いせ九条の会

「いせ九条の会」の投稿用ブログです(原稿募集中)。
会の趣旨に賛同される方、メールでご投稿ください。

明確な歯止めは既に示されている/山崎孝

2007-05-19 | ご投稿
【集団的自衛権、行使容認へ4類型研究 有識者会議が初会合】(5月18日付中日新聞より)

政府は十八日午前、憲法解釈上禁じられている集団的自衛権行使の事例研究を進めるため設置した有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の初会合を首相官邸で開いた。安倍晋三首相は日米同盟の強化と積極的な国際貢献を図るため、解釈見直しによって行使容認に道を開くことを目指しており、懇談会は今秋までに報告をまとめる方針。

首相はあいさつで「北朝鮮の核開発や弾道ミサイル問題など、わが国を取り巻く環境は格段に厳しさを増している。首相として、このような事態に対処できる実効的な態勢を構築する責任を負っている」と強調する一方「何を行い、何を行わないのか。明確な歯止めを国民に示すことが重要だ」と述べた。

具体的な研究事例について(1)公海上で自衛艦と並走中の米艦船が攻撃された際の反撃(2)第三国が発射し、米国を狙った弾道ミサイルに対するミサイル防衛(MD)システムでの迎撃(3)国連平和維持活動(PKO)で、任務遂行への妨害を排除するための武器使用(4)一緒にPKO活動に参加している他国への武器輸送などの後方支援-の四類型とする意向を表明した。

懇談会は、憲法解釈の見直しに前向きな外務、防衛両省の幹部経験者や大学教授ら十三人で構成し、座長には柳井俊二前駐米大使が就任した。

初会合では、出席者から「憲法制定から六十年がたち、国際的な安全保障環境は根本的に変化していることを踏まえる必要がある」「家族や友人が攻撃されて助けないのか。助けるのが集団的自衛権だ」などの意見が出された。

首相は四月の日米首脳会談で懇談会設置を説明するなど、解釈見直しへの動きを加速させているのに対し、公明党は行使容認に反対している。(以上)

安倍首相はあいさつで《北朝鮮の核開発や弾道ミサイル問題など、わが国を取り巻く環境は格段に厳しさを増している》と述べていますが、現在の情勢は東西の冷戦構造から、冷戦の時代に厳しく対立していた、ソ連と米国、中国と韓国、中国と米国の対立関係は大きく改善され、北朝鮮の核問題を東アジアの平和と安定を齎すために6者協議という対話を基調とする方策で解決しようとしています。そして、第一段階の合意に達し、その合意の中に米朝の国交正常化も話し合われる状況が出ています。これを素直に見れば《わが国を取り巻く環境は格段に厳しさを増している》とはいえません。

集団的自衛権の行使の必要なのは、偏に日米同盟の強化の理由だけです。格段の厳しさを増しているのは日米同盟における米国の要求のみです。そしてその米国の行動は6者協議の態度は除き、イラク戦争で典型的に示されているように、世界の平和と安定に役に立たず、逆に世界の平和を脅かしていることが多いのです。

第三国が発射し、米国を狙った弾道ミサイルに対するミサイル防衛システムでの迎撃をすることは、第三国が発射し米国を攻撃する事態には日本を第三国が標的にすることを想定しなければなりません。そうなれば隣家のもらい火に遭うことと同じです。

初会合では、出席者から《「家族や友人が攻撃されて助けないのか。助けるのが集団的自衛権だ」》という一見助けるのが普通ではないかと言う一見常識的な問題設定で集団的自衛権行使の問題が語られています。しかし、友人が攻撃を受けている所が、友人の支配する権利のある領域でないことも考慮にいれなければなりません。他人の支配する場所に出かけていって攻撃をされる場合もあるのです。他人の問題に介入してトラブルを起こすこともありえます。日本の友人である米国は、本来は他国の問題であることに介入する場合がほとんどです。これに日本がつきあうことはないと思います。

安倍首相は「何を行い、何を行わないのか。明確な歯止めを国民に示すことが重要だ」と述べていますが、戦争をしない、戦争に巻き込まれない明確な歯止めは憲法に示されています。それを首相は外そうとしているのです。

教育による戦争の出来る国づくり/山崎孝

2007-05-18 | ご投稿
【教育3法案は廃案に中央公聴会 公述人から批判相次ぐ】(5月17日付「しんぶん赤旗」より)

 与党が十七日採決をもくろむなか、衆院教育再生特別委員会は十六日、中央公聴会を開きました。五人の公述人が意見を述べ、教育三法案の廃案や内容に異論を唱える主張が多く出ました。

 都留文科大学の田中孝彦教授は「国家が教育目標を設定し、競争を組織し、教師の自主性と創造性を低下させることにつながる法案は廃案しかない。より丁寧で本質的な教育再生論議を行う必要があり、論議の土俵の再設定が必要だ」と三法案の廃案を求めました。

 全日本教職員組合の米浦正委員長も「三法案は相互に影響し合って、子どもの成長・発達を助けるという教育の目的を、『愛国心』や『規範意識』を押しつけるものへと変質させ、従わない教員は免許を奪って失職させるなど、教育の国家支配・統制をめざすものだ」と批判し、「三法案の廃案を強く求める」と述べました。

 地方自立政策研究所の穂坂邦夫理事長は、教員免許制度導入について、「運用をうまくしないと大変おかしなことになるのではないか」と疑問を呈しました。

 東京都教育委員会の木村孟委員長(与党推薦)は、日本共産党の石井郁子議員の質問に答え、「それほど日本の子どもの学力が下がったとは思っていない。教育改革の論議はネガティブな面を出しすぎている。『教育再生』という言葉には賛成しない」と話しました。(以上)

