叙事詩 人間賛歌

想像もできない力を持つ生命の素晴らしさを綴っています !

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人間賛歌 生命の境涯 八

2006年09月15日 | 生命の境涯
 前回のあらまし

 悲惨な事件が続いて、皆さんもさぞうんざりされているでしょう。
凶悪な男からの教訓を学んだあと、次回から趣向を変えおもしろい展開に
したいと考えています。


 怒りが昂じ  憎しみとなり
相手を害して  恨みを晴らそうと
情念が生じると 自分ではどうしょうもない
怨念の暴流に  押し流される
地獄の境涯の特徴だ

 周りやあとさきの  分別もつかず
ブレーキの壊れた  自動車のように
破滅えの道を  突き進むのだ

 暴力は破壊だ  国どうしが
暴力で争うのが  戦争だ

 「憎しみは 憎しみをもっては なくせない
  憎む心を なくすことで なくせる」

と賢人は言う  だが憎む心を
なくすことは  容易ではない
人を憎む心を  人を不幸にする悪を
憎む心に変えることが
暴力を生む 憎しみをなくすのだ

 これが非暴力主義で 最も勇気のいる行為だ

悪を憎む心は  心を磨き境涯を変えれば
だれにでも  育てられるのだ


 話を死刑判決を受けた  男に戻そう
男はなにをやっても  旨くいかず
人には嫌われ  頼れる親族友人もない
八方塞がりの人生を  送っていたに違いない
 欲望のおもむくまま  女性を犯し

 捕まって   監獄に入れられ
不自由な境涯を嘆き 自分のせいなのに
分からず  相手が悪いと逆恨みし
憎み  やがて復讐心が燃え上がる
その結果  自分も他人も
破滅に追い込んだのだ

男は暴力で欲望を果たし 従わなければ殺す
爬虫類型脳の遺伝情報に 大きく影響を受けたようだ
 
 人間が赤ん坊のとき  なんでも口に入れるのは
爬虫類のときの  名残と言われる
成人するにつれ  卒業するが
男の場合  卒業が遅れたようだ
畜生界の境界のままで
人間らしい  新哺乳類型脳は
一度も使わずに  終ったのだろう
 以上



       

人間賛歌 生命の境涯 七

2006年09月09日 | 生命の境涯
 北海道エル市で  事件のあったころ
東京の下町で  人をおびやかす事件が起きた

婦女暴行罪で  刑務所に入っていた男が
出所後  以前暴行した女性を
探し出し  殺害したのだ

男は女性の  住所や勤め先を調べ
女性が  勤め先から帰宅する
 時刻まで下見し  チャンスを狙っていたのだ



 東京の下町にある  マンションの
五階に住んでいる女性は 
男が待ち伏せていようとは  思いもせず
いつもの通り  帰ってくると
エレベーターに乗り  五階で降りた

 エレベーターホールの隅に  隠れていた男は
いきなり飛び出し  女性の前に
立ちはだかった

 オレの顔を覚えているだろう  

男は  気を失ったように
立ちすくむ  女性に言った

「テメエのおかげで オレは何年もクセエ飯を
 食ったんだ 警察なんかにいやぁがって
  思いしりゃがれ」

男はわめいて  ふところから包丁を取り出し
女性の胸を  突き刺した
急所に  重傷を負いながら
床を這って  逃げようとする

女性のからだに  馬乗りになると
男は  地のしたたる包丁を
背中に  刺し通した

 悲鳴をあげるまもなく 地の海の中で
女性は  絶命した


 隣人の急報で  駆けつけた警官が
男を取り押さえ  殺人の現行犯で逮捕した

 男は取り調べに対し

「あの女が 警察に訴えなければ
 オレは 七年も刑務所に入らなくてすんだ
 あの女が悪いんだ  娑婆に出たら
 復讐してやろうと  思っていたんだ」

と供述した

 男は  無期懲役の判決を受けたが
世論は  猛反発した

 「暴行した女を  探し出し殺すとは
  人間の片隅にも  おけない奴だ
  死刑は当然だ そんな男を生かしておいては
  暴行されても 泣き寝入りして
  警察に訴える 婦女はいなくなるだろう」

と世をあげて反発した
結局  裁判はやり直され
男は  死刑の判決を受けた   つづく

 




 

人間賛歌 生命の境涯 六

2006年09月03日 | 生命の境涯
  前回のつづき

 だいじょうぶ まかしなさい、隊員は目でこたえ、促すように
身構え直した。それを見て、

 女性はそっと  片方の手をはなした
母親の手と  隊員の手が 見えない糸で
結ばれた  糸を伝ってすべるように
落ちてきた  幼児のからだは
隊員の胸に  しっかり受け止められた

 小さいとはいえ  九メートルの高さを
落下したからだは  加速度がついて
かなりな重量になる 隊員は子供を受け止めると
地面に転がって  ショックをやわらげた
見事成功である

 隊員は素早く  立ち上がると
子供のからだを  同僚に手渡し
再び身構えた


 上から 娘の無事を見届けた 女性は
もう片方の手に ぶら下げている
みどり子を  両手でつかむと
からだを  上に向けた
手元が狂わず  落とせるように

 そして  最期にわが子の顔を
ひと目みておきたかったのだ

 ジット子の顔を  見つめたあと
女性は  静かに手を開いた


 小さな  みどり子のからだは
糸を引いたように 隊員の腕の中に
吸い込まれた

 カスリ傷ひとつなく  こうして
二人の子は  助かったのだ

その直後だ  ゴオウ、と音をたてて
突風が吹きつけ 火ダルマになった女性のからだを
九メートル下の地面に  叩きつけた

母親は  わが身を犠牲にして
二人の子のいのちを  守ったのだ
当年二十一歳であったという


 声も出さず  感動をもって
見つめていた  人たちは

 「若いのに エライ子だった ワタシたちは
  あの子に 大事なことを教えられた」

と興奮さめやらず  頬をぬらし くちぐちに
彼女の行為を  褒めたたえた

 愛する者のために わが身を犠牲にして尽くす
菩薩の心が  普通の人間にあることを示し
彼女は逝ったのだ

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