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叙事詩 人間賛歌

想像もできない力を持つ生命の素晴らしさを綴っています !

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人間賛歌 自分の心を変える 十一

2007年08月14日 | 自分の心を変える
 最終回、

ロスは少女が、いままで生きていたことが奇蹟で、
感動しながら、耳をかたむけてきた。
だがそれ以上に、少女の変わりように驚嘆した。

「この子の耐えてきた苦しみを、私は想像できない。人間が信じられず、
 恐れと憎しみで心がいっぱいだったに違いない。
 それなのに人を憎むことをやめ、
 人に優しくしようと思う心が芽生えたのは、なぜなのか、
 少女のなかのなにが変化したのだろう。」

この疑問がロスの胸に長く残って消えなかった。
のちにロスは医者になってアメリカにわたり、死を迎えた末期患者の心の
ケアを専門にする精神科医になった。

医学者で始めて、死後の世界を研究し、数万人の臨死体験者と直接あって
話を聞いたといわれる。
その結果、

「人々が思っているような意味での死は存在しない。
生死を超えた世界にあるものは、無限の愛とも大慈悲心ともいえる
精神である。」

という思想を持つようになり、この思想を世界に広めるようになった。
はなしが飛躍したようだが、自分の心を変えるには、生命の根本に迫っていかねばならないのだ。

いま最先端の精神科学の分野では、生命は永遠で、
人間は何回も何回も生まれかわるという仏法の、輪廻転生を認めなければ
説明できないところまで来ている。と述べる学者もいるのだ。
いつまでも古い考えに固執していては、人類の未来に明るい展望を望む
ことはできない。

未開発のまま眠っている人間の能力を開発する以外に、地球と人類を救う
道はないことを、わきまえねばならないのだ。

死んでしまえばすべて終わり、ジタバタしたところで、
人間のこの運命はどうしょうもないのだ。と考えるのはよそではないか。
そして、自分は変えられる。運命というものがあっても、
それは自分で良いほうに変えることが出来るということについて、次の稿に
進んでいきたい。

この稿終わり。






人間賛歌 自分の心を変える 十

2007年08月06日 | 自分の心を変える

 前回の続き、

「ドイツ兵もこわかったが、夜の寒さはもっとこわかった。」
まだ幼さの残った顔で少女は言う。

ガス室の前で両親と別れて、一年近くたったころ、
連合軍によって収容所は開放された。
少女は奇跡的に救われたのだ。

その後少女は孤児収容所に預けられ、手厚く保護された。
連合軍の兵士はドイツ兵とちがい、天使のようにやさしかった。
しかし少女は、
ガス室の前でムリヤリ引き離された、最愛の両親を忘れることが
出来なかった。

時間さえあればここえ来て、ガス室の前にたたづんだのだ。
ここにいれば、いつか懐かしい父母の声が聞こえてくるように、
思えたのだ。


そして少女は、世界中から収容所を見学にくる人たちに、
..ヒトラーやドイツ兵が、どんなにひどいことをしたか...
訴え続けた。

自分や仲間をこんな目に合わせた彼らの仕打ちが許せなかったのだ。
少女は、普通の人ならとても耐えられない自分の経験を、
涙もださずたんたんと語ったが、急に改まって、ロスを見上げて言った。

「でも、もう私、こんなことをするの、よそうと思うの、
ここに来てヒトラーやドイツ兵の悪口を言っていると、
憎しみを世界中に、広げているようで、それでは世界がダメになってしまう、
 とおもいだしたの。

だからあなたを最後に、もうかれらの悪口を言うのはやめるわ。
今日が最後よ、
これからは憎しみを広めるのでなく、
人にやさしくすることを、広めようと思うの。」

このとき、いままで感情を表に出さなかった少女の表情が変わった。
能面のような冷たさが消え、このうえなくやさしく美しい顔になり、
目もうるんでいるように見えた。

続く

著者注、 人を恨み憎む心は自分を不幸にする。いたいけな少女は賢明
にも、それに気づきボサツ界の境涯に心を高めたのだ。少女の前途は洋
洋と開けるものと確信する。

 

 


 


人間賛歌 自分の心を変える 十

2007年07月30日 | 自分の心を変える
 前回の続き、

少女は大声で泣き叫び、両親のところにもどろうとするが、
ドイツ兵は少女の首を掴んで、

「ジャマなガキだ、手間をかけるな。」

と怒声とともに、少女のからだを放り投げた。
投げ飛ばされた少女の目の前で、鉄の扉は鈍い音を立て閉まっていく、
地べたを這ってガス室へ入ろうとする少女を、

「ガチャン!」と鍵のかかる音がして鉄の扉が遮断した。
それっきり少女は、愛する両親と永遠に引き離されたのだ。

やがて任務を終えたドイツ兵は立ち去った。
かれらは次の任務のために、少女のことなど忘れ去っていた。
少女の名前は、両親とともにガス室で殺された人の中にはいっていたので、
生存者名簿からはずされた。

