いせ九条の会

「いせ九条の会」の投稿用ブログです(原稿募集中)。
会の趣旨に賛同される方、メールでご投稿ください。

国連平和維持活動(PKO)の性格について

2007-08-11 | ご投稿
安倍首相は8月6日の広島市平和記念式典の挨拶で「今後とも、憲法の規定を遵守し、国際平和を誠実に希求し、非核三原則を堅持していくことを改めてお誓い申しあげます」と述べました。しかし、この言葉は偽りでした。8月10日、安倍首相が設置した集団的自衛権を研究する有識者懇談会は、海外に派遣された自衛隊が、共に活動する外国軍が襲われた際に援護に向かう「駆けつけ警護」について、国際的な常識で容認すべきとの意見が大勢を占めました。安倍首相は「国際的な平和活動に一層積極的に関与することが必要だ。他国の共通の基準を踏まえないと効果的な活動を行なえない」と必要性を強調しました。

それでは、既にブログで紹介していますが、再度、国連平和維持活動(PKO)で、他国軍が攻撃されたときに応援に駆けつけることがPKOで位置づけられているのか、国連広報センターのホームページで述べている要点を紹介します。

PKOは、軍人要員だけでなく文民警察官、選挙監視団、人権監視団、その他の民間人が参加する。

PKOの活動分野は武装解除や軍隊の解散、文民警察官の訓練と監視、選挙の組織や監視などのほか、各種の国連機関やその他の人道的組織と協力しながら、難民の帰還を助け、人権の尊重を監視し、地雷を撤去し、復興を支援することである。

PKOは国連派遣団に参加するかどうか、参加するときにはどのような活動分野に参加するかは各加盟国に任されている。

PKOの部隊が派遣される国の政府、および通常その他の当事者の同意が必要であり、いかなる形であれ、どちらかの当事者に味方する形でその活動が利用されてはならない。平和維持軍の最も強力な「武器」は、国際社会全体を代表しているという事実に基づく不偏性と合法性である。

PKOに参加する部隊は、小火器を携行し、自己防衛のため、または正式に権限を授与された業務の実行を武装した人が妨げた場合に、最低限の武力を用いることが認められている。監視団と文民警察は、通常、非武装である。

PKOで肝心なことは、加盟国による政治・財政面での持続的な支援、そしておそらく最も重要な要素だと思われる紛争当事者の協力が必要と述べています。

紛争当事者の協力が必要なのに、他国軍が攻撃されたといって、応援に駆けつけてその紛争当事者と交戦して衝突の規模を拡大させることはPKOの目的に反します。PKOでの武器の使用は自らが遭遇する事態に限定されている規定にも反します。

元国連事務次長のブライアン・アークハートさんは、2006年12月13日付朝日新聞紙上で、非暴力の原理を紛争地に持ち込む。「武器は持っていくが使わない」ようにするのがPKOの性格と述べています。

国際貢献に名を借りた海外での武力行使に道を開けば、対米追従の政府の下では、米国を中軸にした有志連合の参加で集団的自衛権は発動されるでしょう。安倍政権はいまだにイラク戦争は正しいという認識を示しています。

集団的自衛権「行使容認」憲法解釈変更は当面困難に/山崎孝

2007-08-10 | ご投稿
私は参院選で歴史的な敗北を喫した安倍首相に、歴代政府が守ってきた憲法解釈を変える資格・権威はないとブログで述べました。政局も憲法解釈変更への抵抗が目立ち始めました。

【集団的自衛権「行使容認」憲法解釈変更困難に 公明側、反対を明言】(2007年8月9日付朝日新聞)

安倍首相が意欲を見せる集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈の変更が当面、困難な見通しとなった。首相が設置した集団的自衛権を研究する有識者懇談会は、今秋にも行使容認を提言する方向だが、公明党の北側一雄幹事長が8日、憲法解釈の変更に反対する考えを明言したのに加え、参院の与野党逆転により自衛隊法改正など必要な法整備も難しいためだ。

公明党の北側幹事長はこの日の記者会見で、憲法解釈の変更について「私どもは元々反対だし、参院で与野党が逆転しているので、そういうことができる状況ではない」として反対する意向を表明、法整備も難しいとの認識を示した。

首相は懇談会に、公海上の米艦防護や米国向けミサイル迎撃など4類型に絞って集団的自衛権の行使が可能かどうか検討を指示。5月の国会答弁で「(新たな憲法)解釈にのっとって自衛隊が行動する場合は、根拠となる法律も当然必要だ」と述べ、法整備を前提とする考えも示している。

自民党内の議論や内閣法制局によると、集団的自衛権の行使を容認する場合、行使の要件や手続きを定める新規立法のほか、個別的自衛権の行使を前提にしていた自衛隊法に米国向けのミサイル迎撃などを加える法改正が必要になる。

だが、公明党が反対している上に、民主党が国会で集団的自衛権の行使のための法整備に協力する可能性はない。小沢代表も7日の会見で、懇談会を設置した首相の手法について「他人の出した結論を公正であるかのごとくやろうという手法そのものが、あまりよろしくない」と批判した。

