神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 覇者と覇者

2008-12-14 18:16:01 | SF
『覇者と覇者 歓喜、慙愧、紙吹雪』 打海文三 (角川書店)



これをSFとして読んでいいのかはさておき、『裸者と裸者』、『愚者と愚者』に続く、著者急逝による未完のシリーズ最終巻。読めるとは思っていなかったので、まずは読者として喜びたい。

軍部クーデターから始まる日本国の内戦。その中を生き抜いた孤児達の壮絶な20年。かといって悲壮なだけでなく、能天気で無責任で無邪気な、ある意味お祭りのような20年。その中で子供たちは成長し、あるいは、狂っていく。

この最終巻で内戦は一応終結し、主人公、海人は孤児達の再就職先を探し、椿子は経済の復興を試みる。そこに立ちはだかるのは、内戦を引き起こした男根主義者でマイノリティ差別者の腐れチンポ野郎共。完全なる平和が訪れる前に、“(未完)”の印とともに物語りは終わってしまう。

これは戦争小説ではない。腑抜けたニッポン人をソマリアのような泥沼の内戦状態に突っ込んだらどうなるかという思考実験であり、人種差別、女性差別、性的マイノリティ差別に反対するアジテーションであり、乾いた暴力小説である。

暴力や売春が当たり前のように描かれるが、主人公達は自分達なりのルールを守る。それは一概にアンモラルとかそういった言葉で片付けられるものではない。悪党になるか、狂うかしなければ生きていけない世界もあるのだ。その世界描写は、平和な現実を生きる我々の常識を大きく揺さぶる。

“予言のような、祈りのような……”というのは帯の言葉。主人公、海人が語った将来の夢を指すのだろうが、このシリーズ全体が、日本に対する予言のような、祈りのような作品にも読める。あるいは、これが予言とならないようにという祈りのような……。


そんなことを考えながら読んでいたら、ダブルオー見るのすっかり忘れてた!!!


最新の画像もっと見る

コメントを投稿