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一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

渡部愛新女流王位誕生記念パーティー・2

2018-09-07 00:12:20 | LPSAイベント
野月浩貴八段は渡部愛女流王位にお祝いを述べた後、ふたりで行った勉強方法を語り始めた。渡部女流王位から、野月八段に語ってほしい、と要望があったようである。
「私と渡部さんは同じ北海道出身、同郷ということで、親しくしていました。2年半前、1通のメールが来まして、それが渡部さんでした」
早くもおもしろくなりそうな導入である。「それには、『私は伸び悩んでいる、今年中にタイトルを取りたい』と書いてありました。それで私は2つ質問したんですね。ひとつは、タイトル挑戦で満足するのか。もうひとつは、実戦で勉強して強くなるのか。それとも(自分の将棋を)一からやり直すのか。
渡部さんの答えは、タイトル挑戦では満足しない、自分の将棋を一から見直す、というものでした。それで私は、『コーチと選手』という形で、やらせていただいた」
野月八段は渡部女流二段(当時)の将棋を分析し、また彼女にも、自己分析できるよう促したという。
「感心したのは」と野月八段は続ける。「渡部さんがあまり遊びにも行かず、飲みにも行かず、将棋の勉強に専念したことです」
このあたりは私も思い当たるフシがある。私もこの時期に何度か、渡部女流二段に指導対局等でお世話になったが、よく将棋を勉強してるなあ、という雰囲気があったからだ。私は、渡部女流二段がいつタイトル戦に登場しても不思議ではない、と思ったものだ。
野月八段は渡部女流二段に、自分で考える時間を増やす、読みが浅いところは深く考える、そして指した将棋の内容を精査するよう、促した。渡部女流二段はそれに応え、みるみるうちに成績が上がっていった。
野月八段は2016年度と2017年度の、渡部女流二段の成績を述べる。それぞれ19勝5敗、18勝10敗で、勝率も勝数も上位だった。
そして今年3月、ついに渡部女流二段は、女流王位戦登場を決めたのだ。
「渡部さんは、対振り飛車、対中飛車に不安がありました」
ここで2人は、今度は里見女流王位の将棋を徹底的に研究したという。「でもある時、渡部さんが里見さんの将棋を出してきましてね。私は渡部さんに聞きました。これでいいのか、と」
この辺のやりとりがいま一つよく分からないのだが、野月八段には、渡部女流二段が里見女流王位のデータを収集しすぎて、それに固執してしまうのはどうか、という危惧があったのではないか。
「それで里見さんの指し手からデータを取るのは止め、渡部さんらしい指し手を考えました。
(お互い)優っている部分がある。優っているほうを出すようにしましょう、ということになりました。
この辺りは、私も日本将棋連盟の人間だし、ネットもあるから詳しく言えないんですけれども――」
辺りは水を打ったように静かになっている。「里見さんは序盤巧者なので、それを阻む。また終盤で『出雲のイナズマ』が出るのは限られた状況なので、それを出させないようにする、そんなふうに指導しました」
何だか野月八段、結局秘密事項を、暴露してくれたんじゃないか?
ともあれふたりの研究が実り、渡部女流二段は里見女流王位からタイトルを奪取したのだった。
「もちろん渡部さんには、今後も期待しています。今後は男性と同等の力を持つ、私よりも強くなることを願います。今も、基礎からひとつずつやってます。
渡部さんはタイトルを取ったあと負けが込んでいますが、これからは、負けたくても負けられない状況になると思います」
何とも力強い言葉で締め、大拍手の中、野月八段のスピーチは終わった。
テニスの岡ひろみに宗方仁がいたように、陸上の高橋尚子に小出監督がいたように、選手のステップアップには優秀なコーチが不可欠である。野月八段はまさに、影の参謀だったのだ。
そして「情けは人の為ならず」とも言う。野月八段が渡部女流王位にコーチしていた期間、自身も順位戦全勝で、B級1組への復帰を果たした。野月八段もまた、運気を引き寄せたようである。
「野月先生の教えでタイトルが取れるなら、ほかの女流棋士もコーチしてほしかったですね」
と中倉彰子女流二段。しかし「同郷だから(のコーチ)ですか」と、納得したようである。