こうした中、懇談会内には4類型の中で法改正が不要なものについて、行使容認を先行させるべきだとの意見もある。政府内には憲法の解釈変更は「首相の国会答弁で足りる」との見方もあったが、首相がこの手法をとれば与党内からも拙速との反発が出るのは必至だ。(以上)

朝日新聞報道は「安倍首相が意欲を見せる集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈の変更が当面、困難な見通しとなった」となっています。当面ではなく永続して民主党や公明党が解釈改憲や明文改憲で、集団的自衛権行使の可能や海外で武力行使の可能にするような動きを封じ込めるためには、これを拒否する強い世論を維持していく必要があると思います。

28日に南北首脳会談 改憲の方向は東アジア情勢と更に矛盾拡大/山崎孝

2007-08-09 | ご投稿
【南北首脳、利害一致 28日会談 求心力・対米打開狙う】(2007年8月8日付朝日新聞)

 【ソウル=高槻忠尚】政権末期を迎えて求心力の低下を打破したい盧武鉉・韓国大統領と、米朝関係の進展を背に朝鮮半島の平和体制確立の意思をちらつかせ、韓国から新たな「実利」確保を狙う金正日総書記。7年ぶりとなる南北首脳会談の開催は、双方の利害が一致して実現する運びとなった。

 金大中前大統領の太陽政策を継承した慮大統領は03年の就任以降、「可能であれば時期、場所を問わず受け入れる用意がある」として首脳会談に意欲を表明、水面下で開催を打診し続けてきた。

今回の会談は北朝鮮側の逆提案という形をとっているが、任期切れまで半

年余りの慮政権が影響力を発揮できる「最後の機会」と見て最大のカードを切ったのが実情だ。

 塵政権は「南北関係進展が核問題の解決を側面から支援する」(韓国政府筋)と判断したほか、年末の大統領選で野党ハンナラ党に先行を許す与党系を後押しすることも狙った。

 00年の初の首脳会談で、次回は金正日総書記が韓国を訪問することが決まっていたが、会談実現のために韓国政府が譲歩した形だ。

一方の金総書記が韓国との首脳会談を受け入れた最大の要因は米国との関係改善だ。昨年の核実験の強行後、ブッシュ米政権は強硬姿勢を改め、米朝直接対話が繰り返されるようになり、かなりの自信を深めているとみられる。

 韓国政府は既に寧辺の原子炉停止に伴う重油5万トンを提供し、食糧支援も再開している。食糧・エネルギー事情が恒常的に悪化している北朝鮮は、今回の首脳会談を新たな支援を引き出す場に活用したい思惑がある。(以上)

 韓国と北朝鮮の政府にそれぞれに国内の政治状況への思惑があったとしても、南北首脳会談を実現させる政治動向は双方が信頼を強めていく方向で、爆弾ない道を歩む、戦争を避けようとする方向です。米国の国務省担当者は、朝日新聞記者に「驚きはない。6者協議に悪影響があるとは思わない」と、歓迎する姿勢を示しています(9日付朝日)。

南北融和路線は揺るがず、6者協議は進展し、ブッシュ政権は任期内の米朝正常化を視野にいれる、本年1月には東アジア共同体の構築がアジアの国の首脳会議で確認されている状況の中で、自民党の改憲の方向は、信頼醸成への方向ではなく、爆弾がある方向、中国や北朝鮮とは軍事的対立を続ける方向です。アジアの動向とは全く整合性のない方向です。

【参考】8月2日、議長国フィリピンのロムロ外相はARF(東南アジア諸国連合と日中韓の地域フォーラム)終了後に記者会見し、北朝鮮の核と拉致問題に触れて、「重要なことは対話を続けることだ。六カ国協議の作業部会が8月末までに開催される。道のりは遠いが、これが爆弾のない道であり、障害を乗り越える道だ」と強調した。(ブログで紹介済み)

【関連情報】6カ国協議:エネルギー支援作業部会が終了(2007年8月8日付毎日新聞)

板門店で2日間行われた6カ国協議の経済・エネルギー支援作業部会は8日、北朝鮮の核施設無能力化など「第2段階措置」の見返り支援について北朝鮮が要望する資機材リストを提出し、終了した。リストは数十品目にわたるが、具体的な製品名などが不明なものがあり、参加国はさらに詳細なリストを示すよう要求。来月中旬に北朝鮮からリストの再提出を受けた後、次回作業部会の日程を調整する方針を確認した。

日本側協議筋によると、北朝鮮側は2月合意で確認した第2段階の見返りである重油95万トン相当の支援のうち、半分程度を毎月5万トンずつ重油で、残りは既存の火力・水力発電所と炭鉱に関連する資機材で提供するよう要望した。資機材リストの中には、関税分類番号まで特定した品目がある一方、製品名が分からない品目もあった。

次回の重油5万トン支援は中国が「準備中」、その次は米国が「検討中」との立場が示されたが、提供時期は来週開催予定の非核化作業部会の議論を見守って決めることにした。

2日間の協議で日本側首席代表の伊原純一アジア大洋州局参事官は「日朝2国間の懸案の進展がなければ、エネルギー支援はできない」との従来方針を改めて示す一方、「疑問点を聞いたり、意見表明は積極的に行った」(外務省筋)という。【ソウル支局】

