神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] ニルヤの島

2014-12-16 00:10:01 | SF

『ニルヤの島』 柴田勝家 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

 

復活したハヤカワSFコンテストの第2回大賞受賞作。著者の柴田勝家は風貌やたたずまいがあまりにも“武士”なためにネットでも話題騒然。

SFマガジンの著者インタビューなどを読んで、著者のキャラクターだけでなく、作品も面白そうだなと勢い込んで読み始めたのだが、困ったことに、俺の苦手なタイプの小説だった。

近未来を舞台としてSF的ガジェットがふんだんに使われているわりに、かなり人文科学よりのSF。

4つのパートが交互に語られる形式になっているのだが、このパートどうしのつながりがわかりづらい。

はじめのうちはケンジ=タヤだと思っていて混乱したし、タヤに関わる少女も複数いるし、そうすると、少女の母親も当然のように複数いるわけで……。しかも、別名、仮名、襲名の罠が仕掛けられている気がする。いや、読み間違っただけなのかもしれないけど。

そもそも、生体受像とか、主観時間とかとやらで時間軸が入り乱れているせいで、どことどこがつながっているのかわかってくるのは、本当に終盤に入ってから。

途中までは五里霧中の中、手探りで進んでいるうちに、サーッと霧が晴れていく感じは悪くないのだけれど、あまりに不親切で、途中脱落する読者は少なくないんじゃないか。

DNAによる演算処理の理屈はよくわからなかったが、これはただの文学的装置だと思っていいんですかね。科学的にあり得るかどうかは別として、そういうものだと受け入れろと。

そういうガジェットよりも、ひとの意識が主観時間として再生可能ならば、そして、その体験をミームとして他人に移植可能ならば、この物語を再生しているのが誰なのか。

もしくは、これを再生しているのが“読者”だとするならば、なぜこれを再生(たとえば、伊藤計劃の『ハーモニー』みたいに)させているのか。

というところに興味があったのだけれど、最終的にはテーマそのものに直結した、悪く言えば、そのまんまじゃないかというところに落ち着いてしまった。

テーマとしては科学技術の進展に伴う天国と地獄の喪失と、新たな死後の世界の獲得をミーム(模倣子)を絡めて描いた作品ということになるのだろうけれど、なかなかこのテーマに共感しづらいところがなんともかんとも。

興味深くはあるのだけれど、熱狂的に惹きつけられるわけではないという感じ。

結局のところ、複雑に絡み合った物語の構造を解き明かすというパズル的な読み方しかできなかったのは、著者にとっても残念なことでござろう。

 


[SF] 突変

2014-12-16 00:04:16 | SF

『突変』 森岡浩之 (徳間文庫)

 

ある区域内だけが突然裏返り、裏地球へ移動する。これが突変現象。この異変に見舞われた人々の顛末を描く物語。なわけだが……。

ハリウッド映画ならば、裏地球の凶悪な生物に対し、ショッピングセンターに立てこもってドンパチやるのが定番。そして、仲間割れの果てに主人公家族だけが外の世界に出て行ってサバイバルを始めるとか(笑)

ところが、この物語ではそうはいかずに、なんとも日本的な展開。

過去に発生した突変現象を元に、法律で定められた銃器管理者が、頼りなかろうがニートだろうが美少女好きだろうが、ここでは唯一の正義。

しかも、法律で想定されたよりも変異範囲が狭かったために、統率をとるはずの地方自治体は範囲外でついてきておらず、町内会長が責任者に祭り上げられる始末。最大の物資管理者であるスーパーマーケットの店長も、責任逃れに汲々とする状況。

唯一の希望は、予備環境警備官である家事代行業の女性スタッフぐらい。

そこに救助として現れたのは、以前に突変現象に巻き込まれて、裏地球に移動していた関西地域の商人。彼らは独自に法律を作り、会社が会社員になるという連名会社を組織し、独自の経済圏を作り上げていたのだ。

と、使い古されたテーマでありながら、ちょっと意外な展開を見せる物語。さらに結末へ向けてもうひと捻りあって、なかなか感動的なエンディングを迎える。

とはいえ、彼らの困難はこれからなのだろうけど……。

個人的には、最初に何の準備も無く突変に巻き込まれ、多大な犠牲を出した久米島で何が起こったのかの方が、読みたいような、怖くて読みたくないような。

生存者の一人である伏原の言動の端々から推測される悲惨さ、悲壮さと、酒河市花咲ヶ丘3丁目町内会のまだまだ日常の延長にあるギャップは注目すべき。

テーマは家族ということなのだろうけれど、さて、伏原の家族は……。