さらに蛸島彰子女流六段の祝辞となる。蛸島女流六段は、渡部女流王位がタイトルを獲ったあと、雑誌社からインタビューを受けたという。
「渡部さんは自分の力をしっかり身につけました。タイトルを獲った驕りもありませんでした。
渡部さんが高校生の時、大好きな将棋だから、楽しく指していきたいです、と言っていました。それから真面目に将棋に取り組んで、一歩一歩前進していきました。すばらしいな、と感じます」
開会からすでに30分以上が経過している。一般のパーティーなら早く乾杯を、となるところだが、皆さんのスピーチがおもしろいので、まったく気にならない。
そしていよいよ、渡部女流王位の謝辞となった。
(つづく)
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渡部愛新女流王位誕生記念パーティー・1

2018-09-06 00:41:49 | LPSAイベント
2日(日)は東京・銀座7丁目にて、渡部愛新女流王位の誕生記念パーティーがあった。5日に日本将棋連盟と主催社とで正式な就位式があるが、今回はLPSAが独自で行うものである。私はもちろん出席予定である。
思えば今からちょうど30年前の9月2日、私は東北を旅行中で、その日「角館の美女」と運命的な出会いをしたのだ。
あれから30年か……。私の人生設計は、どこかで狂ったと思う。

開演は午後6時からなので、準備に余裕がある。久しぶりにスーツを着用したので、銀座に行く前に、インスタント証明写真を撮りに行った。履歴書貼付用である。
某駅近くのボックスに入り鏡を見て、顔の位置を調整する。その時、我が頭頂部があまりにも禿げあがっているので、愕然とした。
少なくとも1年前に撮影した際は、もう少し頭頂部に髪があった。黒髪も多かった。それが今年の春に撮った時は妙に白髪の割合が多くなり、そして現在は、髪自体がなくなっている。たった1年で、どれだけ老化しちゃったんだろう。
就職できない焦りが、仕事以上のストレスを生む。恐ろしいことだと思った。