参院改憲派3分の2を割る「10年に発議」困難に/山崎孝

2007-08-07 | ご投稿
私は既にブログで書いていますが、2007年7月13日付朝日新聞の「朝日・東大共同調査」の結果の記事は、参院の候補者たちは、集団的自衛権の行使について《公明の96%は反対。共産と社民も全員が反対。民主は行使に反対が59%》という意志を表明した。自民党の憲法改定の最大目的は、集団的自衛権行使が出来る憲法だから、憲法改定を審議する討論の場において、憲法にいかなる形であれ集団的自衛権行使が出来るような文言が盛り込まれること、また別な法律で自衛隊の海外活動を規定して、結局は集団的自衛権行使に道を開くことに対しては、集団的自衛権行使に反対した公明党、民主党の候補者が当選した場合は、自らの思想信条を守り生きる人間としての誇りをかけて、反対しなければならないと述べました。

2007年8月7日付朝日新聞に次のような記事があります。

【参院改憲派3分の2を割る「10年に発議」困難に】

 7日召集の臨時国会に登院する参院選の当選者のうち憲法改正に賛成なのは48%と半数を割っていることが、朝日新聞社と東京大学の共同調査で明らかになった。非改選を合わせた新勢力でも53%。政治家の意識を調べるこうした共同調査は03年の衆院選以降、国政選挙のたびに実施してきたが、改憲賛成派が憲法改正の発議に必要な3分の2を割り込んだのは初めて。また、最大の焦点である9条改正については当選者の26%が賛成で、

反対は54%。新勢力全体でも賛成31%、反対50%だった。

 5月に成立した国民投票法では、施行までの3年間は改憲原案の提出・審議ができないが、新議員は6年の任期の間に、憲政史上で初めて憲法改正の発議にかかわる可能性がある。

 安倍首相は参院選の惨敗後も記者会見で引き続き改悪に意欲を見せている。しかし、自民党内からも「優先順位を取り違えている。それどころではないというのが民意だ」(三役経験者)といった声が上がっている。世論をめぐるこうした受け止めに加え、新議員の政治意識をみる限り、首相が目指す2010年の憲法改正発議への道のりは険しそうだ。

 今回の当選者では、憲法を「改正すべきだ」と「どちらかと言えば改正すべきだ」を合わせた改憲賛成派は48%。「改正すべきではない」「どちらかと言えば改正すべきではない」の改憲反対派は31%だった。

 政党別では改憲賛成派は自民(91%)、公明(67%)、国民新(100%)の3党で多数を占めた。これに対し、民主では改憲賛成派の29%を改憲反対派の41%が上回った。

 04年参院選後の新勢力と比べると、改憲賛成派議員が参院に占める割合は、71%から2割以上減少した。改憲賛成派が9割前後だった自民の大敗が影響している。

一方、民主は04年調査の回答では改憲賛成派だった議員の一部が、反対や中立に回った。今回、改憲賛成派が初めて4割を割った。国民投票法成立を強行した自民への反発などが背景にあるとみられる。

 調査は参院選の立候補予定者、非改選、引退予定の参院議員を対象に5月下旬から7月にかけて実施した。(以上)

安倍首相は内閣支持率が下がり続けても自らの信条である改憲の推進を止めようとしませんでしたが、参院選で歴史的な敗北を喫した以上、日本の国家の歴史を変えることになる改憲をもはや進めることは出来ない道理が生まれています。それに、8月6日、広島市平和記念式典で、安倍首相は「今後とも平和憲法の規定を遵守し、国際平和を誠実に希求し、非核3原則を堅持していくことをあらためて誓う」と述べました。この言葉を忠実に守ることが日本の首相としての安倍首相の道義的な責任となっています。

平和主義、個人の尊厳を重んずる憲法の理念を生かす政策こそが、平和な環境で生活できて、生活の向上に結びつくと思います。

世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守すべき/山崎孝

2007-08-06 | ご投稿
広島市平和記念式典は、8月6日午前8時から広島市の平和公園で行われました。はじめに、この1年間に亡くなったり、新たに死亡が確認されたりした5221人の名前が書き加えられた25万3008人の被爆死没者名簿が慰霊碑に納められました。そして、原爆が投下された午前8時15分、参列者全員が黙祷をささげました。

平和宣言で、広島市の秋葉忠利市長は、核の拡散が加速するなかで「唯一の被爆国である日本政府は、謙虚に被爆のほんとうの姿を学び、世界に広める責任がある。世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守し、米国の時代遅れで誤った政策には、はっきりとNOと言うべきです」と述べました。

このあと、あいさつに立った安倍総理大臣は「今後とも平和憲法の規定を遵守し、国際平和を誠実に希求し、非核3原則を堅持していくことをあらためて誓う」と述べました。

式典には、これまでで最も多い42の国から駐日日大使などが参列しましたが、枚保有国からはロシア1国にとどまりました。原爆投下から62年になることし、被爆者の平均年齢は74歳を超えました。悲惨な体験を語り継ぐことが難しくなっているだけに、若い世代に核兵器の恐ろしさをどう伝えていくかが大きな課題となっています。(以上、12時のNHKニュースより)

