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[SF] ヒトラーの描いた薔薇

2017-09-07 23:31:44 | SF

『ヒトラーの描いた薔薇』 ハーラン・エリスン (ハヤカワ文庫 SF)

 

エリスンの日本第3短編集。これまでまったく出なかったのに、『死の鳥』に続いての出版。

しかしながら、ケチャドバ現象というよりは、『死の鳥』が好評だったせいで、慌てて二匹目のどじょうを狙ったでしょう的な感想を持ってしまう。作品を新しく集めましたというより、前回の残り物ですがという感じがするのは仕方がないのか。

なんだか前二冊に比べ、社会的というか、文学的というか、とらえどころの無さを感じた。テーマが直接的すぎると、敢えて裏読みしたくなるというか、その表象は本当にそのものを描いているのだろうかとか。読んでいて解釈に迷う。

短編の扉それぞれにコピーライトが記載されていて、80年代以降に“Renewed”とされているものが多いのだけれど、『死の鳥』以上に古臭さを感じてしまったのは、このあたりの社会的テーマが、そのままでは古臭くなってきているのかも。

中心となるネタや思想は普遍的なものであっても、その切り口は聞き飽きたぐらいのものになってしまった。特に差別関係は、最近だとそういう露骨なモノではなく、もっとオブラートに包みつつも苛烈なモノだったりしないだろうか、とか。

大野万紀の解説で“エリスン神話”と名付けられている怒りの神話に関しては、なるほど、言えて妙だ。社会に対する怒りがこの世界を作った神へと向かうというのは、日本人的宗教観だとなかなか共感はできないのだけれど、エリスンの作風を通してみると、かえってそれが理解できるような気がする。

WEB本の雑誌で牧眞司が平井和正を引き合いに出しているのも、なんだか納得。確かに、『狼男だよ』あたりは、いわゆるエリスン神話に近いのかもしれないし、神への怒りと否定を後期の作品にもつなげるのも容易そうだ。



○「ロボット外科医」
かび臭くて古すぎ。しかし、人工知能脅威論に見えて、人工知能はあくまで手段という論点は、現代よりも進歩的。

○「恐怖の夜」
露骨すぎ。と思ったけれど、1961年はこういう社会だったのだという(すでに)歴史小説。

○「苦痛神」
人生は苦痛に満ちている。ゆえに、神は苦痛を与える存在である。まったく、何の疑問も無い。そして、涙は幸福である。

○「死人の眼から消えた銀貨」
えーと、この主人公って誰?

○「バシリスク」
理不尽な群衆は、ネットのなかで山ほど見かける。

○「血を流す石像」
その時代の背景込みでないとわけが分からないし、一方的な攻撃に過ぎない。

○「冷たい友達」
こういうのが“愛なんてセックスの書き間違い”ってこと?

○「クロウトウン」
「失われたものが行きつく国」というモチーフの模範回答。

○「解消日」
和訳に苦労した割には、アイディア倒れに作品に見えるんだけど……。

○「ヒトラーの描いた薔薇」
地獄に行く者と天国に行く者を取り違えたドタバタの脇で、静かに薔薇を描き続けるヒトラー。つまり、彼にとっては、そういうことはまったく意味が無い。

○「大理石の上に」
うーんと、プロメテウス? おまえら失敗作なんじゃ糞ボケ的な?

○「ヴァージル・オッダムとともに東極に立つ」
この短編集の中で最もSF色が強く、最も美しい情景の作品。ある意味、最もエリスン的では無い作品かも。

○「睡眠時の夢の効用」
この短編集の中で最も新しい作品。タイトルに関係する議論と、主人公が吹き出しているものとがいまひとつ整合性がつかない。向きも逆じゃないかと思うんだけど、何か読み間違えてる?

 



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