その結果少女は、この世からもあの世からも抹消され、
惨めな身になって、ひとり残されたのだ。
ロスは少女の話を聞いて、このいたいけな少女が哀れでならなかった。


「神よ、もしおわすのであれば、なぜこの子に、
 これほどむごい試練をお与えになるのですか。」

天を仰いで訴えたい気持ちであった。
少女は女のロスが見てもハッとするほど美しかった。その美しさがよけい
少女を痛々しく見せた。

「それで、あなた、いままでどうしていたの。」

少女にはなまじっかな同情など、言葉にだせなかった。
どうやって生きてきたのか、と訊くのがやっとだった。

少女はロスがドイツ人でなく、スイスから来た医学生と知って安心したようだ。ロスの問いに答え話を続けた。

それからの少女は、だだっ広い収容所の片隅に、ドイツ兵に見つからない
よう、自分がやっと入れる穴を掘ってそこに隠れた。
昼間はドイツ兵に見つかるので、夜、見廻りの兵隊が去るのを確かめて穴
を出た。食料を探すためだ。

草の根や昆虫が食べ物で、何もないときは積もった雪を口に入れて、
飢えをしのいだこともあった。

続く

人間賛歌 自分の心を変える 九

2007年07月23日 | 自分の心を変える

 前回の続き

頭がおかしいのではないかと思い、少女の顔を見たが、
目は澄んでいて賢そうな顔をしている。医学生の、
ロスには少女が狂っていないことが、一目でわかった。

「それは、どういうことなの、」

ロスの問いに、

「人間はだれだって、ヒトラーのように残酷なことができるわ、
あなただっていっしょよ。」

と少女は応えた。
不思議な少女に興味をひかれ、ロスはたずねた。

「私はスイスから見学に来た医学生だけれど、あなたはいったいだれなの、
それにどうしてこんなところにいるの。」

ロスの問いに少女は次のような話をした。
少女はハンガリーの田舎で、両親と平和にくらしていた。
だが、ユダヤ人狩りのドイツ兵に捕まって、
ここに送られてから、運命が一変した。

少女の両親は仲間のユダヤ人とともに、ガス室で殺された。
殺される日のことだった。

名前を呼ばれ、裸にされた少女は、
他のユダヤ人と一緒にガス室に入れられた。
名前を呼ばれたのが、後のほうだったので、
すでに満パイになっていたガス室に、少女は、
両親の手をしっかり握ってもぐりこんだ。

その時だ。
ドイツ兵に追い立てられ、ガス室に詰め込まれたユダヤ人の数が
多すぎて、ガス室の扉が閉まらないのだ。

「このブタやろうメ、もっとなかえ詰めろ。」

ドイツ兵は口汚くののしりながら、ユダヤ人をさらに奥え詰め込もうとしたが、
ムリだった。いくらやっても扉は閉まらなかった。

ゴウをにやしたドイツ兵は、両親のあいだにはさまれて、
扉の前にいた少女に目をつけた。
少女を強引に両親から引き離し、外え引きづり出したのだ。

続く


人間賛歌 自分の心を変える 八

2007年07月17日 | 自分の心を変える

 前回の続き、

パリの女性はセーヌ河に身を投げて死んだが、
三木リエはどうなったのだろう。
大川の堤防で、リエは自分の心を変えようと決意したのだ。

夫を憎み、二女を手ごめにしたヤクザを憎み、
三女を発狂させたシウトを憎み、
期待を裏切って死んだ長男を恨む、
そんな心とオサラバしょうと思ったのだ。

「そうだわ、もうくよくよして、いつも悲しむのはよそう。
これからは、どんな小さなことだっていいから、
好いこと、嬉しいことを見つけるよう、自分の心を変えていこう。」
と決心したのだ。


リエはその日を境に生き方を変え、目を見張るほど変化した。
いままで気づかなかったのが不思議なぐらい、
好いこと、楽しいことが自分の周りに満ちているのが分かったのだ。

母親の変わった姿を見て、精神に異常をきたしていた、
二人の娘が正気を取り戻した。

やがてリエの家には、悩みを抱え、
どうしてよいか分からない人たちが、
教えを乞いに、訪ねてくるようになった。それらの人たちにリエは、

「病気を治すのではなく、心の病を治せ」と訴え、
のちに有名な社会啓蒙家になったのだ。



世界的ベストセラー『死の瞬間』のなかに、著者キュプラー.ロスが、
医学生のころ、アウシュビッツのユダヤ人収容所跡を見学したときの話しがある。

ロスが見学をおえて収容所の外に出た時、ちょっとした事件が起きた。
一人の見知らぬ少女が、突然近づいてきてロスにこう言った。

「やさしそうな顔をしているけれども、あなただってヒトラーになれるわ」

少女の出現が唐突だったのと、コトバの内容が衝撃的だったので、ロスは
思わず足をとめた。

続く


 