全日本教職員組合の米浦正委員長の、教育の目的を、『愛国心』や『規範意識』を押しつけるものへと変質させ、従わない教員は免許を奪って失職させるなど、教育の国家支配・統制をめざすことは、正に戦争が出来る国づくりへの教育面での準備といえます。

田中孝彦教授の「国家が教育目標を設定し、競争を組織し、教師の自主性と創造性を低下させることにつながる」との懸念は、既に東京都教育委員会の下にある学校で起こっています。東京都立養護学校教諭 渡辺厚子さんは、「世界」6月号で次のように述べています。渡辺厚子さんは2007年3月30日、君が代斉唱時に不起立を理由に1ヶ月の停職処分を受けた先生です。

(前略)校長は私に対してのみ、職務命令を連日、全教職員の前でマイクで読み上げた。前任校では、トイレに行きたがった生徒を連れ出すと、教頭が血相を変えて追いかけてきた。あげくに、君が代斉唱の時中座しないよう生徒にオムツをつけろとまで言った。

 「日の丸・君が代」は人を変え、学校を変えた。教員は、何事にも、指示・命令されたから、しているまでで、自分には責任はない、自分だけは生きのびようと黙って従うようになった。機構も完全にビラミッド型になった。おかしい事におかしいと言い、自分の良心の在処を捨てまいとすれば、処分されるか、病気になるか、やめるかしかない。

 大事な友が次々と学校現場を去ってゆく。「もう耐えられない。偽れない。自分が嫌なのに講師に代わりに君が代を弾いてもらうのは、悪くて、自分自身が許せない」と彼女は泣いた。「立たないのではなく、立てない、道は免職しか残されていない。生徒への加害費任に耐え切れない」と彼は声を絞り出した。

 口惜しい。「教えとは希望を人に語ること、学ぶとは誠を胸に刻むこと」

いつまたこの日が来るのだろう。

 私は、教室のスミにわずかに残された自由と、加害を繰り返すまいという思いと、あんな奴らの言いなりにさせてたまるかという意地で、ようようにしてやめないで残っている。

 「日の丸・君が代」は侵略戦争の象徴であったが、今まさに学校の中で、国家に従属する精神の、統合の象徴として機能させられている。そこに問題がある。

 愛国心である必要はない。従属心であってくれればよいのだ。これから、従属心をもった教員によって、従属心やがて愛国排外差別心をもつ子どもが育てばよいのである。(中略)

 教員が再び無自覚に加害行為を繰りかえさず、戦争へと子ども達を追いやらないためには、どんな小さくとも現場で声をあげ続ける必要がある。そのために私は残る。自分を見失わずに、誰かを信じて、もう少し歩いてみたい。

 戦争の責任をとる、新たな戦争に加担しない。自分の心と身体を国家に奪われまい。おそらくこれが私に親しい死者たちの声である。骨の声に耳を澄まし、行ける所までいってみようと今は思っている。(以上)

人としての良心を失わないとする渡辺厚子さんの痛切な心の叫びが聞こえてきます。政権与党の政治家たちは中央公聴会 公述人の批判に聞く耳は持ちません。改憲派の中には日本の民主主義は成熟したと主張する政治家たちがいますが、何を基準に成熟したというのでしようか。成熟した民主主義とは内心の自由を保障することで、自分たちに都合の良い価値観を押し付けることではありません。

教員免許更新制などを盛り込んだ教育改革関連3法案が5月17日の衆院教育再生特別委員会で自民、公明の与党の賛成多数で可決されてしまいました。同法案は18日午後の衆院本会議でも可決されて、参院に送付されました。今国会で成立する見通しと報道されています。

教育の反動化と米国への追従の極みである集団的自衛権の行使を可能にする安倍政権に対して、選挙で打撃を与えないと日本はとんでもないところへ行き着いてしまいます。

米国と心中するようなもの/山崎孝

2007-05-16 | ご投稿
【集団的自衛権、米が行使容認迫る 防衛相会談で日本に】(5月16日付中日新聞より)

ゲーツ米国防長官が先月末にワシントンで開かれた日米防衛相会談で、米国を狙った北朝鮮などの弾道ミサイルを日本のミサイル防衛(MD)システムで迎撃できるよう、政府が憲法解釈で禁じている集団的自衛権行使の容認を迫っていたことが分かった。複数の日米外交筋が十五日、明らかにした。同席したシーファー駐日米大使も集団的自衛権の問題に触れ「米国への弾道ミサイルを迎撃できなければ、日米同盟が変質しかねない」と日本側をけん制した。

海上自衛隊の二等海曹がイージス艦中枢情報の資料を隠し持っていた事件に関連し、ゲーツ氏が中国を名指しして軍事機密の漏えいに強い警戒感を表明していたことも判明した。日米両政府はいずれの発言とも公表していない。

集団的自衛権に関する米側の要求は、軍事的に台頭する中国への抑止力強化を目指す国防戦略を反映すると同時に、憲法解釈の変更で集団的自衛権行使の一部容認を視野に入れる安倍晋三首相への期待感を示している。ただ、公明党が行使容認に反対しているほか、政府内にも慎重論が根強く、実現しなければ米側の不満が高まりそうだ。

日米外交筋によると、ゲーツ氏は「日本はMDで極めて重要なパートナーだ。相互に防衛し合う関係が必要であり、日本は米領土を狙った弾道ミサイルを撃ち落とせるようにすべきだ」と述べ、集団的自衛権の行使容認を要求した。

久間章生防衛相は、日本が現在計画しているMDシステムの技術では米領土への弾道ミサイルを迎撃できないと説明し、技術的にも可能となるよう米側に一層の協力を求めた。(以上)

米国に向けてミサイルが飛ぶような事態となれば、核戦争を想定しなければなりません。米国に先制攻撃をするような国は自殺行為に等しく、場合によっては、米国の先制攻撃に対する反撃の場合もあります。

