いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

日本の農業の再生のために・・・TPPを農業衰退の言い訳にしてはいけないでしょう。

2015年02月16日 16時15分08秒 | 日記

 前回の記事で書いたように、日本の農業が衰退したのは、TP
Pやアメリカのせいではなく、国内的な要因です。
 かつて、日本の農政を「NO政」と呼んだことがありました。
NO政という言い方は、当時の新聞にも、よく出ていました。
 農業に対するまっとうな政治がないというわけです。
 
 なにしろ、農業をしている人口(農業就業人口)が2013年
で226万人しかおらず、その平均年齢が66歳というのですか
ら、衰退とかなんとかいうより、消滅の危機といったほうがいい
かもしれません。
 
 日本の農業は、内部から崩壊しかねない状況です。
 JA全中も、農水省も、本当に危機感を持って、手を打たない
と、日本の農業は、このままずるずると行ってしまいます。
 
 あえて書きますが、こういうとき、JA全中や農水省にとって、
TPP(環太平洋経済連絡協定)のような外圧は、便利なのです。

 というのも、
「TPPは日本の農業を衰退させる」とか、
「TPPで日本の農家はやっていけなくなる」とか言えば、新
聞やテレビは取り上げてくれます。
そして、自分たちの存在をアピールすることが出来ます。
存在意義を、てっとり早く、アピールできるのです。

これに対し、226万人しかいない農業人口を増やすというの
は、大変な仕事です。2年や3年で出来る仕事ではないでしょ
う。長期的な展望に立った大仕事になります。しかも、成果は
なかなか目に見えてこない。

早い話が、「TPP反対」のほうが、すぐ出来て、簡単なのです。
なにしろ、集まって「TPP反対!」と言えばいいのですから。

そうやって、「外圧」を、言い訳に利用するのです。
それは、1990年代のGATTウルグアイラウンドの時にも
見られた構図です。
このときも、JA全中は「外国米は、一粒たりとも、日本には
入れない」と、猛烈な反対運動をし、農水省も、基本的にはそ
れを支援しました。
「ウルグアイラウンドで外国から安いコメが入ると、日本の農
業は衰退する」
というのが、その理由でした。
結局、1994年に、ウルグアイラウンドは合意されます。
それから、もう20年たちます。
当時の農業就業人口(1995年)は414万人です。201
3年の226万人より188万人多いのですが、しかし、41
4万人というのは、多い人数ではありません。農業人口の減少
は、すでに大きな問題になっていて、農村の高齢化、農村の後
継者不足が、盛んに指摘されていました。

大事なことは、それはウルグアイラウンドのせいではないとい
うことです。

20年前も、20年たっても、同じことを言っているのです。

農村=高齢化というのは、もうずいぶん前から言われていたの
です。ですから、JA全中も農水省も、若い人が農業に「就職」
するような抜本的な対策を立てなければならなかったのです。
でも、その対策は、いまも述べたように、本気で取り組まない
といけませんし、成果が出るのに時間がかかります。
やらなければならない作業ですが、しんどい作業です。

それに比べ、「ウルグアイラウンド反対」というのは、簡単で
す。人が集まって、「反対」といえばいいのですから。

ウルグアイラウンドは、合意に際し、政府が農業に対し、「ウル
グアイラウンド対策費」として、6兆100億円の予算をつけ
ました。
2015年の日本の防衛費が4兆9000億円で、過去最高と
話題になりました。過去最高で4兆9000億円です。それに
比べると、1995年のウルグアイラウンド対策費、6兆10
0億円がいかに大きいか、よくわかります。
ところが、それだけのお金を出して、日本の農業人口は、なお、
減り続けているのです。何をしてきたのでしょう。

TPPやウルグアイラウンドのような「外圧」は、利用しやす
いのです。
TPP反対、ウルグアイラウンド反対というのは、大変簡単な
ことです。そして、とりあえず反対といっていれば、存在をア
ピールできます。
しかし、日本の農業がここまで衰退したのは、TPPのせいで
はありません。TPPはまだ始まってもいないのですから。
日本の農業の衰退の言い訳、エクスキューズとして、TPPを
利用することがあってはならないでしょう。