神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] SFマガジン2014年3月号

2014-02-13 22:29:45 | SF

『SFマガジン2014年3月号』

 

今月号は、恒例の2013年度英米SF受賞作特集。

ヒューゴー賞長編部門は、なんとジョン・スコルジーの『レッド・スーツ』。まぁ、SFファンが好きそうなネタではあるよね。タイムリーに新☆ハヤカワ・SF・シリーズからも邦訳が刊行されたので、そのうち読む。

ネビュラ賞長編部門はキム・スタンリー・ロビンスンの『2312』。こっちは創元SF文庫から出る模様。あれ、『グリーン・マーズブルー・マーズ』は?(お約束)

ケン・リュウ(notストⅡ)はヒューゴー賞短編小説部門で2年連続の受賞。中国生まれで米国在住の作家が描く日本文化という、まことに回りくどい作風で、今年のSFマガジン読者賞も受賞。個人的には、あざとさが見える泣かせ系なので、あんまり好きじゃないかも。

今月号の掲載作の中では、「スシになろうとした女」と「没入」の両方に関して言えることなのだが、書いてあることもテーマも理解できるのだけれど、いまひとつ面白くない。当然、好き嫌いの問題だったり、訳文の問題、さらには読んだ時の体調も影響しているのだろうが、読んでいてまったくワクワクしない。なんだろうね、この感じ。

これに限らず、SFマガジン掲載作品の方向性が、なんとなく期待する方向とは逆の方向へ変わって来たような気がする。読者賞の受賞作品を見ても、国内、海外、どちらも自分がSFとしておもしろいと思った作品ではないようだ。なんか個人的に好みがズレてきたなぁと感じる。

最近、ボルダリングのやりすぎで、体力的に疲れて頭が回ってないせいか、小難しい話が頭に入ってこないのかもね。

他には、神林長平の『絞首台の黙示録』が連載第2回。そこでプロローグとそうつながるのか。エピローグまで出てこないと思ったので、ちょっと予想外。

珍しいコミック連載の『ニュートラルハーツ』も第2回。初登場時のインパクトはなくなったが、ここからどう展開していくのか期待。

小特集の『マイティー・ソー』はコミックも映画も観てないので、よくわかりません。マーベルも、あんまり世界が大きくなりすぎると、後から追いかける気にならなくなりそう。

 



○「スシになろうとした女」 パット・キャディガン/嶋田洋一訳 (ヒューゴー賞/ローカス賞ノヴェレット部門受賞)
スシっていったいなんじゃらほいと思って読んでいたのだが、宇宙開拓用の身体改造で水棲生物に模する必要性がよくわからなかった。テーマとしては人種差別の問題というよりは、南北問題がクローズアップされているんじゃないのか。しかし、その文脈で、スシ???

○「没入」 アリエット・ドボダール/小川隆訳 (ネビュラ賞/ローカス賞ショート・ストーリー部門受賞)
こちらはバーチャルな人体改変ともいうべきアバターの話。うーん、菅浩江『誰にみしょとて』を読んだ後だと、このテーマは浅いような気がする。あ、“なりたい自分”が文化的に侵略されているということなのか。いまいちよくわからん。

○「九万頭の馬」 ショーン・マクマレン/小野田和子訳 (アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞)
これはオーソドックスで楽しいスチームパンク、というか、歴史科学小説。第二次世界大戦前に、ミサイル(的なもの)が線路上をかっ飛んだかもしれないというお話。天才女性数学者が1+1もわからない無学なメイドの振りをして、お屋敷へスパイに入り込むという設定がおもしろい。

×「二十鼢と人間」 深堀骨
 これを面白いと思う読者がいるであろうことは理解するけれども、どうにも乗り切れない。本田博太郎にも思い入れはないし、八千草薫(じゃないけど)にも思い入れは無いし……。作風はこんなでも、ちゃんとSF的なオチを付けてくれれば評価するんだけれど。

 

 


[SF] パラークシの記憶

2014-02-13 22:27:04 | SF

『パラークシの記憶』 マイクル・コーニイ (河出文庫)

 

なんと、かの名作『ハローサマー、グッドバイ』の続編。続編といっても、数十世代後の話で、ふたたび厳しい凍期が訪れる頃の話。

主人公たちパラークシの人々は、祖先からの記憶をずっと持ち続けており、記憶は失われることはないという設定になっている。『ハローサマー、グッドバイ』にそんな設定があったっけと思っていたのだが、やはりこれは今回からの新しい設定。そして、これも作品中で解かれていく謎のひとつ。

これはSFであり、ミステリーであり、何より、少年の恋と成長を描いた青春物語である。そして、すべての軸において、名作といえるほどの素晴らしい小説だ。

主人公ハーディの父が殺された事件の謎をめぐるミステリーが物語の牽引役になっているが、それ以上に、この惑星の成り立ちや原住生物の進化の理由、さらには、前作ではほとんど魔法扱いされていたロリンの秘密までもがSF的な論理のもとに明らかにされる。このすべての伏線が一気に収束し、すべての謎が解明されるという様子が実に気持ちいい。

前作から、あまりに瑞々しい初恋の描写のせいで青春小説としての抒情的な部分が大きく取り上げられがちなのだけれど、このシリーズは最初からかなりハードなコアSFだったのだ。それが、今回はさらに輪をかけてSF度が濃くなっている。にもかかわらず、物語は一見、ミステリーだし、初恋の甘酸っぱさは前作同様(いや、前作を超えてラヴラヴハリケーン状態)だ。それでも、実はこれが超弩級のSF大作だったとは、読み進める途中まで気付けなかった。

なんだか、あまりに内容の無い感想になってしまっているが、なにしろ伏線のひとつでも、これが伏線として紹介しようものならば、謎が明らかになった時の驚愕が衰えてしまう。

いったい、何が解かれるべき謎なのかについてすら、ネタバレになるという恐ろしい小説。とにかく、SFファンでなくても、『ハローサマー、グッドバイ』から続けて読むべし。