被爆国の日本の防衛相として《日本が現在計画しているMDシステムの技術では米領土への弾道ミサイルを迎撃できないと説明し、技術的にも可能となるよう米側に一層の協力を求めた》ということは、核兵器の脅威に対する不感症に等しい発言です。このような事態にならないように、平和な環境を作るように米国に求めるのが本筋です。

平和な環境作りは日本の周辺で言えば、無から始めるわけではありません。6者協議の最終目標は東アジアの平和と安定です。日中は地域の平和と安定を念頭に入れた「戦略的互恵関係」の構築で一致しています。これらの課題の達成に全力をあげるのが日本の使命です。

この使命をおろそかにして、軍事的観点で政治を行うことは、米国と心中するようなものです。

イラク戦争が9条を再評価させた 中日新聞の論説/山崎孝

2007-05-15 | ご投稿
【国民投票、最短で2011年 首相「3年、広く深く議論を」】(5月15日付中日新聞より)

国民投票法(憲法改正手続き法)が14日の参院本会議で可決、成立したことを受け、改憲の発議が2010年5月から可能になった。安倍晋三首相(自民党総裁)は同日、中川昭一政調会長に対し、05年11月に同党が公表した新憲法草案を基に党内議論を進めるよう指示するなど、改憲に向けた動きを強めており、同党内の改憲論議をリードしている船田元・元経企庁長官は本紙のインタビューに、11年後半にも、改憲のための国民投票が実施されるとの見通しを示した。

安倍首相は14日夕、国民投票法が成立したことを受け、憲法改正について「議論を進めていく上で選挙はよい機会だから、この機会に自民党は既に草案をつくっていることも話していきたい」と、7月の参院選で改憲を争点に据える考えを重ねて示した。首相官邸で記者団の質問に答えた。

首相は同時に、「(法律の)施行は3年先だから、その間、落ち着いた環境の中で、静かに、広く、深く議論をしていくことが大切だ」と指摘した。

自民党がまとめた憲法草案については「国民とともに議論を進めていきたい」と強調。同党内に草案の見直しを求める声があることには「今後、草案を基に、いろいろな議論があると思う」と述べるにとどめた。

さらに「憲法96条で定めている改正手続きについて、法的な整備が整った。立法府として責任を果たした」と述べた。

同法の規定により、今年7月の参院選後に召集予定の臨時国会で、憲法改正原案を審議する憲法審査会が衆参両院に新設される。

ただ、憲法改正原案の審議は公布から3年間は凍結されるため、審議が可能になるのは10年5月から。審議の結果、衆参両院のそれぞれで総議員の3分の2以上の賛成を得れば、改憲案として発議され、国民投票に付される。

船田氏は「凍結の解除後も議論が続く。改憲原案がまとまるまで、最低1年はかかるだろう。発議後、周知期間(60-180日間)を置いて国民投票が実施されることから計算すると、11年後半から12年前半が最短のスケジュールだ」と述べた。

首相は憲法改正に強い意欲を示しているが、自民党総裁としての任期は09年9月までで、再選されても12年9月まで。3選は禁止されている。さらに、09年9月には衆院議員の任期が切れ、10年夏には参院選が行われる。

首相が、党総裁選や衆参両院選を勝ち抜いて任期いっぱい総裁を務めても、公約通り在任中に改憲を実現するには、時間的余裕がないのが実情だ。

さらに、自民党にとって、改憲案発議に必要な衆参両院で3分の2の賛成を得るためには、民主、公明両党の協力が不可欠だが、両党の協力を得るメドも立っていない。

自民党内では、今後3年間で民主、公明両党とともに改憲原案の骨子や要綱をとりまとめ、改憲原案の審議解禁後、速やかに手続きに入るべきだとの意見が強い。

しかし、公明党は戦争放棄を明記した9条を堅持して、環境権やプライバシー権を新設する「加憲」が持論。太田昭宏代表は14日、首相官邸で記者団に「じっくりと(党内で)議論して、3年をメドとして加憲案を示すように努力したい」と述べ、自公民3党共同での改憲案づくりに消極的姿勢を示した。

一方、民主党は、改憲を参院選の争点に据えた首相に対する反発を強めている。同党の枝野幸男憲法調査会長は14日、本紙のインタビューで、「首相は民主党の協力は必要ないという姿勢だ。民主党は単独で3分の2を目指して頑張る」と、改憲に向けた自民党との協調を否定した。

◇重い歴史的任務負った 論説主幹・山田哲夫

国民投票法が成立した。改憲を政権の最重要課題とする安倍首相は、そのための必要条件を手にして、7月の参院選は憲法改正を公約に戦うという。憲法問題は、国民一人ひとりが憲法への理解を一段と深め、改憲の是非を見極めていくべき新局面に入った。重い歴史的任務を負ったとの認識をもつべきだろう。

国民投票法について「急ぐ必要は全然ない」というのがわれわれの立場だった。

国のあり方や理念を定める根本法規改正にかかわる法律だ。時間はかかっても多くの政党と議員が参画して、納得と合意のうえで成立させる方が望ましいし、環境権や知的財産権など新しい権利の扱いをめぐっての課題はあるが、現行憲法核心の立憲主義や9条に手を加えてまで憲法を改定する緊急性があるとは思えなかったからだ。

政権戦略と政局優先から協調路線を壊してしまっての国民投票法。今後建設的な憲法論議が可能なのか心配にさえなる。

憲法は、常に吟味検証され、論争され続けられるべきなのは当然だ。先の「憲法60年に考える」社説のシリーズのなかで、われわれがあらためて確認したのは現憲法の護(まも)られるべき多くの価値の存在だった。

