『パッチワーク・ガール』 ラリー・ニーヴン (創元推理文庫)
古本消化。
ちょっとまえに、twitter界隈で盛り上がっていたミステリとSFの違いについての議論でも紹介されていた、ラリー・二ーヴン著作のSFミステリー。
月面に面する高級ホテルで、地球の外交官がレーザービームで狙撃される。一命を取り留めたものの、月社会においては殺人未遂は殺人と同等の臓器移植刑送り。
容疑者はその時間に月面に出ていた唯一の存在である、地球出身の美女。彼女の嫌疑を晴らすため、地球の警察官僚である主人公が、超能力を駆使して捜査に挑む。
超能力とは言っても、SFミステリの文脈で紹介されているように、なんでもありの能力ではなく、どちらかというとストーリー上で捜査を簡略化するための透視能力程度。要するに、遺留品探しのため。
ミステリのネタ自体は、古典的な謎解きものでもありがちなものなので割愛。というか、この物語の主眼はそこには無いのではないかと思う。
タイトルの“パッチワークガール”の意味が明らかになる終盤以降がSFとしては本番。
死刑の是非は日本においても議論が絶えないが、この物語の未来設定では死刑の替わりに臓器移植が使われる。最終的には、心臓まで含めて提供して死んでしまうので、死刑にかわりはないが。
そして、過酷な月社会では臓器移植の需要が大きく、臓器移植刑の範囲は次第に大きくなり、殺人や強盗、強姦だけでなく、窃盗レベルでも臓器移植行き。さらに、裁判も簡略化され、どんどん臓器ドナーの供給へと回していく。
冤罪防止のために、6か月間の猶予期間があり、タンクの中で人工冬眠させられ、その間に疑いが晴れればという制度もあるのだが……。
制度というよりは運用に問題があると言い切れればよいのだが、確かに、これは無いよなと思わせるようなディストピア。未来の世界がこうならないように考えていくことは重要なことだ。そして、それを物語として語るのがSFの効用でもある。
「僕にはiPS細胞という武器がある!」と叫んだのはゴン中山だが、中山の現役復帰のためにも、こうしたディストピアの到来を防止するためにも、ES細胞やiPS細胞による臓器培養、臓器移植の実用化が望まれる。
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