「テロの経済学」(アラン・B・クルーがー)を読みました。原題は、「What makes aTerrorist」と言います。原題に明らかなように、何が人をテロリストにするのかの実証的な研究です。筆者は、世界で起こったテロを対象に、回帰分析などの統計データーに基づいて、次のことを明らかにしています。
①テロリストは十分教育を受けた、裕福な家庭の出身である傾向がある。
②社会での最高の教育を受けている人や高所得の職業に就いている人のほうが、社会的に最も恵まれない人たちよりも過激な意見をもち、かつテロリズムを支援する傾向がある。
③国際テロリストは貧しい国よりも中所得国の出身である傾向が強い。
④市民的自由と政治的権利が抑圧されているとテロに走りやすい。
筆者は、貧困は、テロリストを生みだす上で有意な因子ではなく、市民的な自由の欠如がテロを生み出す有意な因子であるとしています。そして「市民的自由を侵しながら、イラクに民主主義を確立しようとするアメリカのやり方に懸念を持っている」という、鋭い指摘も行っています。
で、感想ですが・・・十分な教育を受けた、比較的裕福な家庭の出身の人たちが、世界に存在する貧困や抑圧、不当な搾取に反対して、テロなどの政治的な活動に参加するというのは、さもありなんと思うのです。政治的な活動というものは、基本的に日常生活に余裕がなければ、できないものだし。日本の新左翼の運動にもそのような傾向はみられたように思います。
肝心なことは、政治的な表現や活動が、貧困に苦しむ人々の沈黙の叫びを真摯に代表しているのかどうかにあると思うのです。行為をする人がだれであれ、その政治的表現が貧困に苦しむ人々の叫びに根ざしているならば、貧困がテロを生みだす大きな要因であると思うのです。筆者は、パレスチナでパレスチナ政策分析センターがおこなった「イスラエル人を標的とした武力攻撃に対してどう思うのか」という調査のデーターを紹介しています。この調査では、80%以上の人が正当だと思うと答えています。また、ヨルダンとパキスタンで行った調査では、「イラクでのアメリカ人への自爆テロが正当化できるか」という質問においては、所得水準との間には「弱い逆相関」が見られるそうです。テロなどの政治的な表現が、貧困に苦しむ人々の声を代弁しているのかどうか、もっと精緻な調査する必要があると思いました。