(1)武力の過信によって泥沼に陥ったイラク戦争が9条を再評価させている(2)政府・公権力を勝手にさせない近代立憲主義を逆転させ、憲法を国民統治のための道具にしてはならない(3)中国・韓国に対して侵略、植民地支配の歴史責任がある。平和主義はアジアへの100年の誓約で、なお恩讐(おんしゅう)を超えるに至っていない-。

不完全な人間への自覚や理性そのものへの懐疑も現憲法を護るべき大きな理由に思えた。

しかし、新局面を迎えて憲法論議は一段と磨きがかけられ深化されなければならない。国民投票は究極の民主主義だが、気分や雰囲気、空気に流されてしまう危うい側面をもつことも知っておくべきだろう。ナチスに蹂躙(じゅうりん)されたドイツに国民投票がない理由でもある。例えば「現行憲法は時代に合わなくなった」などの批判は適切な評価だろうか。施行60年、なお憲法の精神は行き届かず、不徹底に思えるのだがどうか。

自衛権、自衛戦力保持明記を主張する護憲的改憲論はかなりの支持を得ているが、9条を改定して、戦争ができる国にしてしまって本当にいいのか。統治者を、われわれ自身をそれほど信頼してしまっていいのか、ぜひとも詰めたいテーマだ。

改憲発議は2010年から可能になる。それまでに少なくとも2回の参院選と1回の衆院選。だれがどんな憲法観をもっているかを見定めての投票としなければならないだろう。未来社会と子孫たちのためでもある。腰を据えて考えたい。(東京新聞)(以上)

中日新聞の論説は《(1)武力の過信によって泥沼に陥ったイラク戦争が9条を再評価させている(2)政府・公権力を勝手にさせない近代立憲主義を逆転させ、憲法を国民統治のための道具にしてはならない(3)中国・韓国に対して侵略、植民地支配の歴史責任がある。平和主義はアジアへの100年の誓約で、なお恩讐を超えるに至っていない-》と現行憲法と自民党の新憲法草案を対比させて的確に特質を表現しています。

5月15日付の朝日新聞社説は、自民党新憲法草案で自衛軍を持ち、自衛軍の使い方の原則を決める「安全保障基本法」は、憲法9条の2項の歯止めがなくなれば、多数党の判断でどこまでも変えることが可能だ。集団的自衛権の行使に制約をなくし、海外でも武力行使できるようになる。いつの日か、イラク戦争で米国の同盟国として戦闘の正面に立った英国軍と同じになる可能性も否定されないということだ、と主張しています。

朝日新聞の指摘した《英国軍と同じになる可能性も否定されないということだ》は、「いせ九条の会」が憲法記念日に配布した宣伝ビラと同じ指摘です。

英国軍はイラクでの戦死者は142人になり、イラク人の犠牲者はイラク保健省の発表では15万人になったと言われます。他国の領土で戦う戦争に正義と言う言葉はありません。日本はそのために集団的自衛権の行使をする国になってはいけません。

憲法解釈の変更は国民の大半は望まない/山崎孝

2007-05-14 | ご投稿
【見直し必要なしが62% 集団的自衛権の憲法解釈】(5月13日付中日新聞ニュース)

共同通信社が5月12、13両日に実施した全国電話世論調査で、集団的自衛権行使は憲法で禁じられているとの政府解釈に関し「今のままでよい」が62・0%と、4月の前回調査より7・4ポイント上回った。解釈見直しを検討する政府の有識者会議の初会合が18日に開かれるが、変更の必要はないとの声が強まる結果となった。

安倍内閣の支持率は47・6%と3・4ポイントの増。初めて40%を割り込んだ3月を底に4月に反転し、今回、回復基調に乗っていることが確認された形。安倍晋三首相が4月下旬の靖国神社の春季例大祭で供物を奉納したことに関し、事実を明確に認めていないことについては「適切だと思わない」(62・1%)が「適切だと思う」(32・2%)に大きく差をつけた。

集団的自衛権行使禁止の解釈で「今のままでよい」が増える一方、「憲法解釈を変更し、行使できるようにすべきだ」との回答は5・0ポイント減の13・3%。「憲法改正し、行使できるようにすべきだ」はほぼ横ばいの19・1%だった。(共同)

国民投票法が成立しました。サラリーマン川柳も発表されました。これに真似て「安倍首相3年後にほぞをかむ」ようにしなければなりません。そのためには現在の世論の状況、集団的自衛権の行使を否定する世論を保ち続けなければなりません。

共同通信社の調査では《集団的自衛権行使は憲法で禁じられているとの政府解釈に関し「今のままでよい」が62・0%と、4月の前回調査より7・4ポイント上回った》となりました。

4月に行なった読売新聞社の世論調査は「これまで通り、解釈や運用で対応する」と「9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない」をあわせると「改正」反対・不要が56%でした。

5月2日に発表した朝日新聞社の世論調査では、自衛隊の海外活動をどこまで認めるかという質問では、「必要なら、武力行使も認める」は22%でした。

これらの結果を見れば、国民の大半は憲法の解釈変更を望んでいません。5月11日、安倍首相は憲法の解釈を変えて、集団的自衛権の行使が出来るようにすることを「地域の平和と安定を確保し、国際社会で大きな貢献も期待されている」と述べています。

安倍首相が「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」に提起した研究課題は、①米国に向けて発射された弾道ミサイルを自衛隊が迎撃する、②公海上で米軍などの艦船への攻撃に対して自衛隊が応戦する、③国際復興支援活動で共に行動する他国軍への攻撃に自衛隊が応戦する、④武器輸送などの後方支援を行なうなどを挙げています。これらは軍事衝突が起こったときに日本が他国軍を軍事支援することを述べています。

