うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

Deliver to you

2022年09月01日 21時09分00秒 | ノベルズ
「それでは皆さん、グラスは行き渡りましたでしょうか。…えー、俺はこういった場は苦手なので、シンプルに。シン、誕生日おめでとう。」
「「「「カンパーイ!!」」」」
アスランの音頭で一斉にグラスが掲げられる。

オーブ、オノゴロの繁華街にあるレストランに設けられている一室。今日9月1日の主役は照れ臭そうにやや顔を赤らめ、「ありがとう///」と皆が寄せてくるグラスに何度も自分のそれを重ね合わせていた。
「アスランさ、もっと気の利いたこと言えないの~?折角の元・部下の誕生日なんだしさ~♪」
この人はアルコールが入っていなくっても、素面で饒舌。アスランは苦笑しつつ軽くため息をついた。
「だったらフラガ一佐がやって下さいよ。ここは年長者として―――」
「いーや、俺より君のが適任でしょ。俺にはこのパーティーの会計という大役を担っているんだからさ。」
そういってロアノーク改めオーブ軍ムゥ・ラ・フラガ一佐はようやく戸籍を取り戻した証のように、その名を刻まれたカードをヒラヒラして見せた。それを見て顔色を急に変えたのは
「アンタ…まさかまた「アスハからの軍資金たっぷり貰った♥」とか言わないよな?(※ドラマCD『OMAKE quarters Vol.3』参照)」
「ちょっと、シン!まだアンタ代表の事呼び捨てにしているの!?それにフラガ一佐の方が年上なんだし、もっと礼儀を―――」
「あ~ぁ、今日は俺が主役なんだし。ちょっとくらい良いだろう?もうルナはいいから食べてろよ。」
「何よ!普段そういうところから人柄が知れるのよ!ほら、お肉ばっかり取ってないで、ちゃんと野菜も摂りなさい。」
そう言ってシンの隣で甲斐甲斐しく大皿からサラダを取り分けるルナマリア。その様子をグラス越しに面白そうに見守っていたのは
「ふ~ん…ほんと、そういうところ見ていると、お姉ちゃんとシンってもう『夫婦』みたいだよね♥」
「「はぁ!?///」」
二人同時に声を上げれば、一同揃って笑いが起きる。
「ほら~、やっぱりそういうところ♪」
「ほんと、お似合いだな。」
「メイリン!それにちょっと、やめてくださいよ、アスランさんまで!💦」
アスランにまで同調されたのが恥ずかしかったのか、焦るルナマリア。メイリンはもうちょっと煽ってやりたい様子だが、流石にこれ以上は後で姉からキツイお説教を食らいたくなかったのか、話題を変えた。
「でもよかった。シンとお姉ちゃんがオーブに出向してくれていて。こうしてお誕生日のパーティー一緒にできて、嬉しいもん。」
「そうよね…」
先ほどとは打って変わって、グラスを置いたルナマリアが懐かしむように遠くを見る。
「あの頃は、こんな風にオーブの人たちとみんなで食事したり話したりできる日が来るなんて、思ってもいなかったもの。それにキラさんからオーブ出向の話を聞いて、まさかシンが受諾するなんて思ってもいなかったし。」
あれだけ憎んでいたオーブ。いや、憎んでいたのとは違う。「愛憎」という言葉が示す通り、心から愛していた祖国。家族との思い出の詰まった祖国。それを大事な家族ごと奪われ踏みにじられた怒りと悲しみを誰かにぶつけたかった。そうでもしないと本当に心が壊れそうだった。愛が奪われ残ったのは憎しみ。それがシンにとってのアイデンティティーだった。
だが―――今は違う。
(―――「何度流されても、僕らはまた花を植えるよ。」)
そういった青年の眼は、幾度も押し付けられた理不尽を乗り越え、たどりついた境地を移していた。
(―――「一緒に…戦おう。」)
そう言って差し出された手。
憎しむ相手に敗北し、唯一残っていたアイデンティティーすら失くしてしまった。
抜け殻の自分は、まさにオーブの慰霊碑の花々と同じ。踏まれて流されて。それでも彼:キラ・ヤマトは手を伸ばしてくれた。
奪う戦いではなく、守る戦い―――そう語ってくれる手に縋った瞬間、涙が止まらなくなった。
(―――「・・・はい!」)
ずっとこうしたかった。いや、こうして欲しかった。誰かに自分の存在を認めて欲しかった。そんな思いを議長に利用されていたなんて、知る由もなかった。まだ子供だったんだ。心がオーブ戦のあの時のまま止まってしまっていた。その時間の針を動かしてくれたのは・・・
「もう一度、ちゃんと自分の眼と足とこの手でオーブの今を知りたかったんだ。本当にあの場所に花を咲かせることができるのか、って…」
両手を握りしめて思う。
「あの時の俺は自分しか見えていなくってさ。家族を殺されて、アスハに怒りをぶちまけて。本当に子供だったなって今なら思う。」
「でも、その「過去」があるからこそ、「今」の君がいるんだろう?」
「フラガ一佐…」
シンが見つめたムゥの表情には、どこか寂しさを湛えていた。
「記憶を消され、戦いだけに命を駆り出された子供たちがいたことを俺は知っている。彼らは成長を止められていたんだ。完ぺきなただいうことを聞くだけの機械にするために、な。過去があって、後悔や失意…沢山の不満や悲しみを経験した過去があるからこそ、それを乗り越えて君は今成長したんだ。そうは思わないか?」
そうだ、彼の言葉に思い出す。
(―――「シン、ステラ嬉しいの。「昨日」を貰ったの。」)
そう言って嬉しそうに「また明日」と語りかけて消えたステラ。昨日なんてなかったステラ。心は幼子のように弱いまま亡くなったステラ。
そうだ、彼女の分も生きなきゃいけない。
