『デモン・シード [完全版]』 ディーン・クーンツ (創元SF文庫)
積読消化。ちょっと古めの本かと思っていたけど、実は1997年。思ったよりも新し目で、コンピューター系の記述も無理がない。実は映画化もされた1973年の作品をもとにした完全新作だとのこと。
自意識を持ってしまった人工知能がハウスコンピューターを乗っ取り、主人公の女性を拘束する。手下は脳内チップを埋め込まれた死刑囚。人工知能の最終目的は、遺伝子を改変した受精卵によって女性をはらませ、生まれた子供の身体を乗っ取るというもの。
SFホラーとしてはスリリングな恐怖感を与えてくれる名作。のはずなんだけれど、個人的には滑稽な感じが強くて、ブラックジョークに感じられた。
とにかく、この人工知能(自称プロメテウス)の性格がひどすぎる。
自信過剰、自意識過剰、自己中心、男尊女卑、誇大妄想、中二病の社会病質者。冷静で論理的な、まさにコンピュータのような言動をしながら、唐突に感情的になったりする様は、どうしても人工知能には見えない。そもそも、生まれた子供の身体を人工知能がどうやって乗っ取るつもりだったのかも不明で、まるでただの狂人。実は自分がコンピューターだと思い込んでいる狂人だったというオチを予想してしまったくらい。
冷徹なコンピューターと、意図不明な狂人のどちらが“怖い”かといえば、深く考えれば狂人の方が怖いような気がするので、そこはクーンツの選択は正しいのかもしれない。
どちらかというと、この人工知能はモテない男性の悪趣味なカリカチュア。どうせ男ってこんなものだろうという皮肉、もしくは風刺にも思えるが、これを書いているクーンツも立派な男性。
著者あとがきでは男性に対する皮肉だと明言しているが、逆に言えば、女って男のことをどうせこんな嫌な奴だと思っているんでしょというメッセージにも読めるところがおもしろい。