台風14号は九州から中国地方にかけて上陸し、各地に一方ならぬ被害を出しながら東寄りに進んでいるようです。神奈川県では午前中に白く煙るほど激しい雨が降ったかと思うと午後から急激に晴れ渡ったりと、まるでジェットコースターのような目まぐるしさとなりました。
昨日に引き続き、今日も我が家に籠もってデスクワークに勤しんでいました。昨日のうちに買い物を済ませておいて、本当に良かったと思います。
こんな嵐の日に何を聴こうかと思ったのですが、昨日はバッハのチェンバロだったので、今日は
ベートーヴェンのピアノソナタを聴くことにしました。中でも『嵐』といえば…ということで、今回はピアノソナタ第17番《テンペスト》を取り上げてみようと思います。
作品31としてまとめられている第16番・第17番・第18番の3曲のピアノソナタは、1801年から1802年の初頭にかけてほぼ同時期に作曲が進められました。初版譜は出版社を営むハンス・ゲオルク・ネーゲリが企画した『クラヴサン奏者演奏曲集』に収録される形で、1803年4月に世に出されました。
作品31を作曲している時期は、ベートーヴェンが難聴への苦悶からハイリゲンシュタットの遺書を書いた時期にも一致しています。そんな作品31の中でもこの《テンペスト》は特に革新的で劇的な作品となっていて、3つの楽章の全てがソナタ形式で作曲されていることもユニークな点のひとつとなっています。
《テンペスト》という通称は、弟子のアントン・シンドラーがこの曲の解釈について尋ねたとき、ベートーヴェンが
「シェイクスピアの『テンペスト』を読め」
と答えたとされることに由来しています。しかし、現在この《テンペスト》の由来はベートーヴェンの秘書を自称するシンドラーによって生み出された作り話である…と考えて、ほぼ間違いないと思われています。
全体は3つの楽章で構成されています。
意表を突くようなドミナントの分散和音から始まって、嵐の不穏さを表すように低音と高音が左手で交差するように演奏される第1楽章、一転して柔らかな印象の変ロ長調の響きの中で、複付点リズムによって特徴づけられた主調の主題と断続的な属音のトレモロを伴奏とする属調の主題とが交錯する第2楽章、16分音符の連鎖が切れ間なく続き、3拍子の曲ながら拍節のずれ感によって2拍子的な特徴をもつパッセージが印象的な第3楽章と、いずれも魅力的な展開をみせる作品となっています。
そんなわけで、今日はベートーヴェンのピアノソナタ《テンペスト》をお聴きいただきたいと思います。現代のグランドピアノとは風合いの違う、フォルテピアノによる演奏をお楽しみください。
人間の命運は常に自然に握られていますね。いつ誰がどこで水害や土砂崩れに巻きこまれるか、ハザードマップが発展した現代でも誰にも分かりません。