自宅最寄り駅の1つ先から電車に乗ったので、銀座7丁目の最寄り駅である新橋より、1つ手前の有楽町で降りたほうが、11円安くなることが分かった。節約のため、有楽町で降りた。
銀座をブラブラすると、交差点の一角に、巨大な水槽があった。中では優雅に魚が泳いでいる。これが臨時の設置なのか常設なのか知らないが、銀座の新たな名物になりそうだ。
しばらく歩くと、歩行者天国があった。今は新宿くらいしか見かけないが、ここ銀座でもやっていたのだ。私も東京に生まれて半世紀余だが、こういうトレンドにはとんと弱い。
今回のパーティーは、7丁目13番の「Sun-mi高松」で行われる。5月にLPSAのパーティーが行われた時も、この近くだった。
5時35分ごろ入ると、スタッフのS氏と会った。
「久しぶりです」
「久しぶりです」
「ささ、どうぞお入りください」
「いやいや私、事前申し込みを忘れちゃったので、ここでおカネを払わなきゃいけないんです」
「あー、そうなんですか。Minervaへの更新はしてくれたのに」
まったくその通りで、入金をぐずぐずしたため事前締切が過ぎ、今日は現金で当日料金を払わねばならない。2,000円も余計の出費となり、気が狂いそうになった。これじゃ11円を節約したところで、焼け石に水である。
受付を終えると、パンフレットをいただいた。それには渡部女流王位の写真がふんだんに載っており、女流王位獲得までのミニヒストリーになっていた。奪取を決めた第4局の棋譜とその解説も添付されており、愛ファンにはたまらないプレゼントだった。
会場には、大勢の客がいた。もっと閑散としているかと思ったが、意外に多い。
Kun氏とSak氏がいたので挨拶する。Kun氏はともかく、Sak氏がいるとは珍しい。
「いやー、最近頭が薄くなっちゃって」
渡部女流王位や飯野愛女流初段にはこのアタマを見せているからいいが、久しぶりの知人には衝撃であろう。自らこの話題を振るしかない。
しかし2人は、何も答えない。私の言葉が大袈裟でないので、否定できないのだ。
周りを見渡せば、LPSAファン氏の姿もあった。もっと奥に行けばまた知った顔があるかもしれないが、面倒なので、そこに留まった。
右を見ると、先崎学九段と、遠藤正樹アマが談笑していた。その右にいるのは瀬川晶司五段である。先崎九段、完全に寛解しているようで、何よりである。
例の著書では、似たようなパーティーで、自身が誰にも話し掛けられないので苦痛に感じた、とあったが、それは棋士同士の論理であろう。アマ側から見れば、一将棋ファンが棋士に話しかけるなど大それたことであって、とてもそんな真似はできない。
それでしばらく佇んでいたのだが、先崎九段が話を終え、クルリと振り返ると、九段が正面から私を見る形になった。これでは私も声を掛けざるを得ない。
「先生、先生のご著書、読ませていただきました」
「ああどうも」
「先生、先生のあれ、私は映画になると思っています。その際は(忙しくなるから)マネージャーを付けてください」
「あああ、どうも」
先崎九段はどこかへ行ってしまった。ま、こんな感じになる。
瀬川五段も一瞬だけ、手すきのようである。こちらは7日(金)から「泣き虫しょったんの奇跡」が封切りになり、公私ともども絶好調といったところ。だが話しかけても私がネタ切れになりそうなので、黙って開演を待った。
午後6時、中倉彰子女流二段の司会で、パーティーが始まった。奥にはテレビ局の取材もきていた。
まずは渡部女流王位を呼ぶ。何と私たちと同じ入口からの登場となる。私たちは拍手をもって迎える。渡部女流王位は青の振袖で、ひときわ美しかった。
中倉宏美代表理事の挨拶となる。
「本日は大勢お集まりいただき、ありがとうございます。そして渡部愛さん、おめでとうございます。
愛さんはタイトル挑戦が初めて。女流王位戦はLPSAも主催なので私も同行したんですけども…」
そのうち、宏美代表理事の声が小さくなったので、これは感激にむせび声を詰まらせたのか……と思ったら、たんにマイクの調子が悪くなっただけだった。再度スピーチ。
「まさかと言ったら失礼なんですけども――」
ここで場内爆笑となる。「里見さんからタイトルを獲るのは大変で、そこをよく獲ったと思います。LPSAも有名になって、ありがたいことだと思います」
この後、宏美代表理事から渡部女流王位に、女流王位就位状が渡された。また女流三段昇段も果たしたので、その免状も渡された。
蛸島彰子女流六段が引退した今、LPSAの現役で女流三段は最高位である。名実ともに、渡部女流王位はLPSAの顔となったわけだ。
続いて来賓の挨拶。東大名誉教授、その他さまざまな肩書を持つ、木村ヒデノリ氏が壇上に立った。
教授はポソポソと語るが、声が小さいので何を言ってるのか聞こえない。マイクを調節すると、聞こえるようになった。教授は、Minerva会員としてよろこばしい、みたいなことを語ったあと、「チェスのプロの女子は1%です」と続けた。その理由は「要するに、数の問題」だった。
つまり将棋界も、もっと女性のプレイヤーが多くなれば、奨励会三段リーグを抜けてのプロ四段もぞくぞくと出てくるだろう、とのことだった。
何だか、何かの講義を聴いているかのようだった。
続いて、野月浩貴八段の祝辞。これはおもしろい話が聞けそうである。
(つづく)
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第11回武蔵国 けやきカップ・1dayトーナメント(後編) 

