※こちらはアスランBD記念SS「The Best present ever」(ここから入れます)の続き『その後の話(肩たたき券Ver.)』(当ブログ11月12日掲載)の更に続きのオマケです。
まだ上記2話をご覧になっていない方は、できましたら(できたらでいいです)事前に2作をお読みいただいた後ですと、よりよくお楽しみいただけるかと♥
===
「・・・」
目の前にかざされた「それ」に対して、カガリはしばし無言のままだった。
顔の真正面に、正々堂々と突き付けられた手描きの『マッサージ券(※無期限有効)』。その背後で先刻、肩の亜脱臼が完治したばかりの男が、カガリ以外の人間には絶対見せないであろう、ご機嫌な笑みをニコニコと浮かべながら、「これが目に入らぬか!」とばかりにそれを見せつけてくる。
「…お前さ…」
一つ「ハァ~」と深くため息をつき、その存在感をアピールしてくる券をつまみ上げた。
「確かにお前の誕生日にこれをやったのは私だから、頼まれれば役目は果たす。でもな、お前は先日私が肩たたきしたら肩関節外しかけてたんだぞ?」
「だから?」
珍しく立場が逆転した。
いつもだったら理論武装して、相手を完膚なきまでに言い負かせるのは彼の方。寧ろ彼女の方が感覚的に動くことの方が多いのに、今日に限ってはアスランの方が不思議そうに「キョトン」とした顔をしている。
「つまりは、その…お前、怖くないのか?」
「何で?」
「…」
(そうか、私が普段、こういう風に問い詰める時、彼はこんな感覚なんだ…)
どこか自分たちを客観的に観察した結果の感想。だが、彼と違って自分がやられると理論的に説明するのが苦手な彼女にはストレスにしかならない。
「だからさ…私がまたお前に触れることで、お前の身体を傷つけたら困るだろうが!」
まさかのオーブ軍准将、多分地上ではもはや敵なしのこの男が、幾ら意表を突かれたとはいえ女性に関節を外されかけたのだ。身体の傷もだが、プライドも傷ついたのではないかと、カガリは今日まで不安で心がはち切れそうだった。
そもそも初めて出会ったあの時から、彼はカガリの前に現れる時、何故か大体どこか怪我して、腕を吊っている(※無印31話、42話)、あるいはむしろ全身大怪我(※運命37話、40話←傷が開いた)という状態だ。というか彼に初めて傷を負わせたのはカガリ自身(※無人島にて銃を撃って肩を掠り、挙句オープンボルトを投げて脇腹を傷つけた)。しかも生身で真っ向対峙して彼を傷つけたのは、後にも先にもカガリたった一人という経歴の持ち主だ(※キラとはMSでのバトルなので、生身ではない。更にシンとのバトルもMSであり、加えてメイリンがいたため、アスランは殆ど反撃していない)
なので、言ってしまえば彼の怪我をした姿はしょっちゅう見慣れている。だが見慣れているからこそ、もうこれ以上傷を負わせたくないのに、またこんな風に怪我をさせてしまったため、申し訳なくて仕方がない。
なのに誰より頭のいいはずの彼が、まるで学習していないようにすまし顔で『マッサージ券』を差し出すのだ。
「…コーディネーターでも、本当にバカはバカなんだな…」
自分で言っておいてなんだが、本当に呆れる。
だが、彼は途端に捨てられた子犬のような顔をして、哀願してくる。
「駄目…なのか?」
「…」
あれだけ大人びた少年だったはずなのに、一体何時の間にこんな顔をすることを覚えたのか。
その問題の彼は、カガリのためらいの理由を見抜いてか、必死にフォローを入れてくる。
「俺にとって、あれくらいは怪我のうちに入らないよ。君だってよく知っているだろう?」
「まぁ、コーディネーターだからかもしれんが、お前はバカみたいに怪我の回復早いのは認める。でも…」
奥歯に物の挟まったように歯切の悪い言い訳を必死に思案しながら、チラと彼を見やれば、すかさず翡翠が金眼を捕える。
「…どうしても駄目か?」
ダメだ…翡翠の奥から潤みを含んだキラキラがカガリの♥を撃ち抜いてくる。弱っている子、泣いている子は放ってはいてはいけない。