「そうですね。怒りに任せてオーブを破壊して…でも何故か全然心が晴れなかった。キラさんを、フリーダムを討ったときも。ステラの仇が撃てたと思ったのに、全然納得できなかったんだ。それどころか、アスランさんに怒りをぶつけられて、何で敵を討ったのに怒りを向けられなきゃいけないんだって余計にムカついて。いいことをしているはずなのに、褒められることをしているはずなのに、何でって。そうしたら思い出しました。ディオキアで、アスランさんが「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで最後は平和なのか」って言っていたのを。」
「それは俺の台詞じゃないよ。君が憎んでいたカガリが言った言葉だ。」
「え?アスハが?」
驚くシンに、アスランが静かに頷く。
「俺もキラを討ったと思った時に、彼女に言われたんだ。武器を取るだけでは何の解決にもならないことを。そして俺もあの時のシンと同じだよ。「信じて戦うものは何なのか」分からなかった。でもキラが、カガリが、そしてラクスが手を取ってくれた。一緒に探すことを。」
「アスハが…キラさんと…」
「カガリは情に厚いよ。自分の非は素直に認められる人だ。それに直情的な子だったけれど、キラとカガリは戦争の中であっても、一番大事なことを最後まで捨てなかった。「人として何が大切なのか」という理念だ。俺も父と意見を違えてこちらの陣営についた時、それでも父を止められなかった自分を情けなく不甲斐ないと思っていたんだ。そうしたらカガリは言ってくれたよ。「あきらめなくていい。お父さんともまだ話せるかもしれないじゃないか!」とね。彼女は君の家族を奪ったオーブ戦の時、唯一の家族である父を失ったばかりだったんだ。彼女はもう父とは話せない。それなのに俺に自分には二度とないチャンスがあることを教えてくれた。」
「代表は凄くいい人なんだから。私のことも気にかけてくれるし。」
まるで自分のことのように自慢するメイリン。
思えばいつもルナにくっついているだけだった彼女が、いつの間にかしっかりと一人前になっている。
アスランさん…それにアスハの傍にいるからなのか…
「オーブは皆いい人達だよ。まだお姉ちゃんたちは出向してきたばかりだから、よく知らないかもしれないけれど。」
「いや、知っているよ。」
「え?」
「シン…?」
ホーク姉妹の驚く声。フラガ一佐もちらりとこちらを見やる。
「俺が家族を亡くした時、オーブの士官が一人、俺の話を聞いて、プラントで生活できるまでの面倒を見てくれたんだ。顔も知らない人が、どうしてそこまでって思ったけど、あの時はただ自分が壊れないようにするだけで精一杯で。今になって凄い感謝してる。」
あの時のあの人は、今どうしているだろうか…今なら素直にお礼を言いたい。
もしかして、今もオーブ軍に所属しているのか、あるいは戦火の中で、もう…。
「さぁさ、しんみるするのはここまでにして!折角の誕生祝の席なんだからさ♪ 彼女たちももっと飲みなって!」
「フラガ一佐、今それやったらオーブ軍でもセクハラ&モラハラですよ。」
メイリンがキッパリ突っぱねた。
「だったら―――」
思い立ったのか、アスランが自席で何かを探している。そして
「誕生日おめでとう、シン。俺からプレゼントだ。」
「え?いいんすか?」
「もちろん。」
「ここで開けてもいいですか?」
「あぁ。気に入ってくれるといいんだが。」
「じゃぁ」
そう言って、丁寧にラッピングされていた箱を開ければ中には
「…『写真たて』ですか?」
シンプルなA5版ほどの大きさのクリスタル。中心には写真を飾れるのだろうか、凹面状になっているが
「これを付けてみてくれ。」
小さなSDチップが付いている。凹面の裏側に装着してみると、画面だったらしくそこが光り出す。そして映し出されたそれに、シンの両目がみるみる見開いていく。
「―――!マユ!」
そこには活き活きとした笑顔の妹の姿が。更に指先でスライドすれば
「父さんと、母さんまで…」
「どうして!?」と言わんばかりに顔を上げてアスランを見れば、彼は頷いた。
「君の持っている妹さんの形見の携帯。もう今は生産していないから、バッテリーも切れてしまったらもう二度と映せなくなる。だからルナマリアに頼んで、君が不在の時にデータをバックアップしてもらっていたんだ。」
「え!?」
慌ててルナマリアを見れば「ごめん!💦」とばかりに両手を合わせて謝っている。
「でもそれだけじゃない。もう少し進めてみてくれ。」
「あ、はい…」
マユが取った写真は数十枚。メモリーはここまでのはず。だが、シンが見たこともない続きがあった
「え!?これ、一体何時…」
見知らぬ写真だ。しかし両親やマユ、挙句自分まで写っている。
更に父親の仕事中の一コマや、同僚たちとの談笑する様子、更に幼いシンとマユを含めた沢山の家族連れの写真まで。
「それを見つけ出してくれたのはカガリだ。」
「は!?アスハが!?」
口をポカンと開けたままのシンにアスランは続ける。
「カガリだけじゃなく、モルゲンレーテの社員みんなもだけどな。君のご両親はモルゲンレーテに勤務していらっしゃったんだろう?ならば記録が残っていないか、というカガリの要望でデータチェックをして。カガリも勤務時間が終わった後一緒になって探していたよ。そうしたら「アスカ」の苗字は君の御家族以外いなかったので、機密に触れていない残されていた画像を集めてくれたんだ。」
指をタップすれば、同僚と真剣に語り合う父の姿、仲の良い同僚たち家族と出かけたらしい公園やキャンプでのバーベキューを楽しむ様子、そこで母に抱かれているマユと彼女の足に興味深そうに触れているシンなど、あの頃の思い出が色あせず蘇っている。
「そっか、妹さんが残した写真は携帯を貰ってからのだから、こんな小さい時のは流石に残っていないわよね。」
一緒に覗き込んだルナマリアが彼の微笑ましい光景に自然と笑みを浮かべている。
「…シン…?」
戻ってきた―――もう取り戻せないと思っていた時間が、こんな形で―――
フレームを包むように抱きかかえ、シンは頬を伝う涙を何度も拭った。