2018-04-28 00:12:08 | LPSAイベント
決勝戦が始まるまで、しばしの休憩である。
なお指導対局は、中座真七段の8面指し、上川香織女流二段の5面指しだった。
私は物品コーナーで、中座七段の新刊「相掛かりの新常識」(マイナビ・税別1,500円)を買う。これからの将棋は、相掛かりである。サービスの揮毫は何種類かあったが、私は「道心」を選んだ。
決勝戦は、「手数当てクイズ」もある。これは先後で手数が変わってくるので、その確認が必要だ。
近くに中倉宏美女流二段がいたので、挨拶する。
「先生、残念でした。私、宏美先生を優勝予想したんですよ」
「ああ…」
「だって今年は愛ちゃんがいないじゃないですか。チャンスだったのに」
「えっ」
「でも宏美先生が優勝しちゃったら、けやきカップがなくなっちゃうらしいですもんね。だからいいですか…」
「えっ」
ほっとくとどんどん宏美女流二段を貶めそうなので、ここらでやめておく。
傍らでは決勝戦の振り駒が行われ、島井咲緒里女流二段の先番になった。相手の堀彩乃女流2級は急戦派なので、私は「103手」と書いて投函した。
キッズ詰将棋の解答発表も終わり、いよいよ決勝戦の開始である。解説は宏美女流二段と大庭美樹女流初段。
宏美女流二段「(ふたりは)詰将棋と実戦で鍛え上げた感じです」
将棋は先手・島井女流二段の四間飛車穴熊に、堀女流2級の銀冠になった。
島井女流二段のそれは予想されたところだが、堀女流2級の銀冠は意外。相手が穴熊といえども、急戦で挑むと思っていたからだ。ともあれこれでは長期戦は必至で、絶対に「103手」では終わらない。優勝者当てクイズに続き、手数クイズも外したようだ。
島井女流二段は▲4七金と上がり、前局と同じ攻める穴熊である。早指し戦では、自分の得意形に進めるのがいい。指しなれているから、時間を使わずに済む。
宏美女流二段「むかしソフトで研究をやっている時は罪悪感とか違和感がありましたけど、今はそういうことはなくなりました」
会場には、階上で大会を終えた子供たちが入場し、やや騒がしくなっている。室内後方に「習甦」があり、それをプレイしているらしい。すぐ近くでは女流棋士の真剣勝負が行われているのだが、彼らに静粛を求めるのは無理というものか。
堀女流2級は△2四角から△4四銀と上がり、堂々とした布陣。たしかに、大山康晴十五世名人が指しているみたいだ。
堀女流2級はここらで勲章がほしいところ。
「優勝か準優勝かでだいぶ違いますもんね」
と、宏美女流二段。
解説が大庭女流初段から中座真七段に交替した。
局面は島井女流二段が快調に進めている。▲5七飛と馬にぶつけ、堀女流2級は△3六馬と逃げた。これはつらい。
以後も島井女流二段がノビノビと指し、素人目にも島井女流二段の優位が見えてきた。

島井女流二段▲5五角!(図)と放った。何だか、コロンブスの卵のような手があった。
ここ、私のような凡人は、▲7七角をなんとか▲5五角としたいと考える。だがそれは実現しづらいわけで、それならもう1枚の角で▲5五角を打てばよい、という考えだ。
堀女流2級やむを得ない△3三歩に、▲同歩成△同銀▲3四歩もニクイ。私ならすぐに▲8二角成と飛車を取って満足するところ。プロは貪欲なのだ。
▲3四歩以下は△3二歩▲3三歩成と銀得し、そこからゆうゆうと飛車を取った。これは大勢決すの感がある。
島井女流二段は今日優勝すれば、1dayトーナメント10回目の優勝だという。「永世1day?」という冗談も聞かれるほどで、かくも島井女流二段の早指し戦は強い。
△2六歩には▲3八金寄。万が一のトン死の筋を消した。中座七段が「勝負の厳しさを教えましたね」と嘆息した。
以下、117手までで堀女流2級が投了した。

表彰式。島井女流二段にトロフィーと副賞が贈られた。
この後は、お楽しみ抽選コーナーである。今年は大人詰将棋が休止になったうえ、優勝者予想クイズも手数クイズも外してしまった。なお手数クイズは、近似値でLPSAファン氏が賞品を獲得した。さすがLPSAファン氏、いい読みだった。
残すはアンケート回答投稿者の抽選である。
早くも何人か呼ばれ、今年は諦めたその瞬間、私の名前が呼ばれた。何かしらを持って帰る。私の妙な勝負強さが、今回も発揮された。
島井女流二段挨拶。
「この棋戦は相性がよかったです。グリーンプラザも今月で閉館とのことで、今日は朝から雪が降っていたり、忘れられない1日になりました」
中倉彰子女流二段によると、来年は3月17日(日)、「府中芸術の森」で行われるとのこと。今から来年のことを考えると恐ろしいが、また元気にお邪魔できればうれしい。
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第11回武蔵国 けやきカップ・1dayトーナメント(中編)