「地域の平和と安定を確保し、国際社会で大きな貢献」することは、何よりも、日本が世界から信頼される国になり、公正な態度で紛争の調停役になることだと思います。そのためには、現在、アジアの国から不信感をもたれる最大の原因である、戦死者を賛美したり、大東亜戦争を肯定する「靖国史観」を払拭しなければならないと思います。

軍事紛争が起こってからの出番である、日本が他国軍を軍事支援することを重点にして考えることは、火事が発生してから消防車で駆けつけることと同じレベルで、これでは手遅れです。事よっては、火事を起こした本人を日本が手助けをする、或いは火事が発生したのに鎮火活動をせず、火に油を注ぐようなことをする国の軍隊を日本が手助けするようなことが起きる可能性があります。

自民党政権は日本の隣国では北朝鮮と中国が軍事紛争を起こす国に想定していますが、北朝鮮の核の問題は6者協議の合意に基づき解決し、東アジアの平和と安定を実現しようと取り組みつつあり、米中関係は基本的には経済的には補完関係にあります。米国の企業が中国で作った製品を米国に輸出しています。米国にとっても中国は有力な市場です。日中関係も経済的な補完関係で、安倍首相は首脳会談でアジア地域の平和と安定を目指す「戦略的互恵関係」の構築を外交課題に設定しています。中台の関係も経済的には補完関係を強めています。台湾は中国本土に進出した企業の子どもたちのために台湾の教育方針に則った学校まで開設しています。このように東アジアの環境は良い方向に進んでいます。このような情勢なのに60年間も国民の多くが納得してきた憲法の解釈変更する理由は見つかりません。

「国際復興支援活動で共に行動する他国軍への攻撃に自衛隊が応戦する」ことは、停戦成立と国際部隊の受入れを国際部隊の派遣を原則にした国連平和維持活動で不可欠とされる事柄ではありません。国際部隊の各々は自衛的な行動しか認められていません。派遣されている国際部隊が紛争の当事者になってはならない戒めがあります。

ミサイル防衛に力を入れるより、平和な環境作りを/山崎孝

2007-05-13 | ご投稿
【ミサイル迎撃:高出力レーザー兵器開発に着手 防衛省方針】(5月13日付毎日新聞ニュース)

防衛省は12日、ミサイル迎撃のための高出力レーザー兵器の研究、開発に来年度から着手する方針を決めた。来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。北朝鮮のミサイル発射や核実験で日本上空の脅威が高まる中、日本の防空機能を強化する狙い。まずは本土防衛に直結する地上配備型レーザーの研究、開発を目指すが、将来的には航空機搭載レーザー(ABL)についても検討する。

日本は現在、弾道ミサイルの迎撃手段として(1)地上配備型の「PAC3」(2)イージス艦に搭載する海上配備型の「SM3」--の2本柱で両迎撃ミサイルの配備を進めている。PAC3はミサイルが大気圏に突入後、着弾するまで、SM3はミサイルの大気圏外の飛行中の迎撃を想定している。これに対しABLは、弾道ミサイル発射直後の撃ち落としやすい段階での迎撃手段として米国が開発を進めている。

ABLについて日本はこれまで、発射国上空の迎撃が領空侵犯につながったり、ミサイルの攻撃目標が日本であることが判明する前に迎撃すれば、憲法解釈が禁じる集団的自衛権の行使となる恐れがあるため、研究や開発には慎重だった。

しかし、1日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)でミサイル防衛(MD)分野での協力強化がうたわれた。米側からABLの開発に対し協力を求められていることや、北朝鮮の脅威が昨年7月のミサイル発射で顕在化したことから、慎重姿勢を転換させる方針を固めた。【田所柳子】(以上)

《北朝鮮のミサイル発射や核実験で日本上空の脅威が高まる中》と報道しています。しかし、その後に起きた朝鮮半島の非核化を目指す6者協議の前進を見れば、北朝鮮の脅威が高まったとは言えません。

米国は北朝鮮がテロ支援国家と指定していますが、この指定の解除について4月末の日米首脳会談で、日本人拉致問題の解決が指定解除の条件になることに「配慮する」と一方で、法的な面で「前提条件にはならない」と説明したことを5月12日付の朝日新聞は報道しています。これは米国独自の政策基準で北朝鮮政策を実行する態度です。

昨日紹介した5月11日の毎日新聞は《バシュボウ駐韓米大使がウリ党国会議員団との会合で、北朝鮮の非核化を前提に「来年の今ごろ米朝国交正常化ができると期待する」と述べた》ことを報道しました。

これらを見れば、イラク戦争で政権の権威を大きく失墜させたブッシュ政権は、政権の名誉挽回をかけて本腰を入れて、6者協議の合意を実現させるべく、また米朝の国交正常化に取り組むことがわかります。

北朝鮮は、2005年の6者協議で「北朝鮮の安全を保障すれば軍事的核と開発計画を放棄する」と述べていますから、決して覇権主義の国家ではありません。覇権主義を取ろうとしても、外国の援助が無ければ真っ当な国家経営が出来ない国力です。

昨日、著書を紹介した軍事ジャーナリストの田岡俊次さんは、ミサイル防衛の効果は、飛んでくるミサイルを完全には撃ち落せない。また撃ち落しても空中で搭載した兵器が爆発する可能性もあり「ないよりましか」「気休め程度」だと考えています。このようなシステムに膨大な国費を使うより、6者協議合意の実現に向けて努力する方が日本の安全保障に取ってはるかにましだと思います。

非核化が前提/山崎孝

2007-05-12 | ご投稿
【駐韓米大使:「来年、米朝正常化も」非核化が前提】(5月11日付毎日新聞ニュース)

【ソウル堀山明子】バシュボウ駐韓米大使がウリ党国会議員団との会合で、北朝鮮の非核化を前提に「来年の今ごろ米朝国交正常化ができると期待する」と述べたことが11日、毎日新聞が入手した議事録で確認された。米高官が米朝国交正常化の目標時期を具体的に明らかにしたのは初めて。

