『S-Fマガジン 2011年8月号』 (早川書房)
特集「初音ミク」。ついに日本SF界でもっとも硬派な専門誌、SFマガジンまでもがみっくみくにされてしまった!
きっかけは、米国トヨタがCMキャラクターに使われたということらしいが、2008年に星雲賞を受賞したり、明らかに初音ミクな小隅レイ(ちなみに、小隅黎は故・柴野拓美のペンネーム)が登場する尻P(野尻抱介)著の『南極点のピアピア動画』が星雲賞を受賞したり、下地は十分にあったわけである。
今回の特集でも、短編掲載は尻Pのほか、ジェバンニP(泉和良)と、MMD杯選考委員も努めた山本弘。SF界にはミク厨、ミク廃が少なからず存在するらしい。きっと今年のSF大会にはミクの部屋があることだろう。
で、まぁ、ミク厨でも無い自分が初音ミクについて語るのはおこがましいので、あんまり語るべきことは無いのであるが。ただ、間違っちゃいけないのは、この特集の想定読者はSFファンであって、ミク厨、ミク廃では無いだろうということ。そこを間違っちゃうと、いらぬ批判を招いてしまいそうなところが心配。
そうは言っても、この特集の起点となるトヨタのクルマから、仮想人格の法律論にいたるまで様々な角度から初音ミクという存在を分析するエッセイ群はかなり読み応えがある。この特集は、近年稀に見る集中度と完成度じゃないだろうか。
最後に、自分が初音ミクに思うことと言えば、その存在がSFかというより、ミームの広がり方という意味で面白い現象だということかな。最終的に、世界で始めて意識を持つ人工の存在は初音ミクになるかもしれない。いまだ、そこまでたどり着いてはいないまでも、そういう存在が生み出されようとしたとき、それを初音ミクと重ねようとする動きは必ずあるだろう。
人工知能を内蔵したアンドロイドとしてのアトム、人間が操作する巨大な兵器=義手・義足の延長としてのガンダム、そして、身体性を持たない仮想人格としての初音ミク。日本の科学者たちが目指すイコン(象徴)が、またひとつ増えた。
△「いま集合的無意識を、」 神林長平
先月の伊藤計劃特集への寄稿を断っていながら、今月この作品を、エッセイではなく読切小説枠で上げてくるというのはいったいどういうことか。しかし、90年代の“SFの冬”を招いた真犯人と言われる神林長平が、このように伊藤を意識した宣言を載せるということは、伊藤がいかにオールドスタイルであるかの証明でもあると言えるのではないか。
で、twitterのID教えて(笑)
◎『喪われた惑星の遺産』 山本弘
金星探査船“あかつき”に積み込まれた初音ミクのイラストが巻き起こす遠未来での感動。科学の先にある物語という位置づけは、まさしくSFの本質。初音ミクという存在に託したミク厨たちの気持ちと、太古からのメッセージを受け止めるエイリアンとの、初音ミクというイコンをはさんだ対話に、どうしてこんなに感動的なのかわからないほどに心を動かされた。
ただ、“あかつき”には金星との再接近でランデブーを成功させ、この小説の軌道にい続けることは無いようにしてもらいたいものだ。
△『DNAの揺らすカーテン』 泉和良
雰囲気はすごく良いのだけれど、それだけ。ただ、この世界はものすごく心地よい。
○『歌う潜水艦とピアピア動画』 野尻抱介
クジラと初音ミク的Vocaroidで会話をしようというアイディアの方が興味深いので、そっちの方面でのオチを期待した。
いずれピアピア動画連作としてまとめるつもりなのかもしれないが、この掲載に限っては小隅レイではなくって、初音ミクで良かったんじゃないか。しかも、そのラストはどうなの、そこからどうするの。その先が読みたいような、読みたくないような。
○『天使』 ピーター・ワッツ
人工知能を積んだ兵器を制御しようとする軍と、兵器“本人”がたどり着く結論。仮想人格の成長と、生みの親からは想像も出来ない暴走という意味では、初音ミク特集に華を添える短編にふさわしい。
特集「初音ミク」。ついに日本SF界でもっとも硬派な専門誌、SFマガジンまでもがみっくみくにされてしまった!
