孤独な時間がこうした土壌を築き上げたのだろうか。
孤独であるからこそ、お互いに解り合える。
(2020年8月29日 記)

追記2
是枝裕和監督「カナリヤ」のMVが、YouTubeで観られます。
田中泯さんが出ています。
自分が思い描いていたイメージとは違いましたが、
美しいMVです。

https://www.youtube.com/watch?v=JAMNqRBL_CY

(2020年11月19日 記)

追記3
アルバムの中では「カナリヤ」が一番好きで、何十回となく聴いている。
YouTubeにも感動的なコメントが多数、海外からも寄せられている。
あるカップルの物語が10代、30代(?)、70代と3代に分けて
描かれていて感動的だ。
特に30代と思われるカップルがベッドの上で戯れるシーンや、
最後に米津が空を見上げるシーンはとても美しく描かれていて、大好きだ。

だが、私には何か違和感があった。
MVは音楽がメインだと思う。
MVはあくまでも音楽のイメージを膨らませるもので、
映像に独自の物語が必要なのだろうか。
音楽を聴いた人が、それぞれの物語を自由に作り上げて
いけばよいのではないだろうか。
MVが一つの物語に誘導しようとしているように感じる。
これではMVというより、是枝ワールドになってしまうのではないだろうか。
特にさびの次の部分で、私はなんど泣いたか分からない。
ここでも映像が曲のじゃまをしているように感じる。

「いいよ あなたとなら いいよ
 もしも最後に何もなくても 
 いいよ いいよ いいよ」

私は是枝作品が好きだし、「カナリヤ」の映像も素晴らしい。
だが、ひとつの曲の中で語り過ぎているように思う。
ひとつの映画は多くて数回しか観ないが、MVは一日数回観ることもある。
そうなると、その度に物語をなぞることになる。

映画「真実」を観た時も、素晴らしい作品だが
物語を語りつくしているように感じた。
映画もMVも、もっと観客に委ねて欲しいと、僭越ながら思った。
(2020年11月22日 記)

追記4
2021年6月にリリースされた「Pale Blue」のMVは
素晴らしいものだった。
「Lemon」、「馬と鹿」、「カンパネルラ」には高校生と思われる集団の
群舞(?)が出てくるので、作者のサインのようなものだとは思っていた。
だが私が一番好きなMV「Flamingo」、それに「カンパネルラ」と
「Pale Blue」までもが山田智和の作品だったとは。
30代前半、底知れぬ才能を感じる。
(2021年6月7日 記)





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