広島市の秋葉忠利市長は、「世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守」と述べました。この言葉は安倍首相の憲法解釈を変えて一部の集団的自衛権行使を可能にしようとする考えに異を唱えたものと思われます。

安倍首相の「今後とも平和憲法の規定を順守」の言葉は、普通に理解すれば、憲法を変えないと受け止めることが出来ます。本年はこれまでで最も多い42の国から駐日日大使などが参列したと報道されていますから、日本と世界の人に向かって述べた言葉と言えます。安倍首相はこの言葉を守らなければならない道義的責任があります。

私は、ブログで、安倍政権は参院選で歴史的な敗北を喫したから、歴代政府が守ってきた憲法解釈を変える資格も権威もないと主張しました。これと関連して集団的自衛権を研究する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」に関連する情報を紹介します。

【集団的自衛権:安保懇報告棚上げへ 法制化に慎重論】(2007年8月5日付毎日新聞)

安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二前駐米大使)は8月10日、参院選で中断した議論を再開する。集団的自衛権の行使を認めるための憲法9条解釈の見直しを今秋、報告書にまとめて提言する。だが、参院選惨敗で安倍政権の求心力は急速に低下、首相は与党内の慎重論に配慮し、報告書を当面棚上げし、法制化を見送らざるを得ない状況だ。

「安保法制懇の報告書はそのまま置いておくことになる。集団的自衛権の容認は安倍政権の自殺行為だ」。元々、行使容認に反対論の強い公明党幹部はこう断言した。

5月18日に始まった懇談会は、参院選までに3回議論を重ねた。首相が検討を要請した4類型のうち、日米同盟を強化するための▽公海上の米艦の護衛▽米国向け弾道ミサイルの迎撃--の2類型の議論はほぼ終え、「集団的自衛権の行使を認めるべきだ」との意見で一致。再開後は、自衛隊の国際平和協力活動を拡充するため、▽駆け付けたうえでの他国軍隊の護衛▽戦闘地域内での後方支援活動の是非--の残る2類型を議論する。メンバーの一人は「元々結論ありきの懇談会で、参院選結果がどうであれ報告書の内容は変わらない」と語っており、これらも容認の見通しだ。

ただ、実際に集団的自衛権を行使するためには「首相が宣言するだけではだめで、自衛隊法改正など法的担保が必要」(内閣官房幹部)になる。自衛隊法は同盟国のための活動は規定しておらず、同法を改正し「集団自衛出動」などの項目を設ける必要があり、文民統制を徹底するための国会承認の規定などを盛り込んだ「集団自衛事態法」の制定も想定されている。

しかし、公明党は「タカ派色の政策は一切だめだ。法案を出してきたらシュレッダー行きにする」(幹部)と態度を硬化させており、関連法案の提出は当面絶望的。自民党内でも、集団的自衛権の議論をリードしてきた石破茂元防衛庁長官が公然と首相退陣を訴えるなど、意見集約は難航必至の状況だ。【古本陽荘】

安倍首相の情勢を読み取る力を危惧する/山崎孝

2007-08-05 | ご投稿
 佐野眞一氏は「論座」9月号で民俗学者の宮本常一が、杉皮を干してあるというだけの写真から、杉在の運搬に関わる全労働過程を読み解いている例などを挙げて、宮本常一が全国を旅して鍛え抜いた「読む力」と「読ませる力」を指摘していました。

 私はこの記事で宮本常一著「忘れられた日本人」所収で、愛知県北設楽郡旧名倉村の古老たちの座談会を記録した「名倉談義」を思い出しました。座談会で村人が万歳峠で兵士となって出て行く人に名残を惜しんだことを話しています。峠の上までいって万歳を唱えたのでは、峠を下るとすぐ姿が見えなくなり、これでは愛想がないから、峠の上から6、7丁下った所で見送りそこで万歳を唱えました。

峠が万歳峠と言われるようになったのは日清戦争が始まった頃からで、日露戦争の時も日独戦争の時も日中・太平洋戦争の時も兵士を見送ったことを話しています。

かように辺鄙な山間の峠でも、明治からの戦争の歴史が刻まれていたことがわかります。

 戦争にならないためには、国家の政策が国際情勢をしっかり読み取り柔軟な外交政策が必要です。国際情勢をしっかりと読み取る力が安倍首相にあるのか危惧します。

中国と韓国が北朝鮮を経済援助していて、北朝鮮には大きな打撃を与えることが出来ないのに、北朝鮮政策は強行一本槍を続け、すっかり北朝鮮の態度をかたくなにしてしまい、6者協議に出席しなくてもよいとまで言われてしまいます。

米国が北朝鮮強硬政策を変更して融和路線に切り替えたために、2月には6者協議の合意が出来ているのに、5月18日の集団的自衛権を研究する有識者懇談会で「北朝鮮の核開発や弾道ミサイル問題など、わが国を取り巻く環境は格段に厳しさを増している」と述べ、憲法の戦争への歯止めをなくそうと企図します。これを見ただけでも国際情勢の推移を注意深く見るのではなく、安倍首相の先入観で作られた情勢認識に固執しています。

