いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

無理にキスしても、外国人だから無罪?・・・ちょっとありえない判決が出ました。これでは法の下の平等が成立しません。

2017年09月06日 17時36分55秒 | 日記

 電車の中で、嫌がる日本人女性にキスをして逮捕されたブラジル人男
性に、名古屋地裁は無罪判決を出しました。
 これは、ふつうの市民感覚として、おかしいと思います。
 
判決は無罪の理由を「女性の拒否が、外国人にはよくわからなかった」
としています。
 これは、ちょっと無茶な理由でしょう。

 第一に、日本の事情が分からない外国人なら、無罪になるというのは、
おかしい。この理屈なら、日本でなにか犯罪をおかしても「私は外国人
だから、それが日本では犯罪になるとは思いませんでした」と主張すれ
ば、それで無罪になってしまいます。
 逆にかんがえてみましょう。
 もし私たちが、アメリカで犯罪をおかし、逮捕されたとします。そこで、警
察で、あるいは、裁判所で、「私は日本人だから、これがアメリカで犯罪
になるとは知らなかった」と訴えたとしましょう。警察や裁判所は「あなた
はいまアメリカにいます。アメリカにいる以上は、アメリカの法律に従うの
が当然です」と、その訴えを聞きもしないでしょう。
 
 もう、10年以上になりますが、アメリカの南部で、ハロウィーンの仮装を
して近所の庭に入った日本人青年が、その家の住人に射殺されたことが
ありました。これは、無罪になりました。ハロウィーンの日を間違えたのが
ひとつの原因でしたが、それより、この場合、他人の家の庭に入ったらそ
れだけで不法侵入になるというアメリカの法律が、適用されて、銃を撃っ
た住人が無罪になったのです。アメリカの裁判官は、「日本人青年は、外
国人だから、他人の家の庭に入ったら不法侵入になるとは知らなかった」
とは、これっぽっちも認めてくれなかったのです。だから、射殺した人が無
罪になりました。
 
 どの国でも、その国にいる以上、その国の法律は、だれであっても、守
らなければならないのです。
 外国人だから、日本人女性の拒否が、よくわからなかったというのは、
理由になりません。

 これが通用するのなら、外国人は、日本で何をしても、「外国人だから
日本の事情を知らなかった」ですまされてしまいます。
 そんな無茶苦茶なことはないでしょう。

 第二に、この判決でいう「外国人」というのは、どの国の人を指すのでし
ょうか。
 今回は、ブラジル人でした。
 では、アルゼンチン人は? スペイン人はどうなんでしょう。
 アメリカ人は日本のことをよく知っているから、だめなんでしょうか。
 イギリス人は?
 いや、アジアの人だったらどうなんでしょう。
 今回逮捕されたのが中国人なら、この裁判長は、どう判断したのでしょう
か。韓国人ならどうなんでしょう。
 国によって、「外国人」かどうかを分けるのでしょうか。
 今回は、ブラジル人だから無罪だったけれど、中国人なら有罪だったと
いうようなことになれば、これは、完全に差別です。
 国による差別になります。
 そう考えると、この判決のおかしさがよくわかります。

 第三に、法の下の平等という理念から見て、おかしいでしょうということで
す。
 たまたま隣りの席に座った女性に抱き着いたり、キスをしたりする。
 どう考えても、これは、アウトでしょう。
 夜、酒に酔った日本人のサラリーマンが、隣りに座った女性に、酔った
勢いで抱き着き、キスをしたとします。いまどきの日本なら、これはもう、す
ぐに駅員に突き出され、一発で逮捕されるでしょう。
 そのとき、このサラリーマンが
 「いや、酔っていたので、覚えてません」
 と弁解したとします。
 そこで裁判長が、「被告は、酔って正体不明だったので、罪を問えない」
として、無罪判決を出したら、猛烈な社会的非難を浴びるでしょう。
 でも、外国人なら「日本の事情を知らない」として無罪になるというような
ことがあっては、いけません。
 日本にいる以上は、日本人であろうが、ブラジル人であろうが、どこの国
の人であろうが、同じ法が、同じように適用されなければなりません。
 それが、法の下の平等です。
 人によって、法の適用が変わってはいけないのです。
 法はだれに対しても、同じように適用する。
 それが、法の精神です。

 でも、外国人が、日本や日本人のありようを知らないで、摩擦が起きると
いうことは、もちろん、ありうることです。
 たとえば、日本の団地に住む外国人が、ゴミの分別を知らず、適当にゴ
ミをすてて、問題になるということは、しばしば、報道されます。
 これは、そこに住む外国人に、ゴミの分別をちゃんと教えるということが
必要なのです。
 外国人だから、ゴミを適当に捨ててもしようがない、というのではなく、そ
の地域に住む以上、その地域のルールを守らなければならない。地域で、
そのルールを教えてあげなければならないという話です。
 外国人が日本のルールを知らないがために摩擦が起きる。それは、しよ
うがない。しようがないけれど、それは、日本人が、外国人に日本のルー
ルを教えてあげなければなりませんね、ということなのです。
 温泉では、かけ湯をしてから湯舟に入りましょうというルールは、その温
泉を管理している旅館なり自治体なりが、教えてあげれば、それで良い方
向に行く話です。

 しかし、法をおかした人に、「外国人だから」という理由で、あなたは無
罪です、と言ってしまうのは、まったく話が違います。
 日本にピストルを持ち込んだ外国人を逮捕して、その外国人が「私の母
国ではピストルを持つことが許されています。日本では禁止されていると
は知りませんでした」と主張したとします。これに、裁判長が「そうですね。
あなたは外国人だから、日本のことがわからなかったのですね」と言って、
「無罪」を言い渡したら、どうなりますか。
 今回の無罪判決は、ちょっとありえない判決だと思います。