神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] あがり

2014-07-27 15:59:21 | SF

『あがり』 松崎有理 (創元SF文庫)

 

第1回創元SF短編賞受賞作を表題作とする連作短編集。北の街の蛸足大学を舞台に、すこしふしぎな話が繰り広げられる。

この大学、紹介文だけだと北大に見えるけれども、おそらくは東北大。仙台で北の果てとか、積雪が大変とか、北海道舐めてんのか!

というのはさておき……

表題作の「あがり」はさすがの第1回創元SF短編賞受賞作。あの宮内悠介を抑えて正賞を受賞しただけのことはあるぶっ飛びの正統バカSF。しかし、それ以外は、大学の研究室やその周辺を舞台とした理系小説とでもいうべきもので、SF成分はかなり低め。

連作をつなぐネタとなっている通称「出すか出されるか法」は架空の法律であり、これが物語を誘発するトリガーとなっているものの、描かれる顛末からは現実の大学研究室を取り巻く悲哀が見えておもしろい。でも、やっぱりSFじゃない(笑)

宮内悠介は『NOVA』に投稿するにあたり、大森望に鍛えられて徐々にSF作家になっていった(?)ようだが、幸か不幸か、松崎有理にはそういうことは起こらなかったようだ。この初短編集に収録された作品の初出もミステリ系の雑誌が多く、今後はそちらの方面に向かうんじゃないか。

実はこれはすごいことだと、今さらながら思うのだ。

かつてSFの冬と呼ばれた時代にはSFの新人賞は姿を消し、優秀な作家は、たとえ、万が一、もしかしたら、SFの素養があったとしてもホラーやファンタジーの賞に応募するしかなく、そこからホラー作家やファンタジー作家に育てられていった。ホラー大賞受賞者の中井拓志は絶対にSF作家としてデビューすべきだったと思うし、貴志祐介だって『新世界より』だけじゃなく、もしかしたらもっとSFを書いていたかもしれない。

しかし、2010年代は違うのだ。非SF圏の作家の卵が、こぞって(?)SFの賞を目指すのだ。そして、直木賞候補にもなるような作家が、自覚的にSF作家になってくれようとしているのだ。これは本当にすごいことだ。

松崎有理も、おそらく非SF的な活動が増え、桜庭一樹あたりのポジションを狙えるのではないか。

そうなった場合でも、札幌サポが元コンサドーレ札幌のブラジル代表フッキを応援するように、SF出身の作家として応援していきたいと思う。(迷惑?)