きっかけは、米国トヨタがCMキャラクターに使われたということらしいが、2008年に星雲賞を受賞したり、明らかに初音ミクな小隅レイ(ちなみに、小隅黎は故・柴野拓美のペンネーム)が登場する尻P(野尻抱介)著の『南極点のピアピア動画』が星雲賞を受賞したり、下地は十分にあったわけである。
今回の特集でも、短編掲載は尻Pのほか、ジェバンニP(泉和良)と、MMD杯選考委員も努めた山本弘。SF界にはミク厨、ミク廃が少なからず存在するらしい。きっと今年のSF大会にはミクの部屋があることだろう。
で、まぁ、ミク厨でも無い自分が初音ミクについて語るのはおこがましいので、あんまり語るべきことは無いのであるが。ただ、間違っちゃいけないのは、この特集の想定読者はSFファンであって、ミク厨、ミク廃では無いだろうということ。そこを間違っちゃうと、いらぬ批判を招いてしまいそうなところが心配。
そうは言っても、この特集の起点となるトヨタのクルマから、仮想人格の法律論にいたるまで様々な角度から初音ミクという存在を分析するエッセイ群はかなり読み応えがある。この特集は、近年稀に見る集中度と完成度じゃないだろうか。
最後に、自分が初音ミクに思うことと言えば、その存在がSFかというより、ミームの広がり方という意味で面白い現象だということかな。最終的に、世界で始めて意識を持つ人工の存在は初音ミクになるかもしれない。いまだ、そこまでたどり着いてはいないまでも、そういう存在が生み出されようとしたとき、それを初音ミクと重ねようとする動きは必ずあるだろう。
人工知能を内蔵したアンドロイドとしてのアトム、人間が操作する巨大な兵器=義手・義足の延長としてのガンダム、そして、身体性を持たない仮想人格としての初音ミク。日本の科学者たちが目指すイコン(象徴)が、またひとつ増えた。
△「いま集合的無意識を、」 神林長平
先月の伊藤計劃特集への寄稿を断っていながら、今月この作品を、エッセイではなく読切小説枠で上げてくるというのはいったいどういうことか。しかし、90年代の“SFの冬”を招いた真犯人と言われる神林長平が、このように伊藤を意識した宣言を載せるということは、伊藤がいかにオールドスタイルであるかの証明でもあると言えるのではないか。
で、twitterのID教えて(笑)
◎『喪われた惑星の遺産』 山本弘
金星探査船“あかつき”に積み込まれた初音ミクのイラストが巻き起こす遠未来での感動。科学の先にある物語という位置づけは、まさしくSFの本質。初音ミクという存在に託したミク厨たちの気持ちと、太古からのメッセージを受け止めるエイリアンとの、初音ミクというイコンをはさんだ対話に、どうしてこんなに感動的なのかわからないほどに心を動かされた。
ただ、“あかつき”には金星との再接近でランデブーを成功させ、この小説の軌道にい続けることは無いようにしてもらいたいものだ。
△『DNAの揺らすカーテン』 泉和良
雰囲気はすごく良いのだけれど、それだけ。ただ、この世界はものすごく心地よい。
○『歌う潜水艦とピアピア動画』 野尻抱介
クジラと初音ミク的Vocaroidで会話をしようというアイディアの方が興味深いので、そっちの方面でのオチを期待した。
いずれピアピア動画連作としてまとめるつもりなのかもしれないが、この掲載に限っては小隅レイではなくって、初音ミクで良かったんじゃないか。しかも、そのラストはどうなの、そこからどうするの。その先が読みたいような、読みたくないような。
○『天使』 ピーター・ワッツ
人工知能を積んだ兵器を制御しようとする軍と、兵器“本人”がたどり着く結論。仮想人格の成長と、生みの親からは想像も出来ない暴走という意味では、初音ミク特集に華を添える短編にふさわしい。
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