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[SF] パラダイス ―楽園と呼ばれた星

2011-04-24 12:20:50 | SF
『パラダイス ―楽園と呼ばれた星』 マイク・レズニック (ハヤカワ文庫SF)


『キリンヤガ』だけが有名になってしまったけれど、レズニックのアフリカ物は『キリンヤガ』だけではない。『パラダイス』もその一冊なのだけれど、残念ながら品切れ中。


ペポニ。スワヒリ語でパラダイスという意味の言葉を名づけられた星の、わずか1世紀における急激な変化の歴史の物語。

生態系破壊、原住部族の武装蜂起、独立と経済危機、そして、暗い闇へ続くように見える未来。

最初は、楽園のような惑星へ移民してきた人類が、この惑星の生態系を破壊してしまう、反自然破壊の話かと思った。しかし、ページが進むにつれ、それだけでは終わらない人々(人類も、原住部族も)の思いや、経済の問題を思い知らされる。

この小説の体裁は、主人公がペポニの人々へインタビューする形式になっている。そして、主人公は、彼らの言動を批判する訳ではなく、的確に、客観的に、受け止めていく。そのため、読者もランドシップを狩り尽くすハンターや、虐殺事件の関係者に過剰な怒りを覚えることなく、何が起こったのかということを知ることになる。

怒りや批判に溢れた物語の方が、わかりやすく、受け入れやすいのかもしれない。しかし、この物語を読んで受ける感情は、哀しさや残念さであって、怒りではない。彼らが何故そうしなければならないのかということを、痛いほどに感じてしまうからだ。

そしてまた印象深いのは、彼らは誰もが一つ前の世代のペポニを、美しいと賞賛し、懐かしんでいる。ハンターは植民開始当時を、女流作家はハンターたちが生きた暮らしを、独立後のホテルオーナーは女流作家が描いた平和な日々を……。

しかし、その懐かしき日々は、昔話の中にしか存在しない、美化された楽園の世界でしかない。誰もが憧れる楽園など、そこには存在せず、ただ、厳しい暮らしがあった。


そしてこれは、実在するケニアという国を露骨に喩えた話でもあるのだ。

貧しい子供たちのために募金をしましょう。それだけでは何も変わらない。経済投資をしましょう。しかし、その利潤はいったいどこに吸い上げられているのか。現代アフリカの問題は、やはり暗い未来へ吸い込まれていくのか。

そしてまた、311後の視点で見れば、東北の経済復興を考えたときに、決してひとごとではない問題になるかもしれない。


この物語はケニア篇で、さらにジンバブエ篇とウガンダ篇があるらしい。訳されていないのは、あんまりおもしろくないからのかなぁ。




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