森見登美彦10周年記念祭りが肩透しになってから1年。やっと、『有頂天家族』の続編が出版された。実に7年ぶりとは信じられないが、毛玉たちとのうれしい再開である。
サブタイトルに『二代目の帰朝』とあり、矢一郎を始めとする4兄弟は京都に住んでいるのに、いったいどこに帰るのか……。と思いきや、なんと二代目とは赤玉先生の息子であった!
加えて、夷川早雲の長男、金閣銀閣の兄、呉一郎も初登場。こちらももう一人の二代目の帰朝とも言えよう。
そんなこんなで、新キャラも加え、長閑なのか騒然なのか、阿呆の血が騒ぐ物語が繰り広げられる。
『夜は短し歩けよ乙女』で登場した3階建ての叡山電車や、『聖なる怠け者の冒険』のぽんぽこ仮面まで登場し、森見ワールドは京都を飛び出し、琵琶湖のほとりや四国までも飲み込み、さらには遠くイギリスまで手を伸ばす。
長兄、矢一郎はもちろん、次兄、矢二郎にもロマンスの香り。そして、矢三郎の元・許嫁の海星が姿をひた隠しにする理由も判明。父、総一郎と母の馴れ初めなんてものも描かれ、嬉れし恥ずかしの狸たち。
さらには、弁天をめぐる赤玉先生と二代目の三角関係、薬師坊の座をめぐる弁天と二代目のライバル関係が狸界だけでなく、狸鍋の金曜倶楽部をも巻き込んでの大展開。この続きは第3部完結編を待てとは殺生な。
こんなに阿呆でいながら、ここまでハラハラドキドキの大逆転な展開で泣かせるのだから、森見登美彦という作家は侮れない。作家生活10周年記念を飾る最後の作品『夜行』も待ち遠しい。
とにかく、淀川教授のごとく、狸愛が止まらなくなる小説だった。
北海道という最果ての地で育ち、東京というあずまびとが集う地に暮らす我が身にとって、天狗や狸の住む京都はまさに異界。しかし、去年、糺の森まで行ってきたときはあいにくの雨で、狸たちはどこに隠れたのか、出会うことはできなかったのであった。残念。