いせ九条の会

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イラク戦争が9条を再評価させた 中日新聞の論説/山崎孝

2007-05-15 | ご投稿
【国民投票、最短で2011年 首相「3年、広く深く議論を」】(5月15日付中日新聞より)

国民投票法(憲法改正手続き法)が14日の参院本会議で可決、成立したことを受け、改憲の発議が2010年5月から可能になった。安倍晋三首相(自民党総裁)は同日、中川昭一政調会長に対し、05年11月に同党が公表した新憲法草案を基に党内議論を進めるよう指示するなど、改憲に向けた動きを強めており、同党内の改憲論議をリードしている船田元・元経企庁長官は本紙のインタビューに、11年後半にも、改憲のための国民投票が実施されるとの見通しを示した。

安倍首相は14日夕、国民投票法が成立したことを受け、憲法改正について「議論を進めていく上で選挙はよい機会だから、この機会に自民党は既に草案をつくっていることも話していきたい」と、7月の参院選で改憲を争点に据える考えを重ねて示した。首相官邸で記者団の質問に答えた。

首相は同時に、「(法律の)施行は3年先だから、その間、落ち着いた環境の中で、静かに、広く、深く議論をしていくことが大切だ」と指摘した。

自民党がまとめた憲法草案については「国民とともに議論を進めていきたい」と強調。同党内に草案の見直しを求める声があることには「今後、草案を基に、いろいろな議論があると思う」と述べるにとどめた。

さらに「憲法96条で定めている改正手続きについて、法的な整備が整った。立法府として責任を果たした」と述べた。

同法の規定により、今年7月の参院選後に召集予定の臨時国会で、憲法改正原案を審議する憲法審査会が衆参両院に新設される。

ただ、憲法改正原案の審議は公布から3年間は凍結されるため、審議が可能になるのは10年5月から。審議の結果、衆参両院のそれぞれで総議員の3分の2以上の賛成を得れば、改憲案として発議され、国民投票に付される。

船田氏は「凍結の解除後も議論が続く。改憲原案がまとまるまで、最低1年はかかるだろう。発議後、周知期間(60-180日間)を置いて国民投票が実施されることから計算すると、11年後半から12年前半が最短のスケジュールだ」と述べた。

首相は憲法改正に強い意欲を示しているが、自民党総裁としての任期は09年9月までで、再選されても12年9月まで。3選は禁止されている。さらに、09年9月には衆院議員の任期が切れ、10年夏には参院選が行われる。

首相が、党総裁選や衆参両院選を勝ち抜いて任期いっぱい総裁を務めても、公約通り在任中に改憲を実現するには、時間的余裕がないのが実情だ。

さらに、自民党にとって、改憲案発議に必要な衆参両院で3分の2の賛成を得るためには、民主、公明両党の協力が不可欠だが、両党の協力を得るメドも立っていない。

自民党内では、今後3年間で民主、公明両党とともに改憲原案の骨子や要綱をとりまとめ、改憲原案の審議解禁後、速やかに手続きに入るべきだとの意見が強い。

しかし、公明党は戦争放棄を明記した9条を堅持して、環境権やプライバシー権を新設する「加憲」が持論。太田昭宏代表は14日、首相官邸で記者団に「じっくりと(党内で)議論して、3年をメドとして加憲案を示すように努力したい」と述べ、自公民3党共同での改憲案づくりに消極的姿勢を示した。

一方、民主党は、改憲を参院選の争点に据えた首相に対する反発を強めている。同党の枝野幸男憲法調査会長は14日、本紙のインタビューで、「首相は民主党の協力は必要ないという姿勢だ。民主党は単独で3分の2を目指して頑張る」と、改憲に向けた自民党との協調を否定した。

◇重い歴史的任務負った 論説主幹・山田哲夫

国民投票法が成立した。改憲を政権の最重要課題とする安倍首相は、そのための必要条件を手にして、7月の参院選は憲法改正を公約に戦うという。憲法問題は、国民一人ひとりが憲法への理解を一段と深め、改憲の是非を見極めていくべき新局面に入った。重い歴史的任務を負ったとの認識をもつべきだろう。

