北陸新幹線が開業します。
今回は、あえて、新幹線のマイナス面を指摘しておきます。
ひとことで言えば、新幹線が出来ると、地方は決してそれだけ
で発展するわけではなく、むしろ、ほうっておくと衰退しかねな
いということです。
なぜかといえば、新幹線で地方と東京が結ばれると、人の流れ
は、地方から東京へと、一方通行になる傾向が強いからです。
私は、仕事で、上越新幹線を使って新潟に行く機会があります。
新潟といえば、かつて、在来線の上越線でよくスキー場に行き
ました。
そのイメージがあるので、 初め、新潟なら一泊してと、当たり
前のように思っていました。
ところが、新潟にいる仕事相手と、事前に電話で打ち合わせを
すると、相手は、
「何時の新幹線でいらっしゃいますか?」と聞くのです。
「まあ、夕方6時ぐらいのつもりです」と答えると、
「えっ?前の日にいらっしゃるのですか?」と相手は驚いていま
す。驚くのは私のほうで、
「えっ?新潟なら一泊でしょう?」と言うと、相手は、
「いや、朝の新幹線なら、泊まらなくても平気ですよ」と答える
のです。
時刻表を見てみると、東京発7時台の新潟行きが何本かあり、
それに乗れば、9時台には、新潟についてしまいます。
新潟まで2時間ちょっとです。
もっと早いのは、東京―新潟ノンストップの列車もあり、これ
なら東京―新潟が1時間半ほどです。1時間半なら、通勤できま
すね。いや、実際、東京近郊では、毎日の通勤時間が1時間半な
どというサラリーマンは、珍しくありません。
「新潟は、もう、日帰りですよ」と苦笑する相手に、わが身の
不明を恥じるのみでしたが、実際、その後は、新潟も日帰りです。
新潟だけではありません。当ブログは、大震災の取材で三陸に
行きましたが、陸前高田も、東北新幹線を使えば、日帰りです。
東京から一の関に行き、そこからレンタカーを借りれば、気仙沼
から陸前高田に入れます。
新潟の場合、仕事が終わって、夕方になると、仕事相手は、「軽
く、食事でもいかがですか」となります。
しかし、夜8時台の上越新幹線に乗れば、東京に10時台に帰
ってこれます。最終は9時台ですが、これだと、東京は11時を
回り、そこから家に帰るのが、時間的に少しきつい。
ですから、8時台の上越新幹線「とき」に乗るのですが、そう
なると、食事も、まことに「軽く」となります。二次会なんて、
どんでもない。
さて、新潟の仕事を日帰りでこなるようになって、どうなった
か、まとめてみましょう。
まず、前日の夜に入って、宿泊するということがなくなったの
で、新潟のホテルに泊まらなくなりました。
なにしろ、仕事当日の朝、東京を出ればいいのですから。
ホテルは、人が泊まらなければ、商売になりません。
新幹線が来るというので、ホテルを整備したものの、なんのこと
はない、かえって、人が泊まらなくなったという状況が生まれて
しまいます。
当日も、仕事が終わったあと、「では夕食でも」となったとして
も、8時台の「とき」に乗って東京に戻るので、どうがんばって
も、食事は8時には切り上げなければなりません。二次会は行け
ません。飲食街にいても、早くに切り上げないと、新幹線に間に
合わなくなります。
新潟の歌といえば「新潟ブルース」が有名ですが、せっかく新
潟に行っても、日帰りとなると、そういう情緒を楽しむどころで
はありません。新潟には、古町という有名な飲食店街があります
が、最近は、ここも、お客さんが減って、早い時間に閉める店が
増えました。店をたたむケースも多く、ほうっておくと、シャッ
ター通りになりかねません。すでに、なりつつあります。
新幹線が出来ると、地方は、そうやって、まず、ホテルに人が
来なくなります。次に、飲食店街に来る人が減ります。
次は何かというと、デパートです。
地方都市には、どこも、老舗のデパートがあります。
新潟には、大和というデパートがありました。
しかし、4年ほど前に閉店しました。
それもそうです。なにしろ、新潟から東京へ、2時間、早けれ
ば1時間半で行けるのですから、銀座や日本橋がうんと近くなり
ました。たとえば、結婚式の引き出物にしても、じゃあ、日本橋
の三越か高島屋にしましょうか。あるいは、銀座の松屋にしよう
か、ということになってしまいます。
いや、新幹線が出来て、東京から新潟に来る人も増えるでしょ
うという声が出ると思います。
もちろんそうです。しかし、仕事で行く場合は、今ここで書い
たように日帰りになります。
観光はというと、もちろん、さすがに一泊、二泊で、というこ
とが多いでしょう。
しかし、観光って、1年にそう何回も行くものではありません。
それに、観光は、今年新潟にいったら、来年は秋田に、あるいは、
富山に、という具合に、あちこちめぐるのが普通でしょうから、
同じ観光客が、足しげく新潟に通うということはないのです。
一方、新潟から東京には、足しげく通うということが起きます。
新潟に住む知り合いは、昨年夏、ディズニーランドに行ったかと
思えば、その1か月後に、横浜アリーナまでコンサートを聴きに
行きました。
ですから、どうしたって、人の流れは、新潟から東京に向かう
ことになるのです。
東北新幹線は、青森まで伸びました。
青森開業の日、青森駅で盛大なお祝いをする風景が、テレビで
繰り返し、流されました。
東京から青森へ。観光に行く人は増えるでしょう。しかし、先
ほども指摘したように、1年に2回、3回と、同じ青森に行く観
光客は、そんなにはいないでしょう。しかし、青森から東京へ、
仕事で来る人は、それこそ、1年に何回も来るでしょう。
そうです。
新幹線というのは、地方から東京へ、一方的な人の流れを作る
のです。
上越新幹線が出来たあと、新潟県の人口は増えていません。む
しろ、減り続けています。
東北新幹線の沿線も、同じことだと思います。
新幹線は、地方から東京に向かう一方的な人の流れを作ります
ので、地方は、かえって、衰退しかねないのです。
新幹線が来れば地方は活性化する。あるいは、地方の活性化に
は新幹線が切り札だ。長い間、そう考えられてきました。
とにかく新幹線を誘致せよ。
新幹線を持ってこい。
地方の政治家は、新幹線誘致にやっきでした。
しかし、実際に新幹線が出来てみると、人の流れは、地方から
東京に向かってしまいます。これをほうっておくと、かえって地
方は衰退しかねません。
新幹線は、地方にとっては、プラスばかりではありません。
マイナスもある。
プラス・マイナスを考えないといけない。
ほうっておくと、マイナスのほうが大きいかもしれませんよ。
なにしろ、新幹線でつながる相手は東京です。
東京の吸引力は、半端ではありません。
新幹線が出来て、地方は、むしろ、気を引き締めないといけな
いと思います。
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