朗読続き、
ロスは気落ちして死後の世界の研究をやめようと思った。
そのような時に、ひとりの婦人がロスを訪ねてきた。
婦人の名はケイト夫人で、ロスがケアした末期患者のひとりであり、
彼女が亡くなってからすでに相当の月日がたっていた。
部屋に入ってきた婦人を一目見て、ロスはおどろいた。
「あなたはまさか、ケイト夫人ではないでしょうね? 」
婦人は、
「はい先生、おどろかせてごめんなさいね。
以前先生のお世話になりましたケイトです。今日は先生にお願いがあっ
てやってきました。」
婦人はロスの座っている机の前に立ったまま、落ち着いた声で言う。
「キュブラー先生、あなたがなさっている研究をやめずに、
これからも続けてください。みんな期待していますから、それを言いたくて
やってきたのです。」
おどろいて口もきけずにいるロスに婦人は、
「助手のロバート先生にも、そのようにお伝えください。」
と付け加えたのである。
注、 助手のロバート先生は牧師で、死後の世界の研究をしているロスの
理解者であり、よきパートナーであった。
ロスは、
「私にはまだよく信じられないが、もし本当にあなたがケイト夫人であっ
たら、助手のロバートあてにメモを書いてください。
あなたが今日訪ねてきたことを、私がロバートに話しても信じてもらえない
でしょうが、
あなたのメモがあれば彼も信じるでしょうから。」
ロスが言うと婦人は、ロスが自分が来た証拠を欲しがっていることを
すぐに理解した。婦人は笑みをうかべて、
「承知しました。」
と言って、ロスが差し出したメモ用紙にすらすらと用件を書き、サインをし
てロスに渡したのである。
ロスが婦人の申し入れを承諾する旨を言うと、婦人は礼を言って部屋を
出ていった。
つづく