一時深く息を吐いて、仕方なく受け入れた。
「わかった。やってやるよ。私がプレゼントしたものだしな。ただし先週の患部にはなるべく触らないようにして、力加減も『弱』一択でやるから。」
「できたら強く触って―――」
「駄目だ!強くやれというなら施術しないからな!」
仁王立ちして言い放てば、仕方なく観念したのか、彼は力なく項垂れた。
(まずい…余計に落ち込ませてしまった…)
彼のモチベーションを下げてしまっては、明日のオーブの運命に関わる。慌てて気を取り直すように腕まくりをしたカガリ。
「で、何処を揉んで欲しいんだ?―――って、アスラン!?」
だが肩を落としたまま、いきなり背を向けた彼は、そのまま無言でスタスタ歩き出す。慌てて後をついて行けば、彼が入った先はアスハ邸の客間一室、以前護衛をやっていた時に使用していた部屋だ。
何時来客があってもいいように、常に清潔な真っ白なシーツが敷かれたベッドに腰掛けると、いきなり彼は上着を脱ぎだした。
「―――っ!お前、な、な、何やって//////」
男の上半身の裸など軍事教練を受けたときに見慣れている。しかし、先月アレを受けて、今は一人の男性として特別視する分、意識が高くなってしまう。しかも、緊線の取れた自分とまるで違うその体つきに魅入ってしまい、慌てて両手で顔を隠しながら、ホンのちょっと指の隙間から彼を覗く彼女の頬はもう真っ赤。
そんな彼女にお構いなしに、彼はベッドの上にうつ伏せになりながら
「背中揉んで欲しいんだけど。」
先日のように指でクイクイと場所を示す。「早くやって♥」と言わんばかりだ。
「ふ、服着ろよっ!///💦」
「服の上からだと衣類の摩擦ばっかりだから、直接触れて欲しいんだけど。ただでさえ「強くやってくれない」んだろう?だったら余計に衣服があると邪魔になる。」
「…」
やられた、理論武装。ようやくアスランらしくなったといえばそれまでだが。
「…わかった。じゃあ最初は弱くやるから、もう少し強くして欲しい時は言ってくれ。」
「よろしく頼むよ。」
ようやくご機嫌が直ったのか、表情がパァと明るくなる。
こうなったら観念せざるを得ない。
改めてカガリは「ハー」と息を吹きかけながら自分の手を摩る。冷たいと彼の身体をリラックスどころかビックリさせて余計に固めてしまう。温めた手をそっと彼の背に乗せた。
「このくらいでいいか?」
「できればもう少し強く。」
「このくらいか?」
「そうだな。あ、できたら腰と背筋の辺りをお願いしたい。」
凝っている、というよりはむしろ男性としての刺激を受けやすツボの部分をあえて指定する。
よしよし、とばかりに何も知らないカガリが背と腰を摩ってくれる。
ちゃんと筋肉の走行に沿った施術だ。軍事教練でも簡易的なマッサージや応急処置は指導を受けて来るだけあって、心地よい。
それだけじゃない。彼女の手が触れてくれていると思うと、先日お預けを食らってしまっただけに、ツボである以上に余計に高揚してしまう。
だが、ここで気を抜いてはいけない。
感情に身を任せたら、彼女は触れてくれるどころではなくなる。下手をしたら一生手の届かないところに行ってしまいかねない。
あくまで慎重に、しかし楽しみつつ。
存分に心ゆくまで彼女の感触を味わった。
「どうだ?気持ちいいか?」
「あぁ、最高だ。」
これは本音。ただでさえ一日千秋の思いで、彼女が触れてくれるのを待ち続けていたのだから、身体だけでなく心まで解れていく―――…
そんな彼の様子をみて、自分のマッサージに自信が戻ってきたのだろう。カガリが安堵したように話しだした。
「でもよかった。お父様にプレゼントした時は、お休みの日もお出かけになられることが多くって、全然使ってくれなかったからさ。必要なかったのかな、ってちょっと落ち込んだこともあったし。お前ももしかしたら「こんなもの」って捨てられるかもってちょっと不安だったんだが、まさかこんなに喜んでくれるなんて思いもしなかったぞ。」
捨てる?カガリの渾身のプレゼントを俺が?
