神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 永遠の夜

2012-12-17 23:09:53 | SF

『永遠の夜』 ギレルモ・デル・トロ&チャック・ホーガン (ハヤカワ文庫 NV)

 

ギレルモ・デル・トロがTVドラマ用に原案を書いた〈ストレイン〉が3部作となってやっと完結。最初に『ザ・ストレイン』を読んだ時からは想像もつかないようなラストが待っていた。

SFとして始まり、ホラーとして拡大し、最後は宗教色の強いファンタジーへと発散していく。

“吸血鬼”に対処する人々の方法論が実証主義的で、宗教色の強いキャラクターは狂言回しのようだったのに、最後はそう来たか。オーキッドルーメンの記述もわざと比喩的な伝承のように書いたのだと思っていたら実はそっくりそのまんまとはどういうことだ。

ISSの墜落が神の啓示(ともとれる)というあたりはまだいいにしても、最後の大天使はどう解釈したらいいのか迷う。

やっぱりこの辺りは好みが分かれるところだろう。俺的には、どうしてそうなっちゃうんだろうと苦笑してしまった。もうちょっと陳腐でもエイリアン的なネタで終わってほしかったんだけど。


しかし、エンターテイメント小説としては、ギレルモの意地の悪さが発揮されて面白かった。

この物語は家族の物語だ。

主人公であるイーフと、吸血鬼マスターの間で揺れ動く“息子”のザック。マスターの真の息子、ミスター・クインラン。吸血鬼になってもザックを守ろうとするケリー。吸血鬼になった母親を殺せないガス。そして、痴呆症で完全にお荷物となった親を見捨てられないノーラ。

家族を愛するがゆえに、絆を断ち切れず、それが足かせとなってしまう。足手まといとわかっていても、絶対に救えないとわかっていても、最後に残る絆は家族であり、それが運命を決める。

家族の絆といえば美しい話に聞こえるが、それは醜く、泥臭く、恐怖の源であり、時に滑稽で、時に悲しい。紋切型ではなく、こういう形で家族の絆を描いたのは珍しい気がする。

そして、「これが愛だ」という最後の言葉に、泣くか、嗤うか。それは、他人ごとではないのかもしれない。

 


[SF] 本にだって雄と雌があります

2012-12-17 22:48:11 | SF

『本にだって雄と雌があります』 小田雅久仁 (新潮社)

 

本にだって雄と雌があります。知らずに相性のいい雌雄をくっつけて本棚に並べてしまうと、子供ができてしまいます。そして、その子供本(幻書)はパタパタと羽ばたいて飛んでいくのです。

なんていうことから始まる法螺話。

語り手である博が、祖父である與次郎とその一家の話を、息子の恵太郎に話して聞かせるという体裁の小説だが、そこにもさらに仕掛けがあったりなかったり。

あることないこと関西弁の奇妙なリズムで語り、騙り、書き続ける與次郎のお話しに、笑い、泣き、ほっこりしてさらに笑うという、とっても楽しい一冊だった。

とにかく、出てくる登場人物すべてが素敵すぎる。ほら吹き爺の與次郎をはじめ、その妻ミキもむちゃくちゃなキャラだし、與次郎の永遠のライバルである釈苦利に至っては、まさにケッタイな奴で食うに食えない。

こいつ阿呆過ぎてすげー(褒め言葉)と思ったのは森見登美彦氏以来だ。いや、それよりも計算尽くされているような気がする。森見氏が怠けている間に、ぜひそのポジションを奪って、日本SF大賞を狙って欲しいものだ。


うちにも蔵書が千数百冊あるのだが、勝手に増殖されてはたまったものではない。しかし、幻書を鎮めるかわりに、白い像に乗って世界中の本が集まる図書館の司書になれるのならば、それもいいかと思う。まぁ、偶然に相性のいい組み合わせに本が並ぶための臨界点には、まだまだ遠そうなのだけれど。

