北条小源太 十九
<上人はまだ起きておられるようだ。今のところは静かで何事も起
きる気配はないな、>と彦四郎はつぶやいて立ち止まった。
数年前に念仏の信徒たちが徒党を組んで庵を襲ったときは、山伝い
に逃れられてご無事だったので、今度は山越えで襲って来ることも懸
念されるのだ。
「源八、裏の山のほうで見張ろう。あそこなら庵にくる道のほうも一
目で見渡せるし、山越えで襲ってきてもすぐ分かるのでな」
彦四郎は源八にささやくと身軽に山に入って行った。
星の明かりが樹の間をくぐりながら山肌を這うように登っていく二人
の姿を照らした。
小源太は彦四郎の使者源八の口上で、
「上人はご無事で今のところ不穏な動きが起きる気配はないようで
す。」
という報告を受けると、
「念のため暫くそちらで様子を見るように」
と指示をしておいて大学三郎に使いをだした。
「それがしは仏門に入った手前もあり、古くなっていた法華堂を建て
直したので内々にしゅん工祝いをしたいと思っている。
ついては粗肴を差し上げたいので、今月二十一日に奥方ご同伴でご
来駕願いたいがご都合はいかがであろうか、家内も奥方にあえるのを
楽しみにしているので、奥方にも是非にとお伝え願いたい。」
という内容だった。そして、このあいだの京の酒はおいしかつた。
これは出来合いのものだが、酒の肴にでも、といってアワビの干した
ものを土産に届けた。
続く