最近、中国は、領土問題で他国から批判されると、「これはもとも
と中国の領土だから、中国の国内問題であり、他国に批判する権利
はない」という反論をするようになりました。
これは、他国からの批判を、門前払いするものです。
このロジックを使うと、何でもできてしまいます。
このロジックに対抗するには、日本も、十分に理論武装しなけれ
ばなりません。
甘く見ると、してやられます。
典型的なのは、南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島)の埋め
立て問題です。
中国はスプラトリー諸島の島を埋め立てて、軍事拠点にしようと
しています。日本やアメリカはこれを批判しているのですが、そ
れに対し、中国政府は最近、「日本は、日本と関係ないことに口出
しするべきではない」との考えを示し、逆に日本を批判しました。
スプラトリー諸島は中国の領土だから、それを埋め立てようが、
基地を作ろうが、中国の権利だ。領土の中で、何をしようが、他国
が批判する権利はない。
そういうわけです。
中国の領土の中でやっていることに、日本は口を出す権利はない
というわけです。
中国は、周辺国との間で、少なからぬ領土問題、国境問題を抱え
ています。
南シナ海の島をめぐっては、ベトナム、台湾、フィリピン、マレ
ーシアといった国々と、対立しています。
中国は、南シナ海は、明の時代から、中国の領海だったと主張す
るのです。南シナ海が中国の領海であれば、他国は口を出す権利は
ありません。しかし、南シナ海が中国の領海だとは、どの国も認め
ていないのです。
どの国も認めていないものを、自分の国の領土・領海だと主張す
るのは、19世紀の帝国主義国家がしたことです。
19世紀は、欧米諸国が帝国主義的な領土拡張政策を採り、アジ
ア、アフリカを、次々に植民地としていきました。
その結果、二度の世界大戦が起きたのです。
その反省に立ち、国連が組織され、いま、先進国と呼ばれる諸国
は、他国が認めない領土・領海を、自分のものだと主張することは、
もうなくなりました。
ところが、中国はちがいます 。
いまの中国がしていることは、19世紀の帝国主義諸国がしてき
たことと同じです。
中国は、「遅れてきた帝国主義国」といっていいと思います。
どの国も認めない領土・領海を、はずかしげもなく、「中国の領土・
領海だから、他国が口を出す権利はない」と言い切る。
これは、19世紀なら、間違いなく、戦争になっています。
このロジックは、無茶なロジックで、どうしたって、無理があり
ます。
例えば尖閣諸島です。
日本は、一貫して、尖閣諸島は日本の領土だと主張しています。
中国のロジックが通用するなら、日本が尖閣は日本の領土だと主
張しているのであれば他国つまり中国は口を出す権利はないという
ことになります。
中国が、南シナ海のことに日本は口を出す権利はないというので
あれば、中国も尖閣諸島に口を出す権利はないということになりま
す。
領土問題は中国の国内問題だと主張するのが、いまの中国の基本
的な外交方針となっているようです。
国内問題だから、他国は口を出す権利はない。
そういうわけです。
それですむのなら、安いものです。
米国務省の中国担当官だったマイケル・ピルズベリー氏のことを、
以前、紹介しました。ピルズベリー氏は、アメリカの対中国政策は、
ことごとく間違っていたと告白しています。それを、「100年のマ
ラソン」(日本語訳では、チャイナ2049 となっています)とい
う本で克明に記しています。
近いうちに、この本のことを取り上げたいと思いますが、ひとつ
ピルズベリー氏が言っていることを紹介しておきます。彼は、「中国
は孫子の兵法というものを外交の基本にしている。孫子の兵法で重
要なもののひとつは、戦わずして勝つということだ」と指摘してい
ます。そして「アメリカ政府は、そのことに全く気がついていな
かったのだ」と。
そうです。
領土・領海を「もともと中国のものだから」「他国には口を出す権
利はない」と言い募り、それを既成事実にするのは、まさしく、戦
わずして勝つということです。
紛争状態にある領土・領海を、「もともと自国のものなんだから、
口を出すな」と言い、そのまま実際に中国のものにしてしまえば、
武力衝突をすることなく、領土・領海を手に入れることになるわけ
です。
これこそ、戦わずして勝つ、です。
このロジックを認めてしまえば、何もできなくなります。
日本も、本気になって、理論武装をする必要があるでしょう。
いやな話ですが、中国のロジックには、日本もしっかり対応しなけ
ればなりません。