国民投票法について「急ぐ必要は全然ない」というのがわれわれの立場だった。

国のあり方や理念を定める根本法規改正にかかわる法律だ。時間はかかっても多くの政党と議員が参画して、納得と合意のうえで成立させる方が望ましいし、環境権や知的財産権など新しい権利の扱いをめぐっての課題はあるが、現行憲法核心の立憲主義や9条に手を加えてまで憲法を改定する緊急性があるとは思えなかったからだ。

政権戦略と政局優先から協調路線を壊してしまっての国民投票法。今後建設的な憲法論議が可能なのか心配にさえなる。

憲法は、常に吟味検証され、論争され続けられるべきなのは当然だ。先の「憲法60年に考える」社説のシリーズのなかで、われわれがあらためて確認したのは現憲法の護(まも)られるべき多くの価値の存在だった。

(1)武力の過信によって泥沼に陥ったイラク戦争が9条を再評価させている(2)政府・公権力を勝手にさせない近代立憲主義を逆転させ、憲法を国民統治のための道具にしてはならない(3)中国・韓国に対して侵略、植民地支配の歴史責任がある。平和主義はアジアへの100年の誓約で、なお恩讐(おんしゅう)を超えるに至っていない-。

不完全な人間への自覚や理性そのものへの懐疑も現憲法を護るべき大きな理由に思えた。

しかし、新局面を迎えて憲法論議は一段と磨きがかけられ深化されなければならない。国民投票は究極の民主主義だが、気分や雰囲気、空気に流されてしまう危うい側面をもつことも知っておくべきだろう。ナチスに蹂躙(じゅうりん)されたドイツに国民投票がない理由でもある。例えば「現行憲法は時代に合わなくなった」などの批判は適切な評価だろうか。施行60年、なお憲法の精神は行き届かず、不徹底に思えるのだがどうか。

自衛権、自衛戦力保持明記を主張する護憲的改憲論はかなりの支持を得ているが、9条を改定して、戦争ができる国にしてしまって本当にいいのか。統治者を、われわれ自身をそれほど信頼してしまっていいのか、ぜひとも詰めたいテーマだ。

改憲発議は2010年から可能になる。それまでに少なくとも2回の参院選と1回の衆院選。だれがどんな憲法観をもっているかを見定めての投票としなければならないだろう。未来社会と子孫たちのためでもある。腰を据えて考えたい。(東京新聞)(以上)

中日新聞の論説は《(1)武力の過信によって泥沼に陥ったイラク戦争が9条を再評価させている(2)政府・公権力を勝手にさせない近代立憲主義を逆転させ、憲法を国民統治のための道具にしてはならない(3)中国・韓国に対して侵略、植民地支配の歴史責任がある。平和主義はアジアへの100年の誓約で、なお恩讐を超えるに至っていない-》と現行憲法と自民党の新憲法草案を対比させて的確に特質を表現しています。

5月15日付の朝日新聞社説は、自民党新憲法草案で自衛軍を持ち、自衛軍の使い方の原則を決める「安全保障基本法」は、憲法9条の2項の歯止めがなくなれば、多数党の判断でどこまでも変えることが可能だ。集団的自衛権の行使に制約をなくし、海外でも武力行使できるようになる。いつの日か、イラク戦争で米国の同盟国として戦闘の正面に立った英国軍と同じになる可能性も否定されないということだ、と主張しています。

朝日新聞の指摘した《英国軍と同じになる可能性も否定されないということだ》は、「いせ九条の会」が憲法記念日に配布した宣伝ビラと同じ指摘です。

英国軍はイラクでの戦死者は142人になり、イラク人の犠牲者はイラク保健省の発表では15万人になったと言われます。他国の領土で戦う戦争に正義と言う言葉はありません。日本はそのために集団的自衛権の行使をする国になってはいけません。