うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

P&G 

2016年05月18日 00時00分21秒 | ノベルズ
(※このSSは携帯小説連載中の『高校生シリーズ』の世界観でお送りします。初めての方はこちらを先にご一読いただけますとありがたく<(_ _)>(長いですけど…))


「え? 欲しいもの?」
彼女の素っ頓狂な返事に、俺は力強く頷いた。
カガリと晴れて恋人同士になって7か月。そうして初めて迎える彼女の誕生日。
カガリは基本的に他者のことに対しては非常に敏感で気遣いをするが、自分のこととなるとまるで関心がない。多分「誕生日に何が欲しい?」と聞いても、先ほどの様な返答になることはこの7か月、いや、彼女だけを見つめ続けて1年1か月(※本当は片思いを続けて15年間)で存分に知り尽くしている。
なので、それに負けないよう俺は真剣な視線を彼女から外すことなく、思いっきり強く頷いた。
…普通、何かの『記念日』というと、女性の方が敏感で気にする傾向があると思う。誕生日はおろか、「初めてデートした記念日」「初めてキスした記念日」等々。だがどうにもカガリはそういったものに関心がない分、俺の方が何故か気にかけてしまう。まぁ自分の方が彼女にべた惚れしているから、というのもあるが、何気にカガリを狙う男どもをけん制するためにも、彼女の誕生日を俺が独占することが必須だ。誰にも邪魔をさせるつもりは毛頭ない。
「う~ん…そうだな…」
俺の熱い眼差しからやや逸らすようにして金眼が思考している。時折その柔らかな金糸を細い指で持て余す様に絡めながら、やがて黙してしまった。
カガリは絶対人の思いを蔑にする人ではない。なのでその分真剣になってくれるのはありがたいが、こうして見ていると、段々座禅を組んで瞑想する僧侶の様になってきた。
「例えば、『アクセサリー』とか…」
あんまりにも真剣すぎるカガリが黙ってしまったのでは、なんかかえって追い詰めてしまう気がして、俺から少し提案してみる。
『アクセサリー』。俺とペアで揃えたら、俺としても喜ばしい限りだ。『ハウメアの守り石』はあの事件(※『H&B』参照)で砕けてしまったが、代わりに俺たちを結び付けてくれた。今度はその絆の記念になるペアアクセサリーならどうだろう。
するとカガリは
「『アクセサリー』か…まぁつけるのは嫌いじゃないけれど、学校にはつけてこられないし、家の関係の用事なら、それ相応のをマーナに無理矢理つけさせられるしな…」
「あ…」
そうだった。カガリも俺の家も、いわゆる政界関係でパーティなどには散々出席させられる。そうなると衣装も凝るし、アクセサリーも当然それに応じた高価なものでなければならない。一応高価な値の張るものでも購入することはできるが、カガリのことだ、
―――「親から頂いたお金で、そんな高価なもの、受け取れるわけないだろう!」
とかえって気遣いするに違いない。
本来なら彼女のためにバイトして、自分の稼いだお金でプレゼントを買えればいいのだが、残念ながら、この学院は学生のバイトを禁止している。
まぁ安価なペアのアクセサリーでもデートの間だけつける、ということは可能だが、どうにもカガリの表情から乗り気な様子は見られない。
「じゃぁ、一緒に『食事』とか。」
と、今度はカガリの目が輝きだす。これなら乗り気の様だ。だが
「あ!それでいいぞ。あの駅前の『ドーナツ屋』がすごい美味しいってミリィから聞いたから、そこがいい!」
「……」
「…?どうした、アスラン?」
今度は目をクリクリさせて覗き込んでくるカガリに対し、俺が視線を下げて頭をかいた。できれば二人きりでそれなりのレストランで食事を、というイメージを膨らませていたのだが、どうにもカガリの感覚は大人感覚の手前でまだ停止線が貼られているようだ。
だが『食事』もある意味、二人ともほぼ毎日一流のメニューが並んでいることを考えると、カガリにとっては「駅前のドーナツ屋」感覚の方が新鮮なんだろう。
キョトンとしているカガリだが、できればもう少し『お祝い』らしいことをしてやりたい。
「ドーナツ屋でもいいが、それだったらいつもの普通のデートでもできるだろう?だったら今度の土日でデートしながら、カガリの欲しいものを一緒に選んでプレゼントしたいんだが…」
我ながらいいアイディアだと思う。これならアクセサリーでも一緒に好みのものを見つけられるし、それ以外のものだったとしても、一緒に買ってあげられるし、食事もさほど高級でなくても手の届く範囲で席を作れる。
と、俺の心が湧きたったと思ったら、今度はカガリがシュンと萎れ気味だ。
「ごめん…土日はそれこそ家でパーティがあって、私が主役だから出席しないとまずいし…」
そうだ…それこそ政界の重鎮、ウズミ・ナラ・アスハの一人娘である以上、彼女の誕生パーティはそれこそ名士たちがこぞって集まってくるに違いない。もちろん実質は政界のパワーバランスの取引だが、名目上主役は彼女だ。いなければ父であるウズミ様の顔がたたない。彼女もそこをよくよくわかっているのだろう。かえって申し訳なさそうに眉尻が下がってしまい、俺の心にその悲しげな表情が突き刺さる。
「いや、俺の方こそ配慮が足りなかったな。ごめん。」
彼女はふるふると首を横に振った。
「いいや、私のために、お前がこんなにいろいろ考えてくれているのに、なんか答えてやれなくって、すまない。」
ダメだ!彼女にこんな顔をさせては!彼女と恋人同士になるにあたって、十分覚悟していたことだ。しかも俺の父パトリックとカガリの父ウズミ様は政界の敵同士。今後彼女とのこと―――行く末は結婚のことも考えれば、こんな小さな障害で躓いている場合ではない。
「違う、カガリ!俺はただ、君に喜ぶ顔が見たいだけで―――」
全く…我ながら情けない。頭が良かろうが、運動が出来ようが、大事な人一人を笑顔にしてやれないなんて…。
情けなく落ち込んでいる姿を見せられるのはカガリだけ、とはいえ、そのカガリ自身のことで落ち込んでいる姿を見せるのは最大の禁忌だというのに。
ふとカガリの反応がないことに不安になって、おそるおそる顔を上げてカガリを見やれば、カガリはなんだか思いついたようにいつもの明るい表情に戻って、俺に言った。
「アスラン、私『欲しいもの』見つかったぞ♪」
「え?」
彼女が口角を上げて、ニッコリ笑う。
「こればかりは絶対、ぜぇ~~ったいアスランでないとダメなんだ。」
「そうなのか!?」
『俺でないとダメ』…なんて嬉しい響きだ。彼女の願いなら、どんなことでもしてやれる!
今度はカガリが俺の顔を覗き込むようにして力強く頷いた。
「今度の私の誕生日って、実は平日だろ? その日はお父様も帰ってこないし、うちに来てくれないか?」
「カガリの家に?」
「あぁ、何にも持ってこなくていいから、夕方6時にうちに来てくれ。」

