『アンドロイドの夢の羊』 ジョン・スコルジー (ハヤカワ文庫 SF)
言わずと知れた『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』にインスパイアされたSF小説。……のはずだが、もはやディックとは無関係に思える。
ニセモノがテーマとなる一連のディックの作品へのオマージュというより、作中でそれらにインスパイアされて三流SF作家がでっち上げた預言書が最終的な鍵になる物語なわけ。
ディック的な現実崩壊感というよりは、ヴィネガット的なスラップスティックでちょっとブラックなコメディSF。
いきなり冒頭から異星人との貿易交渉を意図的な“屁”でぶち壊すというエピソードから始まり、異星人に不幸なニュースを伝えるのが仕事の外交官、時代遅れとなったコンピューターを無理やりネットワークにつなげるのが仕事のエンジニア、羊から生まれた女、進化した羊を作ることが教義の謎教団、修行の旅に出ている異星人、挙句の果てにネットワーク人格もどうしたこうしたで、時にスリリングに、時にグロテスクに、そして、時にユーモラスに、地球の命運をかけた冒険と謀略劇が繰り広げられる。
最近、面倒くさい小説やら映画が多かったので、これは何も考えずに読めてとても楽だった。たまにはこういうのを読むのも良いものだ。
しかし、売り方はもうちょっと考えた方がいいかもね。こんな話だとはまったく思わなかったから。表紙に横山えいじを使っておくとかさ。
そういった意味では、“アンドロイドと羊”というモチーフに対して壮絶なイメージを植え付けたP・K・ディックと、リドリー・スコットは偉大だよな。
パロディとしては、ブライアンかロビンにフォークト=カンプフ試験を受けてもらうくらいのサービスがあってもよかったと思うのだけれど。
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