米大使は会合でマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮資金送金問題に関連し、「(凍結解除から)1カ月も消耗しており、進展が必要だ」と強調しており、北朝鮮に非核化を促す狙いがあるとみられる。

会合は、5月初めに訪朝したウリ党議員5人と9日に行われた。

議事録によると米大使は、ブッシュ米大統領の任期内に北朝鮮核問題を解決する意思があると強調したうえで、「米朝国交正常化が先行するのは短期的に難しいが、米国が(正常化前の)中間段階で信頼構築に向けた段階的措置を取るのは可能だ」と明言。具体例として北朝鮮のテロ支援国家指定解除や経済交流協力の拡大などを挙げた。

また米大使は、9月にシドニーで開催予定のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談に触れ、「APECを前に朝鮮戦争を公式に終了させ平和体制構築のための協定に署名する準備がある」と述べた。

会合で米大使はブッシュ政権の対北朝鮮政策について「あまりに柔軟だと米国内で批判を受けている」と苦境を訴え、北朝鮮核廃棄に向けた初期段階措置履行が遅れれば「善意が消えてしまう」ともらす場面もあった。

【南北将官級会談:縦断鉄道試験運行に向け安保合意 板門店】(5月11日付毎日新聞)

【ソウル堀山明子】板門店での韓国と北朝鮮による南北将官級軍事会談は11日、南北縦断鉄道(京義線、東海線)の試験運行の17日実施に向けた安全保障合意書に合意し、閉幕した。これにより、朝鮮戦争中の51年6月に運行を全面的に中断して以来、56年ぶりに鉄道が南北軍事境界線を越える見通しとなった。

合意によると、試験運行が実施される17日は双方を刺激する行動を自制し、乗務員や貨物の安全を保障することなどを確認した。

会談で韓国側は試験運転を機に日常的に鉄道・道路が利用できるよう提起したが、北朝鮮側は当日だけの臨時措置にすべきだとして拒否した。恒常的な措置については7月初めの次回会談で引き続き協議することにした。

一方、双方は黄海での衝突防止策が必要との認識を確認した5項目の共同報道文も採択した。今後、共同漁業水域の設定問題や緊張緩和措置について議論を続ける。(以上)

憲法を守り、生かす運動の中で出される質問の中で、北朝鮮の脅威が話題にのぼります。私は朝鮮半島の情勢が劇的な変化を遂げていることを今までに述べてきました。毎日新聞のニュースを読むとその感じを更に強く持ちます。

東アジアの平和と安定は平坦な道程ばかりでありませんが、相手を力で脅かすのではなく、真に力のある者が寛容と融和の心を失わずに、この課題に取り組めばきっと道は開けます。米国に向かうかもしれないミサイルを日本が撃ち落すというような議論ばかりしていても何の意味もありません。そのような事態で、無傷でおられる国などありません。日本の周辺を平和な環境にすることが何よりも大切です。

次の文章は2001年3月10日付朝日新聞「声」欄に載せてもらった掲載文です。

【南北結ぶ鉄道「夢切符」喜ぶ】韓国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)で途切れている京義線の連結工事を韓国側地域で再開したと、6日の本紙で報じられました。昨年9月に着工、冬季の間は中断していたためです。

京義線の分断は、1945年の敗戦による日本軍の武装解除で北緯38度線を境にソ連軍と米軍に分割され、53年には朝鮮戦争の休戦ラインが結ばれた地域です。

日本の植民地支配とその後の米ソ冷戦がもたらした分断です。

二重の歴史の痕跡をとどめて、朝鮮の人々の当然の権利である、民族の独立と統一を抑圧したとことはいうまでもありません。京義線が結ばれるのは日本にとっても大きな関心事だと思います

4㌔分のレール購入費を集めようと、日本の支援グループが「夢切符」発売を始めたそうです。(4日の本紙)。「夢切符」とは復旧したときの乗車券をイメージしたもので、素晴らしい運動です。

朝鮮半島に不安定要因がある限り、軍備拡張をめざす国の格好の宣伝材料とされてしまいます。韓国の人々の熱い思いで金大中大統領の「太陽政策」が実を結びつつあるように、日本も国民の根強い世論で平和な環境づくりを進めていかなければならないと思います。(以上)

参考 最近発行されました「北朝鮮・中国はどれだけ怖いか」田岡俊次著 朝日新書 は、極東の軍事情勢の理解のために役に立つと思います。

安倍政権 完全無欠の「伴走役」の資格を準備中/山崎孝

2007-05-11 | ご投稿
【ブレア首相退陣表明:イラク政策で一層孤立感 米大統領】(5月10日付毎日新聞ニュース)

【ワシントン笠原敏彦】イラク戦争をともに主導したブレア英首相が5月10日、退陣を表明したことにより、ブッシュ米大統領はイラク政策を推進する上で一層孤立感を深めることになった。今後の焦点となる対イラン軍事行動に対する大統領の判断にも影響しそうだ。

「私が大統領である間はブレア氏に首相でいてほしい」。昨年5月にホワイトハウスで開かれた米英首脳会談後の記者会見で、ブッシュ大統領は語った。当時の支持率はブッシュ大統領が30%台前半、ブレア首相が20%台中盤。イラクの泥沼化は「伴走役」のブレア首相に早期退陣というより大きな政治的犠牲を強いる結果をもたらした。

ブレア首相の評価は、イラク戦争を支えた負の側面で語られがちだが、米国での評価はやや異なる。米アメリカン大学のシャリニ・ベンチュレリ准教授(国際関係)は「同時多発テロ(01年9月)後の危機で、党派を超えて米国の政治システムに深く刻み込まれた最も重要な教訓は、最後に頼れるのは英国だけだということだ」と説明する。米英の「特別な関係」に限れば、ブレア首相の残した遺産は決して小さくなさそうだ。

