『THE FUTURE IS JAPANESE』 伊藤計劃+円城塔+小川一水・他 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
アメリカで出版された日本テーマのアンソロージーを逆輸入。しかも、それを日本SFのレーベルであるJコレクションで出版してしまうという暴挙(笑)
著者クレジットは日本SFを代表する3人の表記だが、これに加え、飛浩隆と菊地秀行。さらに、ブルース・スターリングをはじめとする英語圏作家の邦訳を含む短編集。
ロボットアニメ風なものから、日本というよりは中国風なものまであり、アメリカ人の日本に対するイメージが読めてなかなか興味深い。しかし、好みの問題もあるのだろうが、SFとして面白かったのは、やはり日本作家陣の作品。
これらの日本人作家の作品がどのようにアメリカで評価されるのかが気になるところ。伊藤計劃がフィリップ・K・ディック賞の特別賞を受賞したのは記憶に新しいが、個別の作品に対する評価も聞いてみたい。
特に、小川一水の「ゴールデンブレッド」のような、あまりにストレートすぎる文化の交換に対して拒否感や反発は無いのか、とか。
英語圏作家では「別れの音」と「樹海」が、日本人が読んでもまったく違和感の無い感じで良かった。その他の作品も、こういう企画なので日本的にどうこうという感想になってしまいがちなので、別なアンソロジーで読んだら、また別な感想になるかも。
日本は英語圏以外で世界中のSFが読める稀有な土地だそうだ。それもこれも、翻訳者の方々のおかげなのだが、日本SFの輸出もどんどん広がって欲しいと思う。
○「もののあはれ」 ケン・リュウ
滅亡に瀕した地球での、日本人の静かさが印象的。やっぱりこういうイメージ。
自己犠牲も日本的なものなんだろうか。少なくとも日本人は大好きみたいだけどね。カミカゼ特攻的な皮肉というわけでなく。
それにしても、著者名がストⅡみたいだ。
○「別れの音」 フェリシティ・サヴェージ
まるで日本人が書いたような日本的SF小説。最近話題の生活保護問題とかもちょろっと出てくるし。と思ったら、東京在住なのか。
○「地帯兵器コロンビーン」 デイヴィッド・モールズ
今度はアニメのノベライズ風。『ダイナミック・フィギュア』かと思った。
◎「内在天文学」 円城塔
「Self-Reference Engine」系。人類ではなく、ほかの何かの存在によって観察され、量子の雲から生み出される世界。
それでもやっぱり、少年は少女を追って冒険に出かける。このテーマは円城的ライフワークなのかも。
○「樹海」 レイチェル・スワースキー
ファンタジックホラーな舞台としての青木ヶ原の紹介小説のようだ。日本的ユウレイも西洋の人には新鮮なのかも。
それにしても、ここまでちゃんと理解しているのはJホラーのおかげですかね。
△「素直に言えば」 パット・キャディガン
素直に言えば、わかりません。
◎「ゴールデンブレッド」 小川一水
文化交換による露骨なIF小説。どんどん欧米化してきた日本人にとっては違和感はないが、アメリカ人から見るとどうなんだろう。
日本文化の紹介としては面白いかも。
△「ひとつ息をして、ひと筆書く」 キャサリン・M・ヴァレンテ
まったくわからない。詩?
しかも、微妙に日本理解を間違ってる系。どちらかというと中華ファンタジー。
△「クジラの肉」 エカテリーナ・セディア
捕鯨関係でいろいろ間違った理解をしている。こんな誤解を広めないでほしい。
しかし、ある意味これもアメリカ人の日本像なのだよね。
○「山海民」 菊地秀行
あまり日本を意識してない。そして、菊地秀行っぽくもない。まぁ、普通。
○「慈悲観音」 ブルース・スターリング
対馬を舞台とした一種の歴史改変小説なのだが、どうなんだろうこれ。スターリングがどのあたりを日本的と考えたのかがよくわからない。佐藤さんと海賊女王の対比なのか?
◎「自生の夢」 飛浩隆
日本的な、というよりは、最良の日本SF短編の紹介。このネタは世界に通じると思う。
間宮の存在が日本的な側面、大仕掛けのネタはGoogleからのインスパイアとして世界的な側面。ふたつの面白さを両立させているあたりが、輸出すべき日本SFとして最適。
-「The Indifference Engine」 Project Itoh
伊藤計劃は英文のまま収録。読めねぇ……。
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