2018-04-27 00:48:52 | LPSAイベント
2回戦第1局は、上川香織女流二段と堀彩乃女流2級の一戦。解説は中座真七段、聞き手は中倉宏美女流二段である。
対局開始。早速中座七段が「(義理の妹とは解説を)やりにくい」とジャブと飛ばす。
「いえいえそんなことはないでしょう、ホッホッホ」
「宏美さんはNHK杯の司会をやってましたね」
「はい、3年間。でももう10年くらい前ですね。そのころ中座さんとはもう出会っていた…」
「ちょ、出会ってたって、誤解されますよ…」
なんだか本当に中座七段はやりにくそうだ。
先ごろ女流王位戦挑戦を決めた、渡部愛女流二段の話になる。
「最近涙もろくなって…」と宏美女流二段。渡部女流二段からは「ママってよばれてる」らしく、宏美女流二段の喜びもひとしおのようだ。
フロア後方では、女流棋士による指導対局が始まった。1コマ目は、蛸島彰子女流六段と大庭美樹女流初段。どうも大庭女流初段は、1回戦で島井女流二段に負けたらしい。
まだ空きがあり、私も蛸島女流六段に指導を受けてみたいが、宏美女流二段のハジけた聞き手を楽しみたい、ところもある。果たして
「(雑談が)うるさくて(対局者に)集中できないって言われるんで、勝負所になったら静かにしますんで、もう勝負所かもしれないですけど」
と、宏美節が全開である。これは指導対局にいけない。
上川女流二段が▲9五歩と指し、ヘンな場所から戦いが始まった。
上川女流二段、▲5五歩と指して、チェスクロックを押そうとした。手近にそれがあると、つい癖で押しちゃいそうになるのだろう。
中座七段「ここで▲4六角(という手)はセンスがない」
中盤で手の広い局面になっているようだ。
以降、上川女流二段の攻め、堀女流2級の受けで、局面が進行していく。宏美女流二段よれば、「堀女流2級は受けを苦にしない」棋風らしいから、お互いの持ち味が出ていそうだ。
盤面は堀女流2級が反撃に転じたが、上川女流二段も自陣飛車で粘り、決め手を与えない。
「いやあ、すごく際どい終盤です」
と中座七段が感心する。
そこに△3九角!(図)が飛んできた。

▲3九同飛△同金▲同玉△4八金▲2八玉△3八金▲1七玉△2五桂▲2六玉△3五銀▲2五玉△2四飛、と中座七段が駒を動かし、「詰んじゃいました」。
よって▲1七玉では▲1八玉と寄る一手。しかし堀女流2級は慌てず△2八飛。▲1七玉に、「こう指そうということですか」と、中座七段は△2九飛成と指した。
実戦もそうなり、以下▲3五金に△2八竜まで、堀女流2級の勝ちとなった。堀女流2級、堂々の決勝戦進出である。

14時15分からは2回戦第2局、宏美女流二段VS島井咲緒里女流二段の一戦である。
LPSA棋戦において2人は好敵手で、昨年、一昨年もこの棋戦で交え、1勝1敗。ちなみに両年とも優勝したのは渡部女流二段。鬼のいぬ間に、今年は優勝のチャンスである。
本局は宏美女流二段の先手で対局開始。島井女流二段は四間に飛車を振る。△9二香と穴熊の明示をすると、客席の一部から拍手が起こった。
宏美女流二段は▲7八銀から左美濃。でもこれは囲いの途中で、銀冠穴熊に変化するのだろう。と思ったら果たしてそうだった。
私の席からは宏美女流二段の顔が見えるが、相変わらずの平安顔で美しい。やっぱり生で拝見するとファン度が上がるもので、宏美女流二段は現在、ファンランキングの○位だが、もっと順位を上げてもいいと思った。
解説は蛸島女流六段と堀女流2級。対局者に指導対局に解説にと、いろいろ忙しいのだ。
堀女流2級が蛸島女流六段に、最後の公式戦となった将棋を聞く。
蛸島女流六段「悪い将棋を盛り返して、勝てるって光が見えたら、悪い手を指してしまいました。途中で好手に気がついたんだけど、もう角を切っちゃったから、後戻りできなくて――」
蛸島女流六段は、その前の将棋では千葉涼子女流四段をほふったし、実力的な衰えはなかったと思う。勝率に関係なく、まだまだ現役を続けてもらいたかったが、こればかりは当人の意志だから仕方ない。蛸島先生、長い現役生活、お疲れ様でした。
2人の「解説」はつづく。
「蛸島先生はNHK杯の記譜読み上げをされてましたよね」
「そう。(彩乃ちゃんが)生まれる前ね」客席がドッとウケる。「(ファンの方から)ウチの父がよく観てました、とか言われます」
後方では、15時からの指導対局の準備が進められている。中座真七段と上川香織女流二段が行うが、もう1人女流棋士が加わるはずだ。私は昨年中座七段に角落ちで教わり、本家に「中座飛車」をぶつけて緩めていただいた。今年はどうするかだが、このまま宏美and咲緒里の対局姿を見ていたい気もするのだ。
しばらくすると指導対局者も13人に達したということで、これはもう、私が申し込む余地はなくなった。対局の観戦に専念する。
堀女流2級のマイクの調子がわるいようだが、蛸島女流六段も対局者に配慮して小声なので、私たちは大盤の駒の動きを見るのみだ。
島井女流二段は、△6三金型から△7二飛。こうして7筋から攻めるのが島井システムである。
△7五歩▲同歩△同飛に、宏美女流二段は▲6六銀。素直に▲7六歩を打たないのがさすがにプロだが、数手後島井女流二段は△7六歩(図)。これは拠点を作って大きな手に見えた。