***


すっかり夜も更け、解散したのちシンは一人思うところに向かう。

『オーブ慰霊碑』

そこはまだ戦後処理の手が回らず、荒れ果てたままの状態だった―――はずだった。
(え…?)
紅の瞳に映るのは、以前と違う光景―――まだ盛夏のごとく慰霊碑の周りには向日葵の咲きほこる姿。そして
<カサッ>
慰霊碑の前に置かれた花束と、そこにいたのは
「…アスハ…あ、いえ、代表。」
初めて自然と敬礼する。金糸を夜風に孕ませながら、振り返ったのはカガリ。
「奇遇だな。こんな時間に。ってそうか、今日お前の誕生日だったな。おめでとう、アスランたちからちゃんと祝ってもらえたか?」
「はい、それはもう…って、そうじゃなくって!」
<ザザァ―――ッ!>と波が打ち付け、その音に会話が途切れる。
「何でアンタ…いえ、代表がここに?」
「うん、お前の誕生日だしな。ご両親と妹さんにお礼言っておこうと思って。」
「はぁ!?」
あれだけ否定し、拒絶してきたのに、なんでコイツはそんなことが言えるのか、と思っていたら
「シンがいてくれなかったら、きっと私はオーブを外側から見れなかったと思う。内部の苦しい事情ばかり押し付けて、自分だけが可哀そうな口をきいて。理不尽だよな。国民は上の都合に巻き込まれただけなのに。お前の憎しみを受け止めるだけの技量が私にはなかったんだ。だから反発することでしかお前に対することができなかった。でも、お前の言葉がいつも私を原点に立ち返らせてくれた。「オーブ国民として」と「オーブの外側から見たこの国」のことをいつでも真っすぐに教えてくれていたのはお前だけだ。お前がいなかったら、多分私は今、ここにはいられない。そしてこれからも、だ。だからご家族にお前と会わせてくれたことを感謝していた。願わくば、許してくれることを祈っているって。」

