○アムナット・ルエンロンvs井岡一翔●
井岡一翔の3階級目の世界挑戦はIBFチャンピオンのアムナット。このアムナットという選手、戦前になかなか情報が無く、穴王者だとか、やる気無しだとか、不確かな情報が飛び交っていた。それは井岡がロマゴンから逃げた(と思われている)からか、あの問題兄弟を扱っていたTBSだからか、とにかく面白いほど井岡が簡単に3階級目の王座を獲得するだろうとの予想が多かった。
そしてその予想は試合が始まってすぐに覆ることになる。様子見だった井岡に反してアムナットが好戦に出る。そのアムナットの放つパンチのスピードと破壊力は井岡以上で、驚いたのは腕をL字にして見せる巧みなディフェンス。それはまるでメイウェザーのようだった。開始3分程で穴王者なんかでは無く世界でもトップレベルの強豪だとわかった。それは初めてツニャカオ(比国)を見た時に感じた「天性のボクシングセンス」を思い出させる程だった。
特に試合を決定づけるパンチが井岡が不用意に距離を詰めると飛んでくるアッパー。これが強烈で、このパンチを見てから井岡の警戒心はMAXとなりガードを高く上げ、前半は防御に比重を置くこととなる。中盤からは井岡得意のボディ攻撃で活路を見出そうと攻めるもアムナットはクリンチも巧みで追撃が出来ない。
後半は井岡が単調に前に出て手数を出すが、そのほとんどを空転させられ、アムナットが危険を察知すると巧みなクリンチで流れを止めた。そしてアムナットの1発の大きなパンチでポイントをロスしていく。アムナットは過度なクリンチで減点受けるが、明確に取られたというラウンドは少ない。そしてそのまま判定となり、2-1でアムナットが井岡の3階級目の挑戦を退けた。
試合は完敗。鉄壁と思われた井岡のスタイル・技術が封じられ、悪い流れを変える程の引き出しを持っていない事を露呈した。この敗戦はこのままのスタイルでは上に上がることは難しく、何かを変えなくてはならないという非常に大きな挫折に感じる。しかしどうだろう。ロマゴンを回避して防衛していたライトフライ級時代程のバッシングがこの敗戦にあっただろうか。いやそれほどでは無かったように思う。アマチュア時代に負けた相手、元オリンピック選手、無敗のプロ戦績、この試合で井岡は挑戦者らしく強い相手にチャレンジした。不格好に負けてもその姿は清々しく感じるものだった。
今までやや急ぎ過ぎた井岡にはまだ多くの時間がある。この敗戦を活かすかどうかはこの試合をしっかりと受け入れて足りないものを補うしかない。思い出して欲しい。ウィラポンに挑んだ西岡利晃は老獪な王者に翻弄され何も出来ずの完敗だった。幾度の敗戦を経験し幾つもの引き出しを兼ね備えた西岡はアメリカのリングであのマルケスに精神も技術も上回ったのだ。井岡にも明るい未来はきっと来るはず。今後に期待したい。
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