国内の政治情勢でも、民意を正確に読み取れなかったために自民党の惨敗を招いています。

【参考】「論座」の佐野眞一氏の記事の抜粋

 宮本は武蔵野美術大学の教授時代、近畿日本ツーリストの出資で設立された日本観光文化研究所の所長に請われて就いた。

 宮本はそこから「あるくみるきく」という、商業雑誌とは一線を画した個性あふれる雑誌を出す。

「あるくみるきく」のなかに、宮本を慕って集まってきた若者たちが撮った写真に、宮本が短いキャプションをつける「一枚の写真から」というペ-ジがあった。

 この企画は、宮本の”写真解読術”の凄みを物語る好個の見本となっている。宮本は栃木県南西部の出流(いずる)山中で撮られた、杉皮を積んで干してある風景に、こんな解説をつけている。

杉を伐りたおして運ぶためには、山地から水のゆたかな川まで出すのが大変な労作業であった。杉を伐りたおすと、梢の枝葉を残して伐り落してしばらくそのままにしておくと、梢の枝葉の蒸発作用で幹の水分の抜け出すのが早い。ひと通り水分が抜けると、杉皮はぎにかかる。それを山道に敷き詰め、裸の丸太杉を滑らせて川のほとりまで運ぶ。それを筏に組んで河口の町まで運ぶのである。

 宮本は杉皮が干してあるというだけの写真から、杉材の運搬に関わる全労働過程を読み解いている。話はそこから松に飛ぶ。

 松は重く、容易に水分が抜けないので筏に組むことがむつかしかった。ひとつには皮のむきにくいことも原因したのであろう。そこで松を筏に組むときには、竹の束を筏の両側につけたものであるという。そういわれてみると、山間の松山の裾に竹薮のあるところが少なくない。

 宮本の写真は、セピア色をしたノスタルジックな世界に人を誘うだけにとどまらない。宮本の写真には、さらにその奥にある、人間の営みのいとおしさと哀しみにまで届いている。

住民の犠牲を増やすアフガニスタンにおけるテロとの戦い/山崎孝

2007-08-04 | ご投稿
【アフガン空爆:大量の民間人に犠牲か 政府が調査へ】(2007年8月3日付毎日新聞)

【カブール栗田慎一】アフガン政府当局は3日、米軍などが南部ヘルマンド州で2日に実施した空爆で「大量の民間人が犠牲になった」との現地当局の報告を公表し、調査に乗り出した。ロイター通信は、目撃者の話として死者数を「200~300人」と伝えた。米軍は「死亡したのは(旧支配勢力)タリバン兵」と反論している。

アフガン政府によると、空爆による民間人の犠牲は今年に入って既に350人を超えている。今回は、1回の空爆では過去最多の死者数となる可能性が指摘されている。(以上)

2007年4月16日付毎日新聞は、米海兵隊特殊部隊が3月にアフガニスタン東部ナンガハル州ジャララバード付近で自爆テロ攻撃を受けた後、民間人に相次いで発砲して少なくとも10人を殺害し、33人を負傷させたことが米軍の予備調査で判明した。死者には幼児2人や老人3人も含まれている。ワシントン・ポスト紙が15日報じた。米軍は「テロ後に敵が小火器で攻撃してきたため反撃した」と発表し、民間人死傷の大部分は敵の責任だと主張したが、小火器攻撃を受けた証拠は見つかっていないという。

アフガンの公式機関である独立人権委員会も14日、民間人12人が死亡し35人が負傷したとの目撃証言などに基づく現地調査結果を発表。海兵隊員が「無差別かつ過剰な攻撃を行い、国際人権法が定める基準の深刻な違反を犯した」と指摘した。

人権委員会の報告書は、現場を警備した国際治安支援部隊(ISAF、米軍を含むNATO=北大西洋条約機構=部隊などで構成)の兵士が、記者の取材を妨げたり撮影した映像の消去を強いたうえ、事件の報道を控えるよう脅すような発言をしたとも指摘している。ISAFは消去を認めたが「安全確保や調査上必要だった」と主張している。

事件は3月4日の朝に発生。6台の軍用車両に分乗した海兵隊特殊部隊員約30人の隊列に車両が接近して爆発し、運転者は死亡、隊員1人が破片で負傷した。

米軍の調査によると、特殊部隊は爆発現場から離れた後、約5キロにわたって通りかかった車や人に相次いで発砲した。

人権委員会は、米軍の発砲は16キロにわたって続いたと指摘。米軍部隊などが事件後に「調査と治療」目的で現場周辺に警戒線を張り、地元警察の立ち入りも拒んで薬きょうや弾丸などをすべて持ち去ったとしている。

米中東軍は事件直後の発表で「自爆テロ後に敵の小火器攻撃を受けた」と説明。報道官は英BBCに「民間人死傷者の全部か一部は敵の発砲のせいだと信じている」と語っていた。

米軍は当該の部隊をアフガンから離任させ、今月11日には刑事捜査を開始したと発表した。(以上)