まさか、だ。毎年でもプレゼントとして欲しいくらいだ。
身体と気持ちが解れてきたせいだろか。つい彼も饒舌になってくる。
「俺も両親に肩たたき券贈ったことがあったんだ。」
「お前もか!?」
「あぁ、やっぱり使ってくれなかったけど。」
忙しくて、殆ど家にいなかった両親。それでも母は受け取ってくれた時、こう言った。
(―――「アスランが私を思ってくれた、その気持ちが嬉しいのよ。」)
多分、ウズミ様も同じ気持ちだったのだろう。
「きっとウズミ様もお前の券、大事に持っていたんだろうな。」
「そうかな?そうだといいけど…」
肘でゴリゴリとツボ押ししてくれる。
そして更に手のひらでマッサージしてくれるそれは、温かで、柔らかで…
「カガリの手、温かくて気持ちいいな。」
「そうか?お前も温かいぞ。」
「そりゃ体幹が冷えたら病気の元になるから、温かくないと。」
「そうじゃなくって!」
カガリが少し声を上げ、手をピタッと止めた。
「カガリ?」
慌てて顔を向ければ、彼女は目を潤ませている。
「どうした?俺、何か悪い事でも言ったか?」
「そうじゃなくて、お前が温かいのは、生きているからだろう。」
何を当たり前な―――と言いかけてはっと気づいて止める。
そうだ、俺は何度も命を捨てようとした。その度に救ってくれたのは彼女だ。
生きていなかったら、こんな喜びも知らないまま、俺は…
「それにな」
彼女は続ける。
「「温かい」ってわかるのは「触れられることができる距離にいる」からなんだ。こうして触れられるほど…温かさが分かるほど、傍に居てくれてありがとうな。アスラン。」
彼女は一粒涙を零しながらそれでも笑う。
父を失って、キラもプラントに上がり、誰もいなくなった彼女の傍に居るのは―――
「カガリ!」
もう感情を止められない。そのまま起き上がって彼女を精一杯抱きしめる。
「ちょ、アスラーーー///」
「俺もありがとう。君の温もりが分かるほど傍に居させてくれて。」
「アスラン…」
頬に流れるそれを拭って、そのまま口づける。
そして…
「え?あ?」
どうやれば俺の肩を外せる程の力が出るのだろうか、と思うくらい細い手首をつかんで、彼女をシーツの海に沈める。
「あの?アスラン!?///」
「できたら、全身で君の温もりを感じたいんだけど。」
「は、はぁ!?そ、それはサービス外で!」
「上官ともなると、気を張ってばかりで身体だけじゃなく、心が凝って仕方がないんだ。君を抱かせてくれたら、俺の心の凝りも解れるんだけど。」
「~~~~~っ!!…バカ…///」
僅かな抵抗の後、ゆっくりと力が失われていった。
***
翌朝―――
「おはようございま―――あれ?准将、何かあったんですか?」
下士官が挨拶と同時に彼を見て驚く。
いつもキリっと姿勢も表情も崩さず、凛々しいまでに真一文字に結ばれているはずの彼の口元が、今日に限って緩んでいる。
しかも…気のせいだろうか。肌まで艶やか✨になって。
「俺に何か?…って、あぁ。凄く充電できたんだ。いや、栄養補給といった方がいいかな?」
「…」
ニコニコと滑らかに返答する彼を見て、下士官たちは思う。
(ありがとうございます『充電器(代表)』!! これからも毎日充電してやってください!!)