さらに銀交換後、島井女流二段△7七銀!「シマイ攻めですね」と蛸島女流六段が言った。
勝敗はともかく、こうなれば島井ペースである。とくに時間の短い将棋では、自分の土俵に引きずりこむことが肝要だ。
宏美女流二段も懸命に受けるが、シマイ攻めは筋に入ってしまった。私は優勝予想に宏美女流二段を推していたが、この予想は外れそうだ。
数手後、宏美女流二段が投了。島井女流二段の快勝だった。
(つづく)
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第11回武蔵国 けやきカップ・1dayトーナメント(前編)

2018-04-26 00:38:17 | LPSAイベント
24日も職安に行き、1件申し込んだ。
担当嬢いわく6件の申し込みがあるとのことで、年齢の分布を聞くと、30代1人、40代2人、50代3人だった。この年齢層なら何とか戦えそうである。
私は翌25日に履歴書を書いたのだが、求人票の注意事項に「詳しい情報はHPに掲載してあります」とあるので見てみると、「募集要項」に「40歳以下」とあるのでズッコケた。
私は職安の担当嬢に電話し、企業側に問い合わせてもらった。
折り返し電話が来たが、企業側は「リーダーが42歳なので、40歳以下が望ましい」との回答だったらしい。
実は職安の募集要項には、年齢制限が書かれていない。たぶん規則で書けない決まりになっているのだろう。それで企業側が高齢の求職を拒む場合、「若い会社です」とか「子育て中の女性でも安心です」のような文言を記したり、月給を薄給にしたりする。それでこっちの意を汲んでくださいよ、というわけだ。今回は給料が安かったのでもしやと思ったが、案の定だった。
年齢制限を聞いて私は迷ったが、結局送付を見送った。
私の求職も、ついにG.W.越えが確実となった。