2007年4月17日付朝日新聞報道は、昨年から勢いを増したタリバーンのテロ攻撃が続いている。今年起きた自爆テロは16日までに43件に達する。NATO軍主体の国際支援部隊とアフガン軍は3月上旬から、南部へルマンド洲で5500人を投入した掃討作戦を続けている。タリバーンも抵抗を強め、国際支援部隊の車列への待ち伏せ攻撃などを頻発させ、8日からの一週間だけでカナダ兵など12人に外国兵士に犠牲が出ている、と伝えています。

カルザイ政権になっても目に見える復興成果はほとんど無く、失業者は増える一方。カルザイ政権は地方の腐敗した軍閥を抑えることが出来ず、結果的にはタリバーンの影響力を増している。(以上)

アフガニスタンにおけるテロとの戦いは多くの非戦闘員を犠牲にしている戦いです。これではテロリストの無差別の暴力とあまり変わりません。テロとの戦いも勝利の見通しもついていません。このような戦いを支持するわけにはいけません。

しんぶん「赤旗」の記事を抜粋 11月1日で期限切れを迎えるテロ特措法の延長問題が秋の臨時国会の重大焦点として浮上してきました。

参院選で自民・公明両党が大敗を喫して過半数を割り込みました。民主党の小沢一郎代表は「これまで反対したのに、今回、賛成するはずがない」と反対を表明(七月三十一日)、参院で野党が一致すれば廃止されます。

 シーファー駐日米大使は、「日本は国際社会の責任あるメンバーだ。この問題(テロとのたたかい)はもはや重要でないと決定してほしくない」(英紙フィナンシャル・タイムズ一日付)と懸念を表明。民主党に対し、小沢代表との面会を申し入れたものの、小沢氏側は「会う理由はない」と当面、応じない意向です。(註 その後、小沢氏は会う意向を示した)

 危機感を強める与党が参院で否決後に衆院の三分の二の賛成で再可決することも想定されます。「民主党が参院で否決しても、衆院での再議決が織り込み済みならそれでいい」(防衛省幹部)との声も聞かれます。

 しかし、これは「本当の禁じ手中の禁じ手。もう参院はいらないというのと同じ」(日本共産党の志位和夫委員長)です。安倍自公政権と国民との矛盾が極限まで達するのは目に見えています。

参考 テロ特措法 米同時多発テロ事件後、アフガニスタンでの「対テロ」報復戦争を支援するため、二〇〇一年十月に自民・公明両党の賛成で成立。海上自衛隊は同年十二月以来、補給艦と護衛艦を派兵し、インド洋で対テロ作戦に参加する米艦船などへの洋上給油を続けています。

 海自は対テロ作戦参加艦船の全燃料の四割を提供しており、「海の無料ガソリンスタンド」と言われています。

 しかし、アフガニスタンでは武装勢力タリバンが勢力を盛り返し、自爆テロや誘拐が頻発するなど治安が悪化しています。米軍の死者数も年々、増加しており、海自の活動はテロ根絶に何ら貢献していません。

海自の活動 派兵艦船数:のべ59隻、派兵人員:のべ1万600人、給油回数:761回、供給国:米国、英国など11カ国、艦船燃料供給量:48万キロリットル

道のりは遠いが、爆弾のない道であり、障害を乗り越える道/山崎孝

2007-08-03 | ご投稿
【ARF:際立った中国の存在感 米国のライス長官欠席で】(2007年8月2日付毎日新聞)

【マニラ大谷麻由美】マニラで2日開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)では、米国のライス国務長官が一昨年に続いて欠席したことにより、域内の大国である中国の存在感が際立った。中国はASEANとの関係を拡大させながら、東アジアの一体化を推進し、影響力を徐々に高めていく戦略だ。

中国の外相はARFで「我々は幅広い範囲で地域の一体化に参与し、アジアの調和と発展を促進してきた」と自負を示した。米国は9月に予定されたASEANとの首脳会議も延期。ASEAN内では「米国はASEANを軽視している」との見方が強まり、中国とASEANが接近する一つの要素となっている。

東アジア共同体を巡る協議では、ASEANプラス3(日中韓を入れた13カ国)と、インド、豪州、ニュージーランドが加わった東アジアサミット(16カ国)という二つの枠組みがある。域外国の影響を嫌う中国はASEANプラス3を優先しているのに対し、地域バランスを取って中国をけん制したい日本は東アジアサミット重視を唱えている。

ASEANプラス3は、11月にシンガポールで開く首脳会議で今後の東アジア協力を展望する共同声明を発表予定だ。検討中の草案では「東アジア共同体構築という長期的な目標に向けて、ASEANプラス3が主要な手段であり続けることを再確認する」と記述され、中国の言い分が反映されている。

東アジアが一体化を進めれば、将来的には「脱米国化」の流れは避けられないと中国は予想している。共同体構想への「控えめな参加」から「核心的な立場」へと徐々に移行し、20~30年の間に、米国の役割に取って代わる「東アジアで最大の抑止的存在」(中国研究者)を目指す戦略だ。

【「北」の核 対話解決を支援 ARF閣僚会議が議長声明】(2007年8月3日付「しんぶん赤旗」)