人間も一冊の書であるというので、本から本が生まれるのも必然か。しかし、そこに書かれているのは人生の物語か、はたまたDNAか。

そんなことを考えるのも、物理的な紙の本だからこそ。

尼がkindleを抱えて、電子書籍が押し寄せようとしている2012年に、こんな本の話を読むとは奇妙な感じがするが、やはり本はいいものだよと思うのだ。

電子データなんて、交尾もしなければ、飛んでもいかないからな。いやバーチャル世界ではするのかもしれないけれど。でも、そんな話が生まれるのはこれから数十年後まで待たなければいけないだろう。

 

 


[映画] トロールハンター

2012-12-17 22:32:30 | 映画

トロール・ハンター - goo 映画

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暇だったので久しぶりにレンタルビデオ店へ。

映画公開時にSFマガジンで紹介されていたのを思い出して借りてきたのがこのディスク。

うーん。はっきり言って、期待を裏切られた感じ。お馬鹿映画としても、俺的に笑いのツボが外れていて、ぜんぜん笑えなかった。ついでに言うと、ノルウェーの自然がどうこうっていっても、北海道と変わらんし。

熊の密漁を題材に大学生たちが取材ごっこをする。大学生たちは行方不明となり、残されたのがこのビデオという設定。

専門家による分析の結果云々かんぬんというものものしい但し書きが最初に表示され、なかなか凝ったつくりになっているし、トロールもユーモラスと恐怖のはざまでおもしろい造形だった。

しかし、どう考えても、致命的にシナリオが悪い。

取材テープ(という設定)なのだからシナリオをどうこういうのはおかしいかもしれないが、物語としてぜんぜん面白くない。

熊ハンターは早々にトロールハンターだということがわかってしまうし、政府が隠しているトロールの秘密はほのめかしだけでまったくわからない。

起承転結とか、序破急とか、序文本論結論とか、ともかく、まったく物語が感じられないし、魅力的ではない。これなら川口浩探検隊の方が、よっぽど物語性が高い。

クライマックスの巨大トロール退治も、それが政府にとってどういう意味を持つのか、ハンターにとってどういう意味を持つのかさっぱりわからない。なので、カタルシスもないし、恐怖も感じない。

取材テープのつぎはぎ(という設定)だったとしても、もっとおもしろい物語を映し出すことは出来たと思うんだけれど、まったく惜しい限り。

まあ、あんまりおもしろくなくて眠たくなってしまったので、いろいろ見落としただけかもしれないけれどね。

 

 


[SF] SFマガジン2013年1月号

2012-12-17 22:27:12 | SF

『S-Fマガジン 2013年1月号』 (早川書房)

 

特集「日本SF作家クラブ創立50周年記念特集」。

SFWJなんて書くと、どこのプロレス団体かと思うが、これが日本SF作家クラブの略称。なんと、本家SWWA、アメリカSFファンタジー作家協会よりも発足が早かったというのは驚きだ。

「SFWJ50ブックガイド」は日本のSFの歴史を俯瞰するには最適。海外版のオールタイムベストは良くあるけど、日本版はなかなか見ないからな。でも、ほとんど読んでるはずなんだけど内容が思い出せないのもちらほら。豊田有恒の『退魔戦記』なんかは強烈に印象に残ってるけど、かんべむさしとか、あんまり内容を覚えてないんだよね。第3世代以降は全部わかるんだけど。

記事の中で気になったのは「盛光社〈ジュニアSF〉限定復刻!」。あー懐かしい。俺が揃えてたのは鶴書房版だけど、全部読んでるし、半分くらい持ってるはず。ちょっと欲しかったけど、半分持ってるのに分売不可なので断念。これは全国の小中学校にそろえておいて欲しいくらいだ。

ところで、国際SFシンポジウムⅡっていつどこでやるのか、まだ情報無いの? まさか決まってないとか。


△「カメリ、ツリーに飾られる」 北野勇作
 いつものカメリ。この世界はよくわからんわ。でも、楽しくて物悲しいという不思議な感情が巻き起こる。

○「ミサイル畑」 草上仁
 ずいぶん久しぶりな感じの草上仁。ゼロ年代系作家とは明らかに異なる語り口で、なんとなく懐かしくなる。それでいて、最近の時事を取り入れた小ネタが楽しい感じ。こういうほら話はいいですね。イタチも幸せになって良かった。