 


人間賛歌 自分の心を変える 七

2007年07月10日 | 自分の心を変える
 前回の続き、

男は高名な学者で、パリ大学の教授だった。
女が暴れなくなったので、もうあきらめたかと思い、
腕の力をゆるめ、女に言った。

「おちつきなさい、死ぬ気でやればなんでもできます。
もし私にできることなら、なんでも力をかしますから、
とにかくおちついて、事情を話してみなさい。
私はパリ大学の教授で、Lというものです。」

女はまだ若い人だった。
香水の匂いが闇のなかに、かすかにただよう。
高ぶっていた感情が通り過ぎたのか、ややおちついた声で、


「どうか助けると思って見逃してください。
私にはどうしても死なねばならない、わけがあるのです。」

と男に言った。
それでも目の前で自殺しようとするのを、見逃す事はできない。
という男に、

女はなぜ自分が、セーヌに身を投げて死のうとしているか、
ワケを語った。

女はパリの下町に住む売春婦だった。
彼女が死なねばならない理由について、ここでは書かないが、
それを聞いて男は、

「かわいそうに、この女は死んで逃れる以外に、
 救われる道はないんだ。」

と思わざるを得なかった。

女の環境は悲惨を通り越していて、男がこれまで生きてきた世界の常識で
は、なすすべがないことを思い知らされたのだ。
男はそれまで掴んでいた女の手を、ソッと離すと、黙ってそこを立ち去った。

翌日のパリ新聞は、

「若い女性の水死体が、セーヌ河に浮かんでいた」

と短く報じた。
不幸な女は男が去ったあと、セーヌに身を投げて、短い一生を終えたのだ。

L教授は、女の死を報じた新聞を見ながら、
どうしょうもない虚脱感に陥った。
いったい今まで自分は、何を学んできたのだろう。
たった一人の女性の命も救えない、自分の学問とは、何だったのか。

疑念と悔恨が、教授の胸のなかに広がった。

続く

人間賛歌 自分の心を変える 六

2007年07月03日 | 自分の心を変える
 前回の続き

 ある日、リエはこれという用事もないのに、
近くを流れる大川の堤防を歩いていた。
夏の終わりごろ、太陽は西に傾いていたが、
光は強く、陽気な気配が残っている。

「いい天気だな」と思い空を見上げると、
大きな雲の固まりが近づいてきた。

川面に写った雲の影にみとれていると、
突然、空が夕方のように薄暗くなった。

どうしたのだろう、前後を見回しても、
明るく輝いていて、さっきと変わっていない。
リエがいるところだけ、雲におおわれ暗くなったのだ。


「まわりはみな明るく輝いているのに、
ここだけが暗い、まるで私の心のようだわ」

リエはこのとき、自分の心の中を見たような気がした。

自分の心が、暗く、惨めで、
苦しいことばかりを造る工場のように思えたのだ。
この工場では、明るい、楽しい、気分がいい、
などの製品は一度も、造ったことがなかった。

そうだ。これではいつまでたってもダメだわ。
いままでとは違う自分にならなくては、
このときリエは重大な決意をしたのだ。


三木リエと似たような境涯で、セーヌ河に身を投げ、
生涯を終えた、フランスの女性がいる。
有名な話だから、聞いた人もいるはずだ。

ある夜、街灯の明かりも届かないセーヌ河の岸から、
河に飛び込もうとする女がいた。

たまたまそこを通りかかった男が、それに気づき、
背後から女を抱きしめ、止めようとした。
女はからだをひねって、男の腕を払おうとするが、
男の力は強く、女の力ではどうすることもできなかった。

続く
 

人間賛歌 自分の心を変える 五

2007年06月28日 | 自分の心を変える

 前回の続き、

リエは夫の最期の願いを叶えてやりたい、と思うが
さきだつモノがないうえ、近所の店はツケがたまっているので、
これ以上売ってくれるとは、思えなかった。

しかたなく彼女は家をでると、走って隣町まで行った。
そこでワケを話し、モチと酒を手に入れて帰ったのだ。

夫は旨そうにモチを食い、酒をいっぱい飲んで息を引き取った。

苦労と名のつくものを、ひとつ残さずかけた夫だったが、
いなくなると、リエの胸に穴があいたようで、
しばらく何も手につかなかった。
子供は、男の子ひとりと、女の姉妹三人で、四人が残された。