アジア太平洋地域の安全保障問題を話し合う第十四回東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議が二日、マニラで開かれました。会議では、北朝鮮の核開発問題を話し合う六カ国(北と日米中韓ロ)協議が大きなテーマとなり、会議の成果をまとめた議長声明は、「対話と交渉を通じた核問題の平和的解決への支援を表明」しました。

 北朝鮮による拉致問題については、「拉致」という言葉は用いず、「人道上の問題と国際社会の人びとの懸念に対処する重要性を強調した」との表現となりました。

 議長国フィリピンのロムロ外相はARF終了後に記者会見し、北朝鮮の核と拉致問題に触れて、「重要なことは対話を続けることだ。六カ国協議の作業部会が八月末までに開催される。道のりは遠いが、これが爆弾のない道であり、障害を乗り越える道だ」と強調しました。

 ASEAN外交筋は、「六カ国協議再開で、ARF内では(北朝鮮問題の)平和解決への機運が熟してきたと期待する雰囲気があった」と語りました。

 一方、米国代表団の一員として参加した六カ国協議米首席代表のヒル国務次官補は会議終了後、記者団に対し、「今月は六カ国協議が活発化し忙しくなる。私たちは仕事をする上で良好な組織をつくった」と語り、作業部会での協議進展に期待を表明しました。

 今回の閣僚会議からはスリランカが二十六番目の国として参加し、ARFは欧州連合(EU)を加えた二十六カ国・一機構のフォーラムになりました。(以上)

朝日新聞の報道によりますと、ARFの議長声明にある「人道上の懸念に対する重要性を強調」という言葉は、北朝鮮の拉致問題と日本の従軍慰安婦問題の二つが含まれていると言われます。日本で主張された拉致問題だけが現在進行形の問題なのではないのです。米国の下院では従軍慰安婦に関する決議が可決されてしまいました。

毎日新聞は《ASEANプラス3は、11月にシンガポールで開く首脳会議で今後の東アジア協力を展望する共同声明を発表予定だ。検討中の草案では「東アジア共同体構築という長期的な目標に向けて、ASEANプラス3が主要な手段であり続けることを再確認する」と記述》と報道しています。日本も参加したアジア地域の安全保障を東アジア共同体という多国間の協調で獲得しようとしている中で、朝鮮半島の紛争や中台の軍事衝突を想定して、その紛争に介入する米国を支援するために、ASEANプラス3の目指す方向と整合性を持っている日本国憲法を変えてまでして、集団的自衛権行使が可能にすることが如何に相反する自民党の政策であることが分ります。

フィリピンのロムロ外相の《道のりは遠いが、これが爆弾のない道であり、障害を乗り越える道だ》という言葉は、実に含蓄に満ちた言葉です。日本国憲法の精神と一致しています。自民党の進める改憲の道は爆弾のある道です。

政治家の意識は世論の反映でもある/山崎孝

2007-08-02 | ご投稿
テレビネットワーク・JNN(TBS系)の投票後のネット調査の結果は、

▽「安倍首相が訴える憲法改正に共感できるか」という質問に対し、「できる」22・9%、「できない」61・9%

▽「安倍首相が訴える『美しい国』づくりに共感できるか」で「できる」18・3%、「できない」63・1%

▽「『戦後レジームからの脱却』に共感できるか」では、「できる」18・3%、「できない」50・8%でした。(しんぶん「赤旗」7月31日付より)

【9条改正反対は55% 集団的自衛権行使も否定的】(2007年8月1日 付中日新聞より)

共同通信社は1日、第21回参院選の公示前に行った全候補者アンケートから当選者を抽出し、政策課題に関する意識を分析した。

任期中に国民投票法が施行される憲法改正問題では、何らかの改正を支持する「改憲容認派」が64・6%に上ったが、9条改正に限ると55・7%が反対していることが分かった。集団的自衛権行使に関しても48・7%が憲法改正だけでなく、解釈見直しも否定し、「一切認めるべきではない」と答えた。

自民党は参院選公約に2010年の憲法改正発議を掲げた。しかし発議には衆参両院で3分の2以上の賛成が必要で、今回の参院選惨敗により、自民党の目指す9条を含む改正は一層厳しい状況となってきた。

政党別では、民主党は「9条以外の部分的改正に賛成」「改正反対」が計68・5%。これに対し自民党は「全面改正」「9条含む部分的改正」が計68・8%と対照的な結果となった。

集団的自衛権の行使については、自民党が憲法改正または憲法解釈見直しによる容認派が計78・1%に達したが、公明党は逆に当選者全員が「一切認めるべきではない」と答え、自公の見解の違いが明確になった。(以上)

先に紹介していますが、2007年7月13日付朝日新聞掲載の「朝日・東大共同調査」の結果の記事によりますと、民主党の候補者は、憲法改定に賛成35%、反対41%でした。9条についても、民主党の候補者は63%が「変えない方がいい」と回答しています。安倍内閣が検討を進める集団的自衛権の行使については、「朝日・東大共同調査」結果は、民主党の立候補者は、行使に反対が59%、「憲法改正で」が12%でした。この「朝日・東大共同調査」の結果と同じ傾向の共同通信社の調査結果でした。
しかし、私たちはこれで安心せずに、9条を守る運動は進めていかなければと思います。世論調査では集団的自衛権行使の可能に反対する国民が多数です。政治家の意識は世論の反映という側面を持っていますから、この世論を維持していかなければならないと思います。