ブレア首相は、「首脳間の親密な関係」を政策推進の原動力にするブッシュ外交の象徴であり、かつては米国の単独行動主義批判をかわす防波堤だった。そのブレア首相の退陣は、核開発問題やイラクへの介入を巡って緊張が高まるイランへの対応で、米国が選択肢として維持する軍事行動の発動を困難にする可能性もある。(以上)

【ブレア首相退陣表明:日本政治に影響与えたブレア政治】(5月10日付毎日新聞ニュース)

ブレア政治は日本に少なからぬ影響を与えた。党首討論やマニフェストといった英国方式が日本に持ち込まれたのは、いずれもブレア政権時代。18年ぶりの政権交代実現と官邸主導の政治スタイルは、「2大政党化」や「官僚主導から政治主導へ」を目指した当時の日本政界には一種の「理想形」と受け止められた。

「日本の与野党の多くの議員が英国視察に訪れ、日英関係にも好影響をもたらした。日本の政治に刺激を与えた」。ブレア政権10年について外務省幹部はこう振り返る。

99年には森喜朗自民党幹事長や小沢一郎自由党党首ら超党派議員団が英国議会制度を視察。翌00年に導入された党首討論は、小泉純一郎首相の「イラクのどこが非戦闘地域か分かるわけがない」との発言(03年)や、前原誠司民主党代表の辞任につながった偽メール問題のやり取り(06年)など、政局の節目となる多くの論戦を生んだ(肩書はいずれも当時)。

与野党ともに「ブレアスタイル」を積極的に取り入れた。与党が重視したのは官邸主導。安倍晋三首相は昨年9月の就任と同時に、側近5人を首相補佐官に任命して官邸主導の政治の確立を目指した。中でも世耕弘成首相補佐官を広報担当で任用、官邸主導でメディア対策を実践していることは、メディア戦略を重視したブレア首相の影響と言えそうだ。

野党は政権奪取戦略に注目した。最大の「武器」と受け止められたのがマニフェスト。民主党はブレア労働党が政権奪取に成功した97年総選挙のマニフェストを徹底研究し、03年11月の衆院選で「マニフェスト選挙」を仕掛けた。【尾中香尚里】(以上)

★ コメント 毎日新聞の報道で「党首討論やマニフェストといった英国方式が日本に持ち込まれたのは、いずれもブレア政権時代」と伝えているように、自民党と民主党はブレア政権の政治手法を取り入れています。教育政策も英国を見習ったと言われますが、英国では競争が過熱して批判が出ています。

自民党は米国との協力関係は英国型を目指すとしています。そのために集団的自衛権が行使できる憲法を企図しています。イラク戦争が始まる前にブレア首相はブッシュ大統領に単独行動主義を改めるように働きかけましたが、受容れては貰えませんでした。これを見れば日米同盟で双務性になれば米国は日本の言うことに耳を貸すという意見は必ずしもそうとは言えません。

米国が起こす戦争にブレア首相が果たした米国の伴走役を、日本が替りに果たした場合、イラクにおいて英国戦死者が140人を超したような事態を招きかねないのです。

追伸 人名を文字化けのままでブログに書き込みました。お詫びして訂正します。正しくは「ひめゆり平和祈念資料館に並ぶ遺影に向かい、新崎昌子さん」でした。

ひめゆりの少女たちから思うこと/山崎孝

2007-05-10 | ご投稿
別れは悲しみの場合だけでなく、新たな人生への旅立つ喜びを秘めている場合もあり、人と人との別れのシーンは様々です。その新たな旅立ちで「友よ、再び逢わん」と誓い合うはずなのに、多くの人が永久の別れになってしまったシーンを描き、その後、生き残った人たちの証言を記録した映画に触れた文章が5月10日の「天声人語」にありました。以下、紹介します。

歌われなかったことで、永遠の生命が与えられた歌がある。1945年春、沖縄師範学校女子部と沖縄県立第一高女の卒業式のために準備された「別れの曲だ▼〈業なりて巣立つよろこび/いや深きなげきぞこもる/いざさらばいとしの友よ/何時の日か再び逢わん〉。式直前、3割の生徒が看護要員として前線に送られる。夜の兵舎での卒業式では、練習を重ねたこの曲ではなく、出征兵士を送る「海ゆかば」が斉唱された。3日後、米兵18万人の本島上陸が始まる▼戦場動員された「ひめゆり学徒」222人は15~19歳だった。戦闘や捕虜を拒んだ自決により123人が死亡した。生存者の証言を収めた映画「ひめゆり」が、近く東京で公開される▼柴田昌平監督は13年をかけて、22人の肉声を集めた。亜熱帯のまぶしい景色の中で、時に淡々と、時に絞り出すように、すさまじい体験談が延々と続く。試写室の闇に、重いため息がこぼれた▼ひめゆり平和祈念資料館に並ぶ遺影に向かい、那峨郁手さん。「ここに来ると、同級生は今も16歳の顔でほほ笑んでいます。孫と同じ年です。私があの世に行く時は、友達が味わえなかった平和な時代のお許を、いっぱいお土産にしたい」▼「別れの曲」は毎年の慰霊祭で歌い継がれているが、証言者のうち3人が映画を待たずに亡くなった。忘れたくて、一度は砕き捨てた記憶かと思う。その破片をカメラの前でつなぎ合わせてくれた元ひめゆりたち。かけがえのない「記憶の束」を両手で抱え、次世代に運び届けたい。(以上)

