神なる冬

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コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 神の水

2016-03-01 23:59:59 | SF

『神の水』 パオロ・バチガルピ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

近未来のアメリカを舞台にしたSF。……のはずなんだけど、なんだかメキシコあたりを舞台にしたギャング小説というか、マフィア小説を読んでいる気分だった。

アメリカ西部の帯水層が枯渇するかもという話は知識として知っていても、どうにも実感が無い。やっぱり、水の豊富な地域でしか生活したことが無いからかな。現住所も多摩川水系なので、利根川水系や荒川水系に比べれば、渇水の心配は少ないし。

作中では帯水層が枯渇し、コロラド川の水資源を奪い合う州間抗争が合法非合法裏表問わずに繰り広げられている。その中で、水に富める者はさらに富み、水を失うものは一気にすべてを失うという超格差社会。スラム化したフェニックスを舞台に、失われた水利権をめぐる争いに翻弄される主人公たちを描く物語。

SF的なネタとしては、完全にパイプライン可されたコロラド川が出てくる程度で、科学技術的には目新しいことは出てこない。アメリカの社会がこうなってしまうというところがSF的といわれても、主要舞台であるアリゾナとネバダとテキサスの位置関係すらあやふやという身には、なんとも現実感が無い。

静かに崩壊しつつある現代社会を描いた「第六ポンプ」はともかく、完全に異界化した東南アジアを描いた『ねじまき少女』に比べても、SF的なリアルさを感じられないのはなぜなんだろうか。

なんというか、アメリカが舞台というのが重要なのに、繰り広げられる物語がメキシコや中東、あるいは、砂の惑星デューンが舞台でであっても変わらないような感じがする。

あるいは、水資源の争奪戦が世界の秘密や謎といったことではなくて、主人公たちの物語の背景に周知の書き割りとして設定されてしまっているにすぎないのが問題なのか。

そうは言っても、さすがのバチガルピ。一気に読者を惹き込んでいく力がある。特に、女性たちの強さが印象的。

脅されても暴行を受けても真実に近づこうとするジャーナリストのルーシーも、すべてを失っても必死で生き抜こうとするテキサス難民の少女マリアも、女たちは想像を越えた強さを見せる。そして結局のところ、勝つのは正しさではなくて、強さなんだよね。

リーダビリティは高いし、スリリングでグロくてエグくてエロもあって抜群におもしろい。おもしろいんだけど、それはギャング小説とかマフィア小説としての面白さだった気はする。