お前ってやつは、なんでそういうこと、サラッといえるんだよ。
あんなに罵倒し、否定し、あんたの大好きなこの国を呪った相手なのに…

(―――「でも、その「過去」があるからこそ、「今」の君がいるんだろう?」)

俯きながら考える―――

そうか、コイツも成長していたんだ。
俺なんかよりずっと大変な思いをして。
今だって仕事が忙しいはずなのに、こんな写真を見つけてくれたり、花を供えてくれたり

(―――「カガリは情に厚いよ。自分の非は素直に認められる人だ。」)
(―――「代表はとてもいい人なんだから。」)

許すって難しいよな。
多分喧嘩するよりもずっと難しいし、政治の世界じゃもっと難しい事なんだって俺だってわかる。
でも、こうして今、ただの国民に対して、ZAFTから出向しただけの俺に対して、素直に自分の態度の非礼を詫びられる。

「…なんか、すげーや。」
「シン?」
俯いたままだったシンが顔を上げ、正面からカガリを見つめる。そして
「俺は―――」
<ザザァァーーーーン>
大波がかき消した言葉。
カガリが耳をそばだてるが
「え?今何か言ったか?」
「いや、もう言ったから。」
「すまん、波の音で聞こえなかったから、もう一回!」
「五月蠅いな!何度も言うことじゃないから!///」
「お前、何か顔赤くなってないか?」
「違うっ!もう俺は帰るから。」
「待てよシン。もう一回教えてくれ!」
「誰が教えるもんか!」
「こらーーーーっ!」

やっぱり怒るんじゃん。
でも俺も素直に一度は言ったからな。

―――「本当は、オーブが大好きだ!」って―――


・・・Fin.


***


てなことで、「シンちゃん、お誕生日おめでとう♥(≧▽≦)」

今年はSSも作ってみた!
けど何だか説教臭いというか、しんみりしていて花がない内容でごめんよ💦

何度も言いますけど、かもしたはアスカガ好きですし、キラカガもラクカガも好きですが、シンカガも好きですよ♪
てか、公式じゃ現状二人の関係は改善してないですけど。おまけCDのドラマも含めて。
あ、↑の設定は、そのドラマCDの設定である「シン&ルナ、オーブに出向中」{メイリンオーブ軍入隊」に沿わせていただきました。
とにかく本編じゃ「アスハは許さない!」で常にカガリに噛みつき、敵対し、途中から段々主人公というより敵の立場っぽくされてしまったので、そこがどうにも悲しい扱いのキャラになってしまいましたが、彼の精神的な傷(PTSD)を思うと、心を守るために「攻撃」に転じるか「守り」に入るか、という人が結構いますので、その「攻撃型」になったタイプだと思います。まだ15歳で家族を一気に失ってしまい、コーディは13歳成人という設定ですけど、あくまで身体的なことであって、精神的にはまだまだ子供ですよ。そんな子が自分の一番の精神的安定が図れる家族を根こそぎ奪われれば、壊れそうになって当然です。
そして、それをいい形で救い上げられれば良かったんですが、見事に議長に「両親からかけて欲しかった言葉や愛情(偽)」を貰ったことで(無論レイが暗躍)、彼に傾倒しちゃったという、最悪なパターンになってしまった感じですね。
でも最後の最後でキラに救ってもらったので、ここから立ち直って行けるかな。
劇場版では監督はイベントで「一番いい意味で片が付いたのはシン」とおっしゃっていたようなので、そこらへんは期待できそう。そしてオーブを立て直し(て欲しい)カガリと和解出来たら嬉しいですね♥
そんな思いも込めて、ちょっと構想執筆一時間半で書き上げてみました。

いいんです、かもしたが書いてスッキリすればそれで✨(*´▽`*)