かつて日本は悪いことをした覚えがないという人たちが多く現在の政権内に入り込んでいます。軍部は中国の占領地で謀略まで行い戦争を拡大させ、戦争の終局には沖縄に米軍が上陸されてしまう状況を招いた。その状況の中で「虜囚の辱めを受けてはならないと」する軍人勅諭の教育を受けた少女たちは、追い詰められて集団自決の道を選ばざるをえなかった。

このような軍部に大きな責任がある史実を直視せず、沖縄戦のほんの居部的な事柄を口実にして、沖縄戦集団自決には軍部の責任がなかったとする文科省の教科書検定が行なれた。

軍部に責任がなかったとする人たちが、アジアの国に大被害を与えた意味合いを持った、国際紛争を武力で解決しない、海外で武力行使をしないとした憲法を変えようとしています。

改憲の立場を取る日本人には、軍部に責任は無い人たちが主導してきた危険性を認識せず、現行憲法の理念でカバーできる問題に関する「新しい権利」を書き込むためとか、本来、法的には無意味な事柄である自衛隊を明記するためにとか、極めてムード的な気持ちで、改憲の潮流に乗る危険性を認識して欲しいと思います。

《かけがえのない「記憶の束」を次世代に届ける》ためには、改憲せず、決然として戦争と決別した日本でなければ、映画のような立場では届けることは出来ません。愛国心教育が国民に浸透した場合は、戦死者を尊崇とする靖国思想が蔓延して、ひめゆりの少女たちは、虚飾が施され、けなげにも滅私奉公した姿の一つとして伝えられる可能性はあります。

日本は成熟した民主主義国家か?/山崎孝

2007-05-09 | ご投稿
雑誌「論座」2007年6月号で、憲法・比較憲法の学者 樋口陽一さんは、加藤周一さんとの対談記事の中で、《(前略)二つのまるっきり違う前提に立っている人たちが、第9条を変える点だけでは一致して共同戦線を張っている。つまり、日本は戦後、民主主義を十分に身につけてきた、だから、あらためて正式な軍隊を持っても、かつてのような悪いことをしない、それだけ成熟したんだという立場がひとつです。亡くなった後藤田正晴さんが、改憲して「蟻の一穴」から堤防が壊れるのを憂えたのに対し、戦争を知らない世代の議員たちが、そんな心配は不要で日本は胸を張っていい、成熟した民主主義国家になったんだと反発していました。

もう一つは、かつて悪いことをやった覚えはないんだという立場です。そういうことを言い張る人たちは、これまでは改憲論の中で少数派でしたが、今や政権中枢を占めるようになっている》(以下略)樋口陽一さんは、二つの立場の人たちにもっと議論をして、アジアとの関係を修復した上で、改憲を主張しなさいと言いたいと述べています。

しかし、かつて悪いことをやった覚えはないんだという立場の代表格の安倍首相は、かつて悪いことをやった覚えはないんだという立場を世界に向かっては公式には表明できません。これに近い立場を表明した従軍慰安婦問題では、訪米して謝っています。

改憲派の成熟した民主主義国家になったんだという主張も大いに疑問です。個人の思想信条に介入する日の丸・君が代の強制と従わない教師には毎回の処分を行なう。伊吹文科相は5月7日、地方教育行政法に盛り込まれた文科相から教育委員会への「是正の要求」をめぐり、学校が入学式や卒業式で国旗掲揚や国歌斉唱をしなかった場合について「学校指導要領通りにやって下さいということは、是正要求しなければならない」と述べ、発動の対象になると述べました。言論の自由は集合住宅に商業ビラの配布は自由にさせていながら、政権与党がイラク戦争支持を打ち出してからは、政府の政策を批判するビラ配布には、住居侵入罪を適用して逮捕し処罰する。平和国家の形成者を育てようとした教育基本法を改定して、公教育に愛国心と言う一律の価値観を教えようとする。自民党改憲草案には公(国家と国民と言う縦関係を公と考えて、人と人という水平方向ではない)の秩序を名分に言論の自由を制限しょうとする考えを盛り込む。国民投票法案には公務員が改憲反対運動には事実上の制約を盛り込むなどなど、これで成熟した民主主義などとはとてもいえません。

歴史観を異にする改憲派の多くに共通するものがあります。日米同盟は世界平和のために役に立つという考えです。

五百旗頭真氏は5月3日付の毎日新聞紙上で《イラク戦争は9・11テロの後、米国内でネオコンが影響力を拡大したためで、かなり例外的な現象でしょう。米国の良いところは復元力が働く点です。自由で多様な社会で、しかも選挙が復元力を共生している。健全なプラグマティズムがあって、時間とともに間違いを克服する別な流れが出る。それを信頼した方がいいと思うんです。本当に米国がたけり狂っているなら、自衛隊をサマワ撤収なんか認められませんよ》と述べています。

米国が他国を侵略したのはイラクだけではありません。ベトナム戦争、キューバ侵攻、グレナダ侵攻、パナマへの軍事介入など無数にあります。これは、米国民が米国流の自由と民主主義が一番良いから、これを世界は見習ったらよいという思い上がりと軍産複合体制による構造的な問題が大きく影響していると思います。

五百旗頭真氏は、米国は復元力が働く、時間とともに間違いを克服する別な流れが出ると述べていますが。米国が復元力を取り戻すまでに、これまでどれだけの他国の民衆の血が流れたのかと言う視点が抜け落ちています。

日本が成熟した民主主義国家とは言えず、米国に是々非々で望めない政権では、憲法による歯止めを失ってはならないと思います。

加藤周一さんは、「論座」の対談の中で、《平和主義が定着しないまま、自衛隊が大きくなってきたわけだけど、自衛隊をそのままにして、憲法だけを変えるというのは、将来を開く道ではない。将来に向かって進むためには、むしろ自衛隊を小さくして、憲法を生かすということだと思うんですね》と述べています。