***

5月18日、午後5時55分。
何も持ってこないでいいと言われたが、彼女の好きなカサブランカと薔薇をあしらった大きな花束を持って、俺はアスハ邸の前にいた。
初めて来るアスハ邸の大きさにやや圧倒されつつも、俺は居住まいを正した。彼女を貰い受ける時には確実にここに来ることになるのだから、今から敵陣(?)視察は大事だろう。
一呼吸ついて呼び鈴を鳴らすと
<ピンポーン♪>と軽やかな音色と共に
<あ、アスラン。流石時間通りだな。そのまま入ってくれ>
とカガリの明るい声。そして目の前の重厚な木製扉が自動で開かれていく。
「はぁ…」
広い一面の芝生の庭だけで何ヘクタールあるだろうか。自分の家だけでもかなり大きいと思っていたが、上には上がいるものだ。キラなら速攻腰を抜かすだろう。
白亜の洋館の表玄関では、一人の女性が出迎えてくれた。この人がマーナさんなのだろう。
「ようこそ。お嬢様は今おいでになられますので、ダイニングでお待ちください。」
大事な姫を獲られまいといささか厳しい面持ちだが、カガリが信頼を置いている女性だからこそ、彼女を敵に回すようなことをしてはいけない。あくまで柔和に挨拶を返すと、少しだけ表情を崩した。
そして、そのままダイニングに案内される。
ふと…ここで不思議に思った。
(…リビングでもなく、客間でもなく、ダイニング?)
招待された時間が時間だけに夕食を、ということなのだろうが、それにしてもいきなりダイニングに案内されるということは、良家にはまずない行為だ。
一面ベージュの壁と高い天窓のある広いダイニングには、白いテーブルクロスのかかった長いテーブルに、大ぶりの生花が中央を彩っている。
「あ!アスラン、よく来たな。そこに座って待っててくれ。」
そう言って出てきたのは
「カガリ!?その恰好は一体…」
夕食時のイブニングドレスに身を包んでくるのかと思っていた俺の予想をはるかに裏切り、現れたカガリの姿はメイド服仕様のエプロンドレスだ。
(…可愛い…)
いつもの制服姿や、私服でのボーイッシュな姿もカガリらしいが、こんな愛らしい姿で招かれるなんて思いもしなかったから油断した。
「そ、その…そんなにじろじろ見るな/// は、恥ずかしい…だろ///」
「い、いや、すまない。」
慌ててぽかんとだらしなく開きっぱなしだった口を閉じる。くそ、こんなことならあらかじめ小型のカメラを仕込んでくるんだった!
恥ずかしそうに赤らんでいた彼女だったが、俺の持っていたカサブランカの花束を嬉しそうに受け取ったカガリは、直ぐにまた奥に引っ込んだ。と思ったら。
<カラカラ…>
カガリが運んできた食事用のリザーブワゴンの上には、一つの銀食器。
「さ、かけてくれ。」
勧められるままカトラリーが既にセッティングされている椅子に座ると、カガリが銀食器を目の前に並べてくれた。
「カガリ、これは一体…」
「まぁまぁ、とりあえず冷めないうちにどうぞv」
そういってドームカバーを外して現れたのは―――
「……『ロールキャベツ』…?」
プレートの上には、多分…包まれていたのであろう、引き肉と野菜のミンチがはみ出て、葉を思いっきり全開にしたキャベツ。その上にトマトソースベースのスープがかかっている。
「その…わ、悪かったな。一応キャベツの下ゆでとかちゃんとやったと思ったんだが、煮ているうちにどんどん崩れてきちゃって、思っていた形と違ってきて、その…」
「お嬢様はキャベツで巻くときに、十分中の空気を抜いていらっしゃらないからですよ。」
「う、煩いっ!/// わ、わかっていたさ!でも崩れちゃったんだ!」
マーナさんの突っ込みに、カガリが赤くなってそっぽを向く。
「でも」
マーナさんは先ほどと打って変わって、飛び切りの笑顔で俺に言った。
「お嬢様がお一人で、初めて作られたのですよ。ザラ様のために。」
「俺の…ために…」
カガリを見れば、気恥ずかしいのか、マーナさんの後ろに隠れて、横からこっそり覗いている。