アスランを除く全員が内閣府に向かい、厚く御礼の手を合わせたのだった✨(T人T*(T人T*(T人T*)
まだ上記2話をご覧になっていない方は、できましたら(できたらでいいです)事前に2作をお読みいただいた後ですと、よりよくお楽しみいただけるかと♥
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「・・・」
目の前にかざされた「それ」に対して、カガリはしばし無言のままだった。
顔の真正面に、正々堂々と突き付けられた手描きの『マッサージ券(※無期限有効)』。その背後で先刻、肩の亜脱臼が完治したばかりの男が、カガリ以外の人間には絶対見せないであろう、ご機嫌な笑みをニコニコと浮かべながら、「これが目に入らぬか!」とばかりにそれを見せつけてくる。
「…お前さ…」
一つ「ハァ~」と深くため息をつき、その存在感をアピールしてくる券をつまみ上げた。
「確かにお前の誕生日にこれをやったのは私だから、頼まれれば役目は果たす。でもな、お前は先日私が肩たたきしたら肩関節外しかけてたんだぞ?」
「だから?」
珍しく立場が逆転した。
いつもだったら理論武装して、相手を完膚なきまでに言い負かせるのは彼の方。寧ろ彼女の方が感覚的に動くことの方が多いのに、今日に限ってはアスランの方が不思議そうに「キョトン」とした顔をしている。
「つまりは、その…お前、怖くないのか?」
「何で?」
「…」
(そうか、私が普段、こういう風に問い詰める時、彼はこんな感覚なんだ…)
どこか自分たちを客観的に観察した結果の感想。だが、彼と違って自分がやられると理論的に説明するのが苦手な彼女にはストレスにしかならない。
「だからさ…私がまたお前に触れることで、お前の身体を傷つけたら困るだろうが!」
まさかのオーブ軍准将、多分地上ではもはや敵なしのこの男が、幾ら意表を突かれたとはいえ女性に関節を外されかけたのだ。身体の傷もだが、プライドも傷ついたのではないかと、カガリは今日まで不安で心がはち切れそうだった。
そもそも初めて出会ったあの時から、彼はカガリの前に現れる時、何故か大体どこか怪我して、腕を吊っている(※無印31話、42話)、あるいはむしろ全身大怪我(※運命37話、40話←傷が開いた)という状態だ。というか彼に初めて傷を負わせたのはカガリ自身(※無人島にて銃を撃って肩を掠り、挙句オープンボルトを投げて脇腹を傷つけた)。しかも生身で真っ向対峙して彼を傷つけたのは、後にも先にもカガリたった一人という経歴の持ち主だ(※キラとはMSでのバトルなので、生身ではない。更にシンとのバトルもMSであり、加えてメイリンがいたため、アスランは殆ど反撃していない)
なので、言ってしまえば彼の怪我をした姿はしょっちゅう見慣れている。だが見慣れているからこそ、もうこれ以上傷を負わせたくないのに、またこんな風に怪我をさせてしまったため、申し訳なくて仕方がない。
なのに誰より頭のいいはずの彼が、まるで学習していないようにすまし顔で『マッサージ券』を差し出すのだ。
「…コーディネーターでも、本当にバカはバカなんだな…」
自分で言っておいてなんだが、本当に呆れる。
だが、彼は途端に捨てられた子犬のような顔をして、哀願してくる。
「駄目…なのか?」
「…」
あれだけ大人びた少年だったはずなのに、一体何時の間にこんな顔をすることを覚えたのか。
その問題の彼は、カガリのためらいの理由を見抜いてか、必死にフォローを入れてくる。
「俺にとって、あれくらいは怪我のうちに入らないよ。君だってよく知っているだろう?」
「まぁ、コーディネーターだからかもしれんが、お前はバカみたいに怪我の回復早いのは認める。でも…」
奥歯に物の挟まったように歯切の悪い言い訳を必死に思案しながら、チラと彼を見やれば、すかさず翡翠が金眼を捕える。
「…どうしても駄目か?」
ダメだ…翡翠の奥から潤みを含んだキラキラがカガリの♥を撃ち抜いてくる。弱っている子、泣いている子は放ってはいてはいけない。
