法華経の行者 二十四
香は板戸を自分であけると走りながら土間に入って来た。囲炉裏の
側にいる小源太を見つけると、
「あっ、ととさまがおいでじゃ、お魚がいっぱいとれたのよ。
ととさまにも見せてあける、早く来て。」と弾んだ声で言った。
「まあ香、こんなに長い間外にいて、寒くはなかったの。」
とりょうが乱れた髪を手で直しながら言った。
「寒くなんかなかったわ。ととさま、早く来て。」
香はせかすように言った。小源太がどれどれと言いながら土間に行く
と、じいやの仙三がおおきな籠を重そうに持って入って来た。
「これは御前さま、おいででございましたか。」仙三は丁寧に頭を
下げた。
じいやの仙三は、りょうの父親六助が生きていた頃郎党で奉公してい
たが、りょうがこの家に引っ越した折に一緒に来てそのまま長屋に住
んでいたのだ。
「仙三か、達者そうだが寒い時ゆえ、体には気をつけるのだぞ。」
小源太が言うと仙三は、はい、ありがとうございます、と言いながら
籠を傾けて中を見せた。籠の中には鮒やら海老に混じって大きなウナ
ギが白い腹をみせて何匹ももつれあって動いていた。仙三は重そうに
どさりと籠を土間に降ろした。
「これはずいぶん捕れたものだな、仙三、いつもこんなにたくさん
捕れるのか。」
「はい御前、この頃は仕掛けをしておきますとずいぶんたくさん捕
れます。凶作続きで人間さまが飢えているせいか、ウナギめも餌に飢
えているようですぐにかかります」
続く