1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「時の滲む朝」(楊逸)

2008-12-13 13:12:25 | 
 韓国から帰ってから、強度の下痢に苦しんでいます。そんな体調でも、ブログを書かなければ、なんか落ち着かない。結構、はまってしまったなぁ。ボケ防止の日記のようなつもりで始めたけれど、今年読んだ本や見た展覧会などを振り返るには、とても便利のツールだと思っています

 「時の滲む朝」(楊逸)を読みました。中国で生まれた、中国語を母語とする作者が、日本語で書いて芥川賞を受賞した作品です。たしかに、ちょっと違和感を感じる日本語の使い方があったりします。
 天安門事件のときに、泰漢という街で学生時代を過ごした若者たちの物語です。天安門での民主化運動に共鳴し、自らも、闘いに立ち上がるのですが、10年後、主人公も、活動家の女性も、そしてリーダーとしてがんばった教官も、日本で、ヨーロッパで、中国で、それぞれの闘いに敗れたことを知るのです・・・政治権力による弾圧によってではなくて、日常生活の重さによって。

 民主化要求集会が終わった後で、主人公たちが立ちよった飲み屋でのタクシー運転手に言葉。

「若くて良いな、親から仕送りしてもらって、何の心配もしないで、民主だ自由だの選挙だのと格好良いことを言ってさ。女房も子供も養わなきゃならない俺らは愛国心だけじゃ生きていけないんだよ」

 大学を退学になった後、日本にやってきた主人公が、東京で民主化運動を進めるために加入した民主同志会で出あった人の言葉。民主運動の活動家と認められると、中国に帰ると弾圧が予想されるので特別の滞在ビザがでたそうです。

「むきになるなよ。自覚の高い人なんていないよ。民主化も必要だけど、ビザをもらって少しでも時給の高いアルバイトをして、金を貯めて、いつか中国に帰って、小さな店でもやれたら、それ以上のことは、俺らは何も望んでいないよ。」

 リーダーだった教官が、妻子を残してヨーロッパに亡命後に、息子からうけとった手紙。

「父さん、昨夜母さんは息を引き取った。目尻に涙を一つ残したままだった。きっと僕が責任のある父親に恵まれることがないのを最後まで悔んだ涙だと思います。妻も息子も顧みることができない、そんな人が国を愛せるのだろうか。これが僕からの最後の手紙です。」

 三十数年前、親や年配の人から、同じようなことをよく言われたのを思い出します。
僕の場合は、普通に就職して、結婚して、4人の子供の親になったけれど・・・
 日本で就職し、二人の子供の親になった主人公が、「ぼくのふるさとは日本なんだね」と語る長男の手を引いて歩きだすシーンの、ほろ苦さと静かな決意が印象的でした。