一時深く息を吐いて、仕方なく受け入れた。
「わかった。やってやるよ。私がプレゼントしたものだしな。ただし先週の患部にはなるべく触らないようにして、力加減も『弱』一択でやるから。」
「できたら強く触って―――」
「駄目だ!強くやれというなら施術しないからな!」
仁王立ちして言い放てば、仕方なく観念したのか、彼は力なく項垂れた。
(まずい…余計に落ち込ませてしまった…)
彼のモチベーションを下げてしまっては、明日のオーブの運命に関わる。慌てて気を取り直すように腕まくりをしたカガリ。
「で、何処を揉んで欲しいんだ?―――って、アスラン!?」
だが肩を落としたまま、いきなり背を向けた彼は、そのまま無言でスタスタ歩き出す。慌てて後をついて行けば、彼が入った先はアスハ邸の客間一室、以前護衛をやっていた時に使用していた部屋だ。
何時来客があってもいいように、常に清潔な真っ白なシーツが敷かれたベッドに腰掛けると、いきなり彼は上着を脱ぎだした。
「―――っ!お前、な、な、何やって//////」
男の上半身の裸など軍事教練を受けたときに見慣れている。しかし、先月アレを受けて、今は一人の男性として特別視する分、意識が高くなってしまう。しかも、緊線の取れた自分とまるで違うその体つきに魅入ってしまい、慌てて両手で顔を隠しながら、ホンのちょっと指の隙間から彼を覗く彼女の頬はもう真っ赤。
そんな彼女にお構いなしに、彼はベッドの上にうつ伏せになりながら
「背中揉んで欲しいんだけど。」
先日のように指でクイクイと場所を示す。「早くやって♥」と言わんばかりだ。
「ふ、服着ろよっ!///💦」
「服の上からだと衣類の摩擦ばっかりだから、直接触れて欲しいんだけど。ただでさえ「強くやってくれない」んだろう?だったら余計に衣服があると邪魔になる。」
「…」
やられた、理論武装。ようやくアスランらしくなったといえばそれまでだが。
「…わかった。じゃあ最初は弱くやるから、もう少し強くして欲しい時は言ってくれ。」
「よろしく頼むよ。」
ようやくご機嫌が直ったのか、表情がパァと明るくなる。
こうなったら観念せざるを得ない。
改めてカガリは「ハー」と息を吹きかけながら自分の手を摩る。冷たいと彼の身体をリラックスどころかビックリさせて余計に固めてしまう。温めた手をそっと彼の背に乗せた。
「このくらいでいいか?」
「できればもう少し強く。」
「このくらいか?」
「そうだな。あ、できたら腰と背筋の辺りをお願いしたい。」
凝っている、というよりはむしろ男性としての刺激を受けやすツボの部分をあえて指定する。
よしよし、とばかりに何も知らないカガリが背と腰を摩ってくれる。
ちゃんと筋肉の走行に沿った施術だ。軍事教練でも簡易的なマッサージや応急処置は指導を受けて来るだけあって、心地よい。
それだけじゃない。彼女の手が触れてくれていると思うと、先日お預けを食らってしまっただけに、ツボである以上に余計に高揚してしまう。
だが、ここで気を抜いてはいけない。
感情に身を任せたら、彼女は触れてくれるどころではなくなる。下手をしたら一生手の届かないところに行ってしまいかねない。
あくまで慎重に、しかし楽しみつつ。
存分に心ゆくまで彼女の感触を味わった。
「どうだ?気持ちいいか?」
「あぁ、最高だ。」
これは本音。ただでさえ一日千秋の思いで、彼女が触れてくれるのを待ち続けていたのだから、身体だけでなく心まで解れていく―――…
そんな彼の様子をみて、自分のマッサージに自信が戻ってきたのだろう。カガリが安堵したように話しだした。
「でもよかった。お父様にプレゼントした時は、お休みの日もお出かけになられることが多くって、全然使ってくれなかったからさ。必要なかったのかな、ってちょっと落ち込んだこともあったし。お前ももしかしたら「こんなもの」って捨てられるかもってちょっと不安だったんだが、まさかこんなに喜んでくれるなんて思いもしなかったぞ。」
捨てる?カガリの渾身のプレゼントを俺が?
