いせ九条の会

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日本は成熟した民主主義国家か?/山崎孝

2007-05-09 | ご投稿
雑誌「論座」2007年6月号で、憲法・比較憲法の学者 樋口陽一さんは、加藤周一さんとの対談記事の中で、《(前略)二つのまるっきり違う前提に立っている人たちが、第9条を変える点だけでは一致して共同戦線を張っている。つまり、日本は戦後、民主主義を十分に身につけてきた、だから、あらためて正式な軍隊を持っても、かつてのような悪いことをしない、それだけ成熟したんだという立場がひとつです。亡くなった後藤田正晴さんが、改憲して「蟻の一穴」から堤防が壊れるのを憂えたのに対し、戦争を知らない世代の議員たちが、そんな心配は不要で日本は胸を張っていい、成熟した民主主義国家になったんだと反発していました。

もう一つは、かつて悪いことをやった覚えはないんだという立場です。そういうことを言い張る人たちは、これまでは改憲論の中で少数派でしたが、今や政権中枢を占めるようになっている》(以下略)樋口陽一さんは、二つの立場の人たちにもっと議論をして、アジアとの関係を修復した上で、改憲を主張しなさいと言いたいと述べています。

しかし、かつて悪いことをやった覚えはないんだという立場の代表格の安倍首相は、かつて悪いことをやった覚えはないんだという立場を世界に向かっては公式には表明できません。これに近い立場を表明した従軍慰安婦問題では、訪米して謝っています。

改憲派の成熟した民主主義国家になったんだという主張も大いに疑問です。個人の思想信条に介入する日の丸・君が代の強制と従わない教師には毎回の処分を行なう。伊吹文科相は5月7日、地方教育行政法に盛り込まれた文科相から教育委員会への「是正の要求」をめぐり、学校が入学式や卒業式で国旗掲揚や国歌斉唱をしなかった場合について「学校指導要領通りにやって下さいということは、是正要求しなければならない」と述べ、発動の対象になると述べました。言論の自由は集合住宅に商業ビラの配布は自由にさせていながら、政権与党がイラク戦争支持を打ち出してからは、政府の政策を批判するビラ配布には、住居侵入罪を適用して逮捕し処罰する。平和国家の形成者を育てようとした教育基本法を改定して、公教育に愛国心と言う一律の価値観を教えようとする。自民党改憲草案には公(国家と国民と言う縦関係を公と考えて、人と人という水平方向ではない)の秩序を名分に言論の自由を制限しょうとする考えを盛り込む。国民投票法案には公務員が改憲反対運動には事実上の制約を盛り込むなどなど、これで成熟した民主主義などとはとてもいえません。

歴史観を異にする改憲派の多くに共通するものがあります。日米同盟は世界平和のために役に立つという考えです。

五百旗頭真氏は5月3日付の毎日新聞紙上で《イラク戦争は9・11テロの後、米国内でネオコンが影響力を拡大したためで、かなり例外的な現象でしょう。米国の良いところは復元力が働く点です。自由で多様な社会で、しかも選挙が復元力を共生している。健全なプラグマティズムがあって、時間とともに間違いを克服する別な流れが出る。それを信頼した方がいいと思うんです。本当に米国がたけり狂っているなら、自衛隊をサマワ撤収なんか認められませんよ》と述べています。

米国が他国を侵略したのはイラクだけではありません。ベトナム戦争、キューバ侵攻、グレナダ侵攻、パナマへの軍事介入など無数にあります。これは、米国民が米国流の自由と民主主義が一番良いから、これを世界は見習ったらよいという思い上がりと軍産複合体制による構造的な問題が大きく影響していると思います。

五百旗頭真氏は、米国は復元力が働く、時間とともに間違いを克服する別な流れが出ると述べていますが。米国が復元力を取り戻すまでに、これまでどれだけの他国の民衆の血が流れたのかと言う視点が抜け落ちています。

日本が成熟した民主主義国家とは言えず、米国に是々非々で望めない政権では、憲法による歯止めを失ってはならないと思います。

加藤周一さんは、「論座」の対談の中で、《平和主義が定着しないまま、自衛隊が大きくなってきたわけだけど、自衛隊をそのままにして、憲法だけを変えるというのは、将来を開く道ではない。将来に向かって進むためには、むしろ自衛隊を小さくして、憲法を生かすということだと思うんですね》と述べています。