『20億の針』 ハル・クレメント (創元SF文庫)
遠い星から犯人を追いかけてきたエイリアン刑事、“捕り手”が、犯人ともども地球に墜落した。アメーバ状の彼らは動物の身体に共生しないと生きていけない。捕り手は寄生した少年バブと協力し、他の誰かの身体に潜んでいるはずの“ホシ”を探して捜査を続ける。
小学生の頃に子供向けの翻案版を読んでむちゃくちゃ面白かった記憶があるが、全訳を読んだのはこれが初めて。古本屋でボロボロの本(旧版。上の写真は新装版)の中に懐かしい名前を見つけたので、喜んで買ってしまった。ついでに、続編の『一千億の針』も別な古本屋で買ってしまった。(←新刊で買えよ)
しかし、外見のボロボロ感に合わせるように、訳がとにかく古臭い。カタカナ英語の表記がまだ統一されずに揺れている頃の訳出なのだろう。主人公の名前はロバートなので、愛称のバブは、今ではボブの方が一般的。飛行機の“ケビン”って何だと思ったけど、たぶん今のカタカナ語では“キャビン”のことなんだろう。おまけに、“そやつ”とか“こやつ”とか、10代の少年が言うには違和感ありまくり。
なにしろ、地球の人口が現在の約3分の1である20億しかいなかった頃の作品だ。しかし、南の島(タイチという名前が出てくるが、これも現代語ではタヒチか)というのどかな環境が舞台になっているせいか、物語にはまったく古臭さが無い。訳だけ替えてラノベにしても、そのまま通用するんじゃないかというくらい。
さすがに、本当に20億人の中からホシを探し出すことにはならなかったが、島の住民の中で、いったい誰がホシなのかという謎解きはスリリングで知的興味を惹かれる。また、エイリアンの存在以外は突飛な設定も無く、少年が仲間たちと遊ぶことをカモフラージュにしてできる範囲で捜査が行われるため、SF初心者でも十分楽しめるに違いない。さすが、子供向けの叢書に収められるだけのことはある。
しかも、この小説は『ウルトラマン』の原点とも言われ、さらには映画『ヒドゥン』や、その他のいくつもの作品を生みだしたエポックメイキングなのである。大原まり子の『エイリアン刑事』は言うに及ばず、『70億の針』(多田乃伸明)というコミックまである。というか、『20億の針』を検索すると、『70億の針』がいっぱい出てくる(笑)
主人公が少年で、夕暮れまで海で遊んで、それでも就職や未来のことに漠然とした期待と不安を持って……。犯人探しのミステリ的要素が強いが、ジュブナイルとしても素晴らしいと思う。もともと、ジュブナイルなのか、大人向けだったのかわからないが、これはぜひ黄金時代の少年少女に新訳で読んでもらいたい小説だ。
遠い星から犯人を追いかけてきたエイリアン刑事、“捕り手”が、犯人ともども地球に墜落した。アメーバ状の彼らは動物の身体に共生しないと生きていけない。捕り手は寄生した少年バブと協力し、他の誰かの身体に潜んでいるはずの“ホシ”を探して捜査を続ける。
小学生の頃に子供向けの翻案版を読んでむちゃくちゃ面白かった記憶があるが、全訳を読んだのはこれが初めて。古本屋でボロボロの本(旧版。上の写真は新装版)の中に懐かしい名前を見つけたので、喜んで買ってしまった。ついでに、続編の『一千億の針』も別な古本屋で買ってしまった。(←新刊で買えよ)
しかし、外見のボロボロ感に合わせるように、訳がとにかく古臭い。カタカナ英語の表記がまだ統一されずに揺れている頃の訳出なのだろう。主人公の名前はロバートなので、愛称のバブは、今ではボブの方が一般的。飛行機の“ケビン”って何だと思ったけど、たぶん今のカタカナ語では“キャビン”のことなんだろう。おまけに、“そやつ”とか“こやつ”とか、10代の少年が言うには違和感ありまくり。
なにしろ、地球の人口が現在の約3分の1である20億しかいなかった頃の作品だ。しかし、南の島(タイチという名前が出てくるが、これも現代語ではタヒチか)というのどかな環境が舞台になっているせいか、物語にはまったく古臭さが無い。訳だけ替えてラノベにしても、そのまま通用するんじゃないかというくらい。
さすがに、本当に20億人の中からホシを探し出すことにはならなかったが、島の住民の中で、いったい誰がホシなのかという謎解きはスリリングで知的興味を惹かれる。また、エイリアンの存在以外は突飛な設定も無く、少年が仲間たちと遊ぶことをカモフラージュにしてできる範囲で捜査が行われるため、SF初心者でも十分楽しめるに違いない。さすが、子供向けの叢書に収められるだけのことはある。
しかも、この小説は『ウルトラマン』の原点とも言われ、さらには映画『ヒドゥン』や、その他のいくつもの作品を生みだしたエポックメイキングなのである。大原まり子の『エイリアン刑事』は言うに及ばず、『70億の針』(多田乃伸明)というコミックまである。というか、『20億の針』を検索すると、『70億の針』がいっぱい出てくる(笑)
主人公が少年で、夕暮れまで海で遊んで、それでも就職や未来のことに漠然とした期待と不安を持って……。犯人探しのミステリ的要素が強いが、ジュブナイルとしても素晴らしいと思う。もともと、ジュブナイルなのか、大人向けだったのかわからないが、これはぜひ黄金時代の少年少女に新訳で読んでもらいたい小説だ。