俺のためだけに作ってくれた、好物のロールキャベツ。食べないわけないじゃないか!
早速フォークとナイフを手に、一口いただいてみる。
「―――!美味しい。」
「ほ、本当か!?」
カガリがテーブルに噛みつかん勢いで飛び出てきた。
「あぁ、本当に美味しいよ。こんな美味しいロールキャベツ初めてだ。」
これは本音だ。どこか懐かしい味は、あの施設にいた時を思い出させる。こうした家庭的な味は引き取られて以来口にしたことがない。美味しさだけでなく、カガリが俺の好物を覚えていてくれて、俺だけのために作ってくれたというなら、これ以上に美味しいものなんてこの世にあるだろうか。
カガリは向かいの席で頬杖を突きながらニコニコと嬉しそうに俺を見まもっている。
彼女の笑顔の元に手作りの料理を食べられるなんて、あっという間に口が進み、気が付けば完食してしまった。しまった!(マナーは悪いが)記念に写真の一つでも取っておくべきだった。
「ごちそうさま、本当に美味しかったよ。…でも」
そうだ…何故俺が食事に招待されるんだ?今日はカガリの誕生日だ。彼女をご馳走してあげるならともかく、俺が喜んでどうする。
すると、彼女は思いもかけないことを言った。
「ありがとう。すっごい嬉しいプレゼントだ。」
「え?」
『プレゼント』?俺は何も渡していないが…カサブランカの花束のことか…?
俺が解っていない顔をしていたからか、カガリは少し頬を赤らめるようにしながら話し出した。
「私の誕生日プレゼント、お前は「私の喜ぶ顔が見たい」って言ってくれただろ。だから私が喜ぶものをお前は今くれた。」
「…?」
「だーかーらー、私が欲しかったのは『お前の笑顔』だ。」
(―――「俺の・・・笑顔」・・・?)
「カガリ…」
「お前、いつも私のこと考えてくれて、自分が一生懸命になるばっかりで、お前自身が嬉しくて笑ってくれること、なかなかなかったから。どうしたらお前自身が嬉しくなってくれるかな?って考えたら、それが思いのほか難しくって。それで気づいたんだ、お前が喜んでくれることが一番難しいから、私は「それが欲しいな」って。」
「…そんなことが『プレゼント』でいいのか?」
「そんなことだから『プレゼント』に欲しいんだ。」

本当に、君っていう人は―――どこまで俺を幸せにしてくれるんだろう。
勇気を、希望を、そして今は笑顔もくれる。

やっぱり、君でなくちゃ俺はダメなんだ。

「最高のプレゼントをありがとう、アスラン。」
「幸せをくれてありがとう、カガリ。」


気を着させてくれたのか、マーナさんの姿はなく、いつの間にかダイニングは二人だけだった。

だったら、この想いにもう遠慮なんかしたくない。

「アスラン?」
立ち上がってカガリを招き、抱きしめる。
「最高の食事には、最高のデザートがないとダメだろう?」
「あ!すまない、私忘れて―――」
大丈夫、それはこの腕の中にあるから。

誰よりも甘く、蕩けるような唇が一番のデザート


さて、来年は…いや、再来年も、その次も、その先もずっと
どんなプレゼントで、君を喜ばせようか。


・・・Fin.


ちなみに、この後あまりにも喜んだアスランがキラに自慢したのち、同じ日が誕生日のキラが拗ねて、アスランにこっぴどく説教したのは、言うまでもなし。



***

―――ということで、「誕生日おめでとう!愛しの双子

なのに片割れ(弟)が全然登場していない(涙)  もちろん、キラたんのこともお祝いしてますよv
祝い続けて14年、気が付けば30歳ですよ!Σ(-口-;)
でも、心の中では永遠に18歳ですけれどね(笑)
双子もカレカノもみんな幸せでいてくれると嬉しいです。誕生日と出会いの日は多分これからも忘れないだろうと思います。
さて、今日は思いっきりケーキ食べましょう。双子の分も


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