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[SF] ファントマは哭く

2009-11-25 23:19:46 | SF
『ファントマは哭く』 林譲治 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)




林譲治は現在の日本で最高のハードSF作家といえるだろう。あくまでも、“ハードSF”の分野でなのだが。
その林譲治の代表作、《AADD》シリーズの最新作。

冒頭、いきなり既視感のあるシーンからスタート。これって短編で、出てなかったっけ?
調べたら、「大使の孤独」(S-Fマガジン2007年4月号、『年刊SF傑作選 虚構機関』にも収録)ですね。
でも、なんだか雰囲気が違う。こんな話だったっけ……と思っている間に、事態は急速に展開していく。

ダークマターとは何か、生物の本質とは何か、といった大きなSFネタ。
地球人-異星人間、地球人-地球人間、異星人-異星人間のコミュニケーション/ディスコミュニケーションの物語。
人類の愛と家族関係のエピソード。

大きな物語から小さな物語まで広がるこの小説ではあるが、やはり大きな物語に注目するほど評価が高くなり、小さな物語に注目するほど評価されない小説なのかもしれない。良くも悪くも、これがハードSF。

小さな物語だけでも、SFネタがわからない読者にまでアピールできるほどになれば、意に反して「これはただのSFではない」という決まり文句とともに紹介されるようになるのだろうが……。

今回は特に大ネタが3つぐらい重ねてあるが、それぞれが有機的に(比喩よ!)結びついておらず、独立した事象になっているように見えるところがマイナスか。ただ、謎解きミステリとして見た場合には、うまいミスリードと言えるのかもしれない。

どうせなら、心情描写とか処理過程の推測抜きに、観測事象だけをクールな文体で積み重ねたほうが、林譲治の凄みが出るような気がするのだが、どうだろう。日本のレムみたいにはなれないだろうか。

それはさておき、個人的にはファントマの行動原理が、頭では理解できても納得がいかない。
ネタバレになってしまうが、あえて書く。

〈ネタバレ注意報〉











(1) 傷つければ痛いからこそ肉体を実感することが出来る。
(2) 傷つければ痛いのが自分の領域。
(3) 殴れば痛いのが自分の身体。
(4) 殴れば殴り返される(と痛い)のが自分の身体。

(1)は明らかに自傷の問題をはらんでいるのだが、これをSF的に拡張していくという思考はわかる。しかし、どう考えても(3)→(4)に論理の飛躍がある。ただ、(4)の状況を甘えに対する愛のムチと強引に解釈すれば、まぁわからなくは無い。家族を自分という領域の中に収めてしまうことができる。

とはいえ、道の真ん中で無差別に通行人に殴りかかって、殴り返されたら仲間、とかいう状況は、まったく理解不能。どこの友情マンガだ、そりゃ。

地球産のAIが異星人のAIと交じり合って狂ったとはいえ、狂い方がおかしい。というか、上記のような間違いを犯すには、必用な認知レベルが高すぎる。わかっていて、詭弁レベルで言い訳をしているようなイメージがする。

うーむ。なんだろう。単純に感想として納得できないという以上に、何かがひっかかっているのだが、それが何なのか自分でも良くわからない。

大きい話だけを見れば、ある意味感動的な物語(の序章)ではあるのだが、この件がどうしても引っかかる。
Webで感想を探してみたんだけど、同じ処に引っかかりを持っている人は見当たらなかったので、個人的な問題なんだろうか。



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