まさか、だ。毎年でもプレゼントとして欲しいくらいだ。
身体と気持ちが解れてきたせいだろか。つい彼も饒舌になってくる。
「俺も両親に肩たたき券贈ったことがあったんだ。」
「お前もか!?」
「あぁ、やっぱり使ってくれなかったけど。」
忙しくて、殆ど家にいなかった両親。それでも母は受け取ってくれた時、こう言った。
(―――「アスランが私を思ってくれた、その気持ちが嬉しいのよ。」)
多分、ウズミ様も同じ気持ちだったのだろう。
「きっとウズミ様もお前の券、大事に持っていたんだろうな。」
「そうかな?そうだといいけど…」
肘でゴリゴリとツボ押ししてくれる。
そして更に手のひらでマッサージしてくれるそれは、温かで、柔らかで…
「カガリの手、温かくて気持ちいいな。」
「そうか?お前も温かいぞ。」
「そりゃ体幹が冷えたら病気の元になるから、温かくないと。」
「そうじゃなくって!」
カガリが少し声を上げ、手をピタッと止めた。
「カガリ?」
慌てて顔を向ければ、彼女は目を潤ませている。
「どうした?俺、何か悪い事でも言ったか?」
「そうじゃなくて、お前が温かいのは、生きているからだろう。」
何を当たり前な―――と言いかけてはっと気づいて止める。
そうだ、俺は何度も命を捨てようとした。その度に救ってくれたのは彼女だ。
生きていなかったら、こんな喜びも知らないまま、俺は…
「それにな」
彼女は続ける。
「「温かい」ってわかるのは「触れられることができる距離にいる」からなんだ。こうして触れられるほど…温かさが分かるほど、傍に居てくれてありがとうな。アスラン。」
彼女は一粒涙を零しながらそれでも笑う。
父を失って、キラもプラントに上がり、誰もいなくなった彼女の傍に居るのは―――
「カガリ!」
もう感情を止められない。そのまま起き上がって彼女を精一杯抱きしめる。
「ちょ、アスラーーー///」
「俺もありがとう。君の温もりが分かるほど傍に居させてくれて。」
「アスラン…」
頬に流れるそれを拭って、そのまま口づける。
そして…
「え?あ?」
どうやれば俺の肩を外せる程の力が出るのだろうか、と思うくらい細い手首をつかんで、彼女をシーツの海に沈める。
「あの?アスラン!?///」
「できたら、全身で君の温もりを感じたいんだけど。」
「は、はぁ!?そ、それはサービス外で!」
「上官ともなると、気を張ってばかりで身体だけじゃなく、心が凝って仕方がないんだ。君を抱かせてくれたら、俺の心の凝りも解れるんだけど。」
「~~~~~っ!!…バカ…///」
僅かな抵抗の後、ゆっくりと力が失われていった。
***
翌朝―――
「おはようございま―――あれ?准将、何かあったんですか?」
下士官が挨拶と同時に彼を見て驚く。
いつもキリっと姿勢も表情も崩さず、凛々しいまでに真一文字に結ばれているはずの彼の口元が、今日に限って緩んでいる。
しかも…気のせいだろうか。肌まで艶やか✨になって。
「俺に何か?…って、あぁ。凄く充電できたんだ。いや、栄養補給といった方がいいかな?」
「…」
ニコニコと滑らかに返答する彼を見て、下士官たちは思う。
(ありがとうございます『充電器(代表)』!! これからも毎日充電してやってください!!)
アスランを除く全員が内閣府に向かい、厚く御礼の手を合わせたのだった✨(T人T*(T人T*(T人T*)
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