【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

既視感ナ長イ夜

2008年05月19日 01時54分44秒 | トカレフ 2 
  


眩暈は治まらなかった。 視界の中に深くと暗さが広がってきていた。
イッソのこと、このまま意識が堕ちてくれたらばと。
自分、何処かに逃げられないものかと、願いました。
部屋の中には異人が醸し出す怪しいもの、イッパイに詰まっているようだった。


呼吸が困難になってきた。 断続的にしか息ができないッ!
胸が、肺が、熱く熱を浴び始めていた。
心臓の鼓動が、激しいコメカミの血管脈動で感じられる。

息できぬ苦しさが、妖しげな気持ちよさげに為りかけていた。


異人の腹の上で顔を横向きに押さえつけられ覗く、元々暗い部屋の中の風景。
視野が狭まりながら真っ赤に染まり、真っ赤から赤黒い世界にへと堕ちてゆく。
此の侭、苦しさから逃れられないのなら モット暗さを増してきて、
再びあの夜の時に戻るんだろうかと。

あの晩、国鉄駅近くのバァさんの店がある番外地と、駅裏に抜ける踏切の間の線路内で、
鉄のレールの傍らで恐怖に駆られ暗闇透かし覗いた、異人の青い瞳が脳裏に蘇ってきていた。


段々と既視感は自分を虜にしながら薄れていき、代わりに諦め感を強めながらだった。
必死で起き上がろうとしたけど、躯が自分の意思どうりに動かせない。
マルデ自分の躯じゃぁなく、猫に睨まれた小さな鼠が絶対的な恐怖のあまりに、
筋肉が引き攣り、凍り固まっているみたいに、だった。


「此の人が、ァレは何処に在ると訊いとるんやけどな?」

頭の上から降ってくる咳き込むように話す医者の声、自分の耳には、
何処か深い洞穴の奥から響いてくるようだった。

異人の矢継ぎ早な異国言葉は、唾の飛沫と共にワイに向けられ飛んでくる。

「チィフ、アンタに預けたもん還せゆうてるで 」

聴こえる咄嗟な感じの翻訳言葉、ワイの手首を掴んで放さない異人の、
熊の掌みたいな手指を、医者が一本一本引き剥がすようにしながらだった。
異人が喚き言葉を喋ると、怒鳴るよぅな異国言葉で医者が応じる。
ワイが無理な体勢で顔を埋めている異人の腹、喚くたびに大きく揺れるように蠢いた。
暫くはワイを間に挟んで、訳も解らない言い争いみたいな会話が飛び交っていた。


もぉぅコンナン!嫌やっ!堪忍してくれッ!止めんかいッ!
っと、怒鳴り散らしたかった。


ッデ、ワイ、自分の躯が想うように動かせなかったのは、アンガイ素直な異人の、

「ダァ 」 ット

呟くような声が聴こえ、痛いほどの強さで手首を掴んでいた腕とは違う、
片方の丸太みたいに頑丈そうな太い腕を、ワイの背中から医者が重たそうに降ろしたとき、
マッタク身動きできなかった原因はこれかと、漸く気づかされた。

ユックリと起き上がると、寝台から咄嗟な感じで後ろに飛び退いたッ!

つもりが後ろに勢いよく倒れ、激しく背中と後頭部が壁に衝突した。
衝撃音、廊下や他の部屋にも轟いて聴こえそうなほどの音発てる。
押さえつけられ肺に留められていた息が、喉を削るよな音発てて出てきた。

壁際でナントカ踏ん張って立っているワイに医者が近寄り、ワイの両肩に手を置き、
ワイの顔面スレスレまで顔を寄せ訊いてくる。

「チィフ、ナニ預かってるんや?」

「ナッ ナツ! 」

ナニを?っと喋りかけたら、躯が堕ちるように前屈みに為り激しく咳が出た。
喉が痛いほど焼けるその咳のセイで、マタ気づかされた。
異人の腕が背中を圧迫押さえしながら、もう片方の大きな掌の指ではワイの喉首をかぁ!
ット気づかされると此の異人、コンナンするのに慣れてるわっ!
人の息の仕方を、首の絞め方で調整してる!ッ

今までに絶対ッ人をぉ・・・・・


停滞し熱くなっていた血液の流れが戻り、急激な感じで首筋の血管を駆け昇るッ!
暗く狭まっていた視界が多少は明るく開けてくる。
月の銀色な輝きに染まる部屋の中が見渡せるようになってくる。
だけど逆に躯の方がついていかなかった。
自分、背中を壁に凭せ掛けたまま、腰が抜けるような感じで床にと。


「ぁんたらナニ騒いでますんや?」

バァさんが部屋の扉の隙間から顔を覗かせ、訊いてくる。
扉を大きく開きながらバァさんが部屋に入ってくると、横たわるワイを全く無視し、
ワイの面のすぐ傍らを、バァさんの細い足くびが歩いていくのが、横向きの視界の中で視える。
バァさん、寝台に近寄ると覆い被さるようにしながら廊下の方を振り向きもしないで言う。

「お元気そぉやから、ァレこっちに持ってきてんかぁ 」

廊下から、ママぁの声が応じた。

床に崩折れ伏し瞼を閉じて聴くバァさんの声、何処か懐かしげな声やった。


そやけど、ナニを持ってこいやろなぁ?
もぉぅ、コレ以上の面倒ぉ堪忍してくれやぁ!


「先生ぇ、このコぉ大きゅぅなりましたやろぉ 」

「ぉッおぅ!、アイツ(シロタク運転手)がウチに担ぎ込んだ時には驚かされたけどな、直に判ったわ 」


ワイ、バァさんと医者の声で、もぉ此れ以上はないほど遣られた気分になった。
なになん?コノコって誰やねん? 反吐が出そうやった。

「おぃ、其処で吐いたらコッカら叩き出すさかいになっ!」

慌てて口の中に溜まった生唾飲み込んだら、荒れた喉に引っ掛かり再び激しく咳がっ!
今度は我慢なんかしなかったから、喉を焼けつかせながら咳は、限りなく迸り出続けた。
咳で顔が紅潮するのがわかり、熱もつ思考が意味なく空回りする。


自分、ヒョットしたら、後戻りなんかでけへんくらいに、ズッポリとぉ! ッテかぁ?



あの晩みたいな長い夜が 再び訪れてきた。




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