沖縄 野党統一候補「平和の一議席」を奪還/山崎孝

2007-08-01 | ご投稿
【糸数氏圧勝 返り咲き/参院選】(2007年7月30日付沖縄タイムス)

参院選沖縄選挙区(改選一)は二十九日投票され、即日開票の結果、野党統一候補で無所属の元職、糸数慶子氏(59)=社民、社大、共産、民主、国民新党推薦=が全県選挙で最高得票となる三十七万六千四百六十票を獲得。自民公認で前職の西銘順志郎氏(57)=公明推薦=に十二万七千三百二十四票の大差で返り咲きを果たした。

糸数氏は、年金問題や歴史教科書検定問題などで安倍政権批判を展開し、「沖縄から政治を変えよう」と与野党逆転を訴え、「平和の一議席」を奪還した。

西銘氏は六年間の実績を訴えながら「自立への一議席」を掲げ、県政・国政との連携をアピールしたが、年金問題などの「逆風」で苦戦を強いられ、二期目の鬼門を突破できなかった。県知事選、参院補選を連勝した自公態勢にとっては手痛い敗北で、国政与党の退潮の影響を受け、県内政局が流動化する可能性も出てきた。

沖縄選挙区の投票率は60・32%で、主要選挙で過去最低だった四月の参院補選を12・51ポイント上回り、二〇〇四年の前回参院選を6・08ポイント上回った。

与野党を代表する有力候補の一騎打ちとなり、年金問題や改憲論議、米軍普天間飛行場移設などの基地問題、経済振興などを争点に、総力戦が繰り広げられた。

糸数氏は「年金問題は政府与党の失政。憲法改悪で戦争ができる国を狙っている」などと政権批判を強め、与野党逆転を訴えた。県知事選や参院補選の連敗で危機感を持つ革新支持層の動きも活発化。沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」の日本軍関与の記述が削除された高校歴史教科書検定への反発で、運動は草の根的な広がりを見せ、保守内部の政権批判票も取り込んだ。

県知事選など全県選挙を三度経験した抜群の知名度も生かし、都市部をはじめ全県で圧勝。大票田の那覇市をはじめ、全十一市を制する地滑り的な大勝となった。

西銘氏は「自立への一議席」を前面に打ち出し、国政安定による県政発展を訴えたが「逆風」を受けた。知事選、参院補選と連勝を重ねた自民、公明、経済界の組織力が今選挙では発揮できなかった。

全面的に支援した仲井真弘多知事の求心力低下は避けられず、来年の県議選や次期衆院選などの人選、態勢づくりにも大きく影響しそうだ。

【糸数慶子(いとかず・けいこ)】1947年生まれ、読谷村出身。読谷高校卒業後、バス会社に入社し、平和ガイドとして沖縄戦の状況を説明するなど平和運動に携わった。92年県議選で初当選、3期12年務めた。2004年7月参院選沖縄選挙区初当選。06年11月の県知事選に立候補した。

【平和憲法守る】糸数慶子氏の話 国政運営が県民、国民から懸け離れており、政権を変えてほしいという思いが当選につながった。年金や暮らし、教科書改ざんの問題を改めさせ、平和憲法を守っていく。基地問題では、縮小と即時撤去の訴えが受け入れられた。新基地を造らせないということを国会で訴えたい。沖縄の立場を理解する議員を増やし、市民グループとも連携して活動していきたい。

【逆風強過ぎた】西銘順志郎氏の話 年金問題や政治と金の問題、加えて県内では歴史教科書問題など、出だしから空気が重かった。いくら笛を吹いても踊ってくれないような状況があった。一つ一つ丁寧に説明し、終盤は確かな手応えを感じることができるようになったが、あまりにも逆風が強過ぎた。いずれにしても、私の不徳の致すところ。ご支援をいただいた皆さんには感謝したい。

【沖縄政策に不満噴出/解説】参院沖縄選挙区(改選数一)で、野党統一候補の糸数慶子氏(59)が「平和の一議席」を奪還、大勝したことは、年金問題や改憲論議などで強硬姿勢を示す安倍政権の改革路線に「ノー」を突きつけたことを意味する。「政治とカネ」や失言など度重なる閣僚の不祥事だけではなく、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題、海上自衛隊の名護市辺野古沖の事前調査参加など、沖縄の歴史認識や復帰後の複雑な感情を無視した同政権の沖縄政策に対する怒りが噴出した結果だ。(07年参院選取材班・与那原良彦)(後略)

《教科書改ざんの問題を改めさせ、平和憲法を守っていく。基地問題では、縮小と即時撤去の訴えが受け入れられた》と糸数慶子氏が語っているように、安倍首相の歴史観と憲法観を真正面に取り上げ、安倍政権批判を展開した統一候補が大差で勝利したことは素晴らしいことであり、教訓的な出来事だと思います。