叙事詩 人間賛歌

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「目覚める人・日蓮の弟子たち」 十二

2010年03月08日 | 小説「目覚める人」

 北条小源太 十二

「左様でござったか。天皇も帰依し日本一の名刹といわれる叡山でも
そのような所なのかのう・・」

小源太が言ったとき、三郎の妻女かねが酒肴を用意して座敷に入って
きた。

「御前様、急なことで何もできませんが、どうぞお召し上がりくださ
い。」

と言ってかねは、小源太の差し出す盃になみなみと酒をついだ。

「これは奥方かたじけない。」

小源太は盃を押し頂き、口に持ってくると味わうように酒を口の中に
含んだ。なんとも言えぬよい匂いが口中に広がった。

「うむ、これはよい酒じゃ。」 彼はさも旨そうに飲み込んだ。

「ところで大学どの、近頃の京の様子はどうかの。さびれているとい
う噂だが」

「はい、との私も自分の目で見たわけではありませんが、承久三年の
変で朝廷方が義時公に亡ぼされてからは、火が消えたような淋しさだ
と聞いております。」

「やはりそうか。」

「街道も鎌倉に来る道は、人や馬で賑わっているそうですが、京には
行き来する人も少なくなり、商家もやっていけなくて閉めたところも
多いようです。それに比べて鎌倉の繁盛ぶりは、京の人が見て驚くほ
どのものだそうです。
江ノ島の辺りには大船が並んで錨を降ろし、鎌倉にむかう街道や川の
渡し場は、人や馬であふれていると申しますから。」

 続く