夫の死後も苦労はつきなかったが、
歳月がたち、長男が働ける年頃になり、
これで一息つけると、リエはホッとしていた。

長男の仕事先もきまって、いよいよこれからというときに、
突然、長男は首をくくって自殺した。
なぜ死んだのか、書いたものも残さなかったので、
理由はわからなかった。

長男が首を吊って死んだ姿を見て、長女は発狂した。

二女は好きな男がてき、
結婚して幸せにくらしていたが、夫の留守中、
ひとりでいたところを、ヤクザがおそい手ごめにした。
そのうえ手ごめにしたヤクザ男の、めかけにされたのだ。

三女は隣村に嫁にいき、子をもうけたが、
リエが届けた出産祝いが少ないと、シュウトに非難され、
それがもとで気が狂った。

これでもか、これでもか、と不幸がリエをおそうが、
彼女はそれでもケナゲに生きてきた。
いつのまにか歳も五十をこえ、髪に白いものが目立ちだした。

続く

 


人間賛歌 自分の心を変える 四

2007年06月22日 | 自分の心を変える
 自分の心を変えた女性、その一

郷土史家がこれほど悲惨な人生を聞いたことがない。
と嘆息した女性三木リエの例をあげてみよう。

三木リエは中国地方O県のごく普通の家に生まれた。両親ともマジメで、
裕福ではないが不自由でもない、平凡な家庭で育った。
そのままいけば彼女も平凡な普通の生活をするハズであった。

それがふとしたことから旅芸人の男と知り合い、つきあいだしてから環境が
変わった。

やがてコドモができその男と結婚するが、
男は芝居で演じる役と、実生活の区別がつかないグウタラで、

コドモは次々できたが、家庭に給金を入れる常識さえ持ち合わせていなかった。


彼女が働いてかせいだカネでは子を養えず、生まれた子は栄養失調で
二人とも死んだ。
男は芝居の巡業に行くたびに、行き先で女をつくった。

女は仲居あり、人妻あり、未亡人あり、女教師までタラシこんでものにするのだった。

そのうちに男は巡業先でできた女を、
かろうじて留守を守っているリエの家に連れてくるようになった。
これで平静でいられるハズがないが、彼女はグチひとつこぼさず夫に仕えた。

女はそうするものと、教育されていたからだ。
 
そんなリエに男は、

「 おまえのようなクソマジメな女は見たことがない。
たまにはヤキモチの一つぐらいやいて、亭主のムナグラでも取ってみろ、
これじゃあ芝居にもなりはしない。そんな女はだいきらいだ」

と憎まれ口をたたくのだった。

やがて男は荒れた生活が祟って重い病になり、床に伏すようになった。
やせて食もすすまず、もう長くないだろうと思うような容態になった。
そのようなある日、男はリエに、

「オレももう長くないだろう。
死ぬまえに好きなモチを食って、酒をいっぱい飲みたいんだ。
たのむからつごうして来てくれないか」

と頼むのだった。

続く

人間賛歌 自分の心を変える 三

2007年06月15日 | 自分の心を変える
 前回の続き、

人が生きることは、十界の内のどれかを現す行動をすることだ。
自分は人間だから、人間以外のチクショウ界とか、ガキ界とか、
現すわけがない。

と思うだろうが、形は人間でも、心は動物とかわらない人間も
多くいるのだ。

いま世界でおきている不幸な事件は、人間が人間の心を失い、
欲望や、嫉妬、憎しみで行動する動物の心になったためだ。
 と指摘するものもある。


人間は環境によって変わる。人生を決めるのは人間関係だ。
とも言われる。

仏法の生命観は、人間と、それを取り巻く環境をひとつ(一体不二)
と捉える。
人間を本体とすると、環境は本体を写す影の関係だ。
だから人間を変えずに環境を変えることは、あり得ないのだ。

苦悩するジゴクの境涯にいれば、環境(対人関係も含む)もジゴクの
境涯を現す。

「内(人間の内面)と外(環境)の区別はない。内がそのまま外なのだ」

ゲーテの言葉だが、そのとおりだ。

また目のよるところに玉がよる。というが、
同じような境涯のものが集まり、同じような環境のなかで、
それぞれの世界をつくるのが、世間の姿のありようなのだ。

環境を変えたければ、自分を変えればよい。だが簡単なようでこれが
なかなか難しいのである。
人間が自由にできるのは、自分の心だけだ。と言うものもいるが、実際は
心を自分の意のままにすることは、不可能に近いのだ。


ここで自分の心を変えた二人の女性と、心を変えられなかった一人の女性、つごう三人の例をあげてみよう。

自分を変えるにはそれに挑戦する勇気と、困難に耐える忍耐力がいる
ことが、よく分かると思う。

続く