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「甲越軍記」を現代仕様で書いてみた(108) 長尾家 21

2024年06月11日 06時11分07秒 | 甲越軍記

             長尾為景討死

 再び、越後長尾勢は越中勢の罠に陥り、大軍も粉々に打ち砕かれ、日頃は勇武を競う強兵も、今は我先に逃げんとして右往左往する始末
大将、長尾信濃守為景は逃れるところがないと知ると、死賊となって群がる敵の中に喚き叫んで切り裂いて進んだ

神保左京進は千騎を率いて越後勢を斬りまくったが、遥か向こうに為景の姿を認めると、部下の中から精兵を選りすぐり「あれに見えるは敵の大将長尾為景である、あれ一騎を討ち取るは百騎、千騎の雑兵を討ち取るよりも勝るべし、手柄を立てよ」と励ますと、精兵は我先に為景めがけて馬を飛ばした。

為景は既に今日が最後と覚悟を決めたので、よせ来るこれら敵の精兵をもものともせず斬りまくり、早くも六、七騎をたちどころに切り落とした
阿修羅の様なその姿に、神保勢は誰一人近づくこともできず、遠くより矢を射かける、すでに為景は蓑の毛のように全身に矢を受けていたが、その勢いは少しも衰えない
神保勢が為景を恐れて道を開くと、今度は、それに代わって江波勢が為景に向かってきた
為景が頼りとする旗本、元吉八郎、渡邊備中、大郷新八郎らは切っ先を揃えて押し寄せる敵を薙ぎ立てていたが、それぞれに壮烈な討死を遂げた
なれど為景はただ一騎、数か所の傷を負いながらもなおも勇気凛々として少しもひるまず、ますます猛って江波勢を悩ませた

そこへ江波の勇士、江崎但馬が槍をしごいて為景に討って懸かる
為景は眼をクワッと開き、陽に開き、陰に閉じ上段下段と戦ったが為景の運もついにここに尽きた
但馬の槍を受け損じて胸板を貫かれ馬よりどっと落馬した
江崎但馬は駆け寄って馬乗りになって為景の首を取った

ここに長尾勢より容顔美麗なる若武者が一騎緋縅の鎧に、中二段を紫革にて縅したる、半月うちたる冑の緒を締め、片鎌の手槍をしごき、江崎を見て突いて懸かる
江崎但馬、槍を合わせて討ち合うところに「それがしにその敵を任せたたまえ」と神保勢の中から岡島太蔵が馬をかけて江崎に代わり、敵の若武者にかかったが、この若武者の槍先は鋭く、ついに岡島太蔵を突き落とし、なおも進んで討って回る
その槍先は当たりがたく、藤本三弥、水輪田之助、教来興次郎が若武者のために命を落としたほか手傷を負うたものも五、六人。
越中勢はわずか一騎の若武者を恐れて、遠巻きにこれを見る
若武者も、しばし馬を休め槍を休めて凛々しく立つ姿は、あたかも牛若丸の様である
見る者の目を驚かし、肝を冷やす

神保左京進は遠めにこれを見て「あれなるは為景の小姓に違いない、あたらあのように見事な若武者は殺すに忍びない、誰ぞ生け捕って儂の前に連れてくるように」と言えば、越石縫殿(こしいしぬい)がさっと馬を走らせて、若武者に挑みかかった。


 



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