共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はフォーレの誕生日〜元々は歌曲である《夢のあとに》

2022年05月12日 16時18分48秒 | 音楽
今日は朝のうちは日差しがあったものの、午後からは雨が降り始める生憎のお天気となりました。夜から明日にかけて雨足が強くなるようで、何となく今から気が滅入ります。

ところで、今日5月12日はフォーレの誕生日です。



ガブリエル・ユルバン・フォーレ(1845〜1924)はフランス・ロマン派を代表する作曲家の一人です。

教師だった父の元に5男1女の末っ子として生まれたフォーレは、幼い頃から教会のリード・オルガンに触れるうちに天性の楽才を見出されました。わずか9歳のときに入学したパリの音楽学校では、1861年に教師としてやってきたカミーユ・サン=サーンスにピアノと作曲を師事しました。

1865年に卒業した後にパリのマドレーヌ教会のオルガニストとなり、1871年にはサン=サーンス、フランクらとともにフランス国民音楽協会の設立に参加しました。晩年には難聴に悩まされながらも作曲を続け、次第により簡潔で厳しい作風へと向かっていきました。

フォーレ大規模な作品よりもむしろ小規模編成の楽曲を好み、室内楽作品に名作が多く遺しました。それぞれ2曲ずつのピアノ五重奏曲、ピアノ四重奏曲、ヴァイオリンソナタ、チェロソナタと、各1曲のピアノ三重奏曲、弦楽四重奏曲等があります。

また代表作として名高い《レクイエム》も、現在よく演奏されるフルオーケストラバージョンは出版社の求めに応じて改作したもので、オリジナルはヴァイオリンやフルート、オーボエといった高音楽器を使わない内省的な響きのするアンサンブルでした。こうしたところにも、フォーレのこだわりが垣間見えます。

さて、折角の誕生日に《レクイエム》をご紹介するのも何ですので(汗)、今日はフォーレの歌曲をご紹介したいと思います。

一般にはあまり知られていませんが、フォーレは歌曲の分野でも《夢のあとに(Après un rêve)》、《イスファハーンの薔薇(Les roses d'Ispahan)》、《祈り(En prière)》、ポール・ヴェルレーヌの詩に曲をつけた《月の光(Clair de lune)》、20篇のうち9篇を選んで作曲した《優しい歌(La Bonne Chanson) 》など、かなりの数の歌曲を残しています。その中でも、とりわけ有名なのが《夢のあとに》です。



恐らくフォーレの歌曲の中で、まっ先に上げられるのがこの《夢のあとに》でしょう。これはフォーレが1878年、33歳の時に作曲した歌曲《3つの歌 作品7》の第1曲です。

歌詞はイタリアのトスカーナ地方に古くから伝わる詩をフランスの詩人でパリ音楽院の同僚でもあったロマン・ビュシーヌ(1830〜1899)がフランス語に翻訳したもので、夢で出会った美しい女性と過ごす幻想的な時間が語られ、やがて夢から覚めた男性が「あの美しい女性の幻影を返してくれ」と一人寂しく叫ぶ姿が描かれています。



Dans un sommeil que chamait ton image
Je rêvais le bonheur, ardent mirage,
Tes yeux étaient plus doux, ta voix pure et sonore,
Tu rayonnais comme un ciel éclairé par l’aurore

夢の中にあなたの美しい姿があった
私の幸せな夢、燃え上がる幻影
あなたの瞳はとても優しく、声は澄んで響いた
あなたは輝いていた 暁に照らされた空のように

Tu m’appelais et je quittais la terre
Pour m’enfuir avec toi vers la lumiére,
Les cieux pour nous entr’ouvraient leurs nues,
Splendeurs inconnues, lueurs divines entrevues

あなたは私を呼び 私はこの地上を離れた
二人して光の彼方に逃れるために
空は私たちのために雲の扉を開き
見たこともない輝き 神々しい閃光が微かに見えた

Hélas! Hélas! triste réveil des songes
Je t’appelle,ô nuit,rends-moi tes mensonges,
Reviens,reviens radieuse,
Reviens,ô nuit mystérieuse!

あぁ!あぁ! なんという悲しい目覚め
私は叫ぶ おぉ夜よ 私に返しておくれ、あの人の幻影を
戻れ、戻っておくれ 輝きよ
戻っておくれ おぉ 神秘の夜よ!



実はフォーレはこの前年の1877年に婚約者のマリアンヌ・ヴィアルドから婚約を破棄されて、精神的に大きな打撃を受けています。そのこともあって、この詩の内容がまるでその当時のフォーレの悲痛な心情を表しているようにも感じられ、甘美で幻想的なメロディと相俟って心に静かに響く作品となっています。

そしてこの《夢のあとに》はフォーレらしい美しいメロディが心に残る曲ゆえに、歌曲としてだけでなくヴァイオリンやチェロといった様々な楽器での演奏でも知られています。歌い手さんには失礼ですが、何なら動画検索をしてみるとむしろ楽器での演奏の方が多いくらいです。

それでも、やはりこの曲は歌曲ですから、今日はオリジナルのかたちでの《夢のあとに》をお聴きいただきたいと思います。レジーヌ・クレスパンの歌唱による、対訳詞つきの動画でお楽しみください。



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