   ◇

3月21日(水・祝)は、東京都府中市で「第11回武蔵国 府中けやきカップ・女流棋士1dayトーナメント」があった。
これは毎年楽しみにしているイベントだが、前夜、渡部愛女流二段が出場しないと知った。朝起きると寝不足がひどく(録画していた映画「64(ロクヨン)」前後編を観たせいだ)、いっそのこと行くのをやめようかと思った。
しかし中倉宏美女流二段や島井咲緒里女流二段の御尊顔も拝したいし、岡本眞一郎氏の曲詰を解く楽しみもある。私はボンヤリした頭で府中に向かったのだった。
春分の日だというのに、表は小雪まじりの雨である。私の心の中を表しているかのようだった。
イベント場所は府中駅から徒歩1分の「府中グリーンプラザ」6階。開演5分前に入室すると、すでに関係者がそろっていた。観客席は70。半数の席が埋まるかどうかという状況で、ちょっと少ない気もするが、階下では子供たちの将棋大会が行われている。客はそちらに行ったのかもしれなかった。
定刻になり、中倉宏美代表理事の挨拶。「今日は雪になって、驚きました」。
さらに府中市市長・高野律雄氏の挨拶。「けやきキッズ団体戦では、48チームが出場します」。
トーナメント戦はだいたい16チームが1セットだから、募集人員いっぱいに集まったということだ。「最近は藤井聡太さんの影響もありまして、おいが最近将棋を始めたのですが、すぐに(棋力を)抜かされました」
このあたりは、今日のために温めていた鉄板ネタだろう。
続いて、むさし府中商工会議所会頭・濱中重美氏。「この府中グリーンプラザは今月いっぱいで閉館になります」
そういえば、階下で「サヨナラコンサート」なるポスターを見たが、それはこの建物自体のことを云っていたのだ。
スピーチが終わり、10人以上はいる来賓とスポンサー様の氏名が紹介された。
さていよいよ対局である。だがその前に、いただいたパンフレットの中に、岡本眞一郎氏の懸賞詰将棋がない。
近くにいたTag氏に聞くと、岡本氏が体調不良のため、今年はない、とのことだった。
それは残念だが、少しほっとしたところもある。あの詰将棋を解き始めるとそれに没頭してしまい、対局者や解説者がまったく目に入らないからだ。今年は対局観戦に専念しようと思った。
まず優勝者予想クイズだが、今年は本命がいないので、予想がむずかしい。宏美女流二段に1票を投じた。
1回戦Aは蛸島彰子女流六段VS堀彩乃女流2級。解説は中座真七段、聞き手は上川香織女流二段である。
蛸島女流六段は先日現役を引退したが、LPSA棋戦にはお構いなく出場できる。蛸島女流六段はいつもと変わらぬ姿であった。
堀彩乃女流2級は2016年8月に女流3級デビュー。しかしここまで成績はパッとしない。私は堀女流2級に指導対局を受けたことがあるが、短手数で吹っ飛ばされた。ほかの女流棋士とは実力的に遜色ないはずで、あとは気持ちの問題であろう。
ステージから向かって左が対局スペース。中央やや右に、大盤が設われていた。
なお、1回戦B・島井咲緒里女流二段VS大庭美樹女流初段戦は、別室で行われている。こちらも観戦が可能だ。
対局開始。後手番・蛸島女流六段のゴキゲン中飛車に、堀女流2級は超速▲3七銀。でもまだ序盤だから、解説は雑談だ。
中座七段「宏美さんはこのグリーンプラザで勝ったことあるかなあ…。ないですよね。でもそれがいいんですかねえ」
本人がいないので、このくらいの毒はいいのである。「でも(未勝利が)長すぎますよねえ。(けやきカップも)11回ですもんね。……都市伝説があって、宏美さんが優勝しちゃうと、けやきカップがなくなる、って噂があるんですよ」
私個人としては、それでも宏美女流二段の優勝を見たい。
すぐ横に対局者がいるのだが、中座七段は割とハッキリと指し手を述べてしまう。
「その点、JT杯の解説は、(いろいろ制約があって、符号を言う行為には)厳しいんですよ」
上川女流二段から、蛸島女流六段の引退記念パーティーの告知があった。5月27日に、都内で行われるとのこと。
観客席の最前列には、LPSAファン氏の姿があった。LPSAはこうした熱心なファンに支えられている。
堀女流2級は、落ち着いて指している。彼女と渡部女流二段は共通点があって、将棋を教わったのがお父さん、らしい。
将棋は持久戦模様になった。堀女流2級は中央の位を取って、▲5六銀。「いいですね。中原―大山戦を見ているようです」と中座七段。
その中座七段の息子さん(小5)が、現在階下で戦っているという。「いま5級なんですけど、ふだん将棋を教えていると、なんでこんな手が分からないんだって、つい怒っちゃうんです」
これは植山悦行七段にも似た話があった。こういうエピソードを聞くと、コーチは女流棋士に限るとつくづく思う。
局面は細かいやりとりが続いている。▲2四歩を封じて、蛸島女流六段は△2二飛。「これは長期戦ですね」
上川女流二段が、「表は吹雪になりましたね」と言う。まったく、わずか1日で春から冬に逆戻りだ。
蛸島女流五段が1筋に手をつけ、堀女流2級は中央から動く。これは攻める場所が違って、堀女流2級が有望になった。
堀女流2級、▲7五歩。△7三の銀に狙いをつけた。「ここが急所ですね」
数手進んで▲6五銀打!(図)が手厚い。

中座七段は、「堀女流2級は大山先生の将棋を並べていますね」と感心した。
金銀が換わり、「じっくり行くなら(▲7五銀)」。堀女流2級もそう指した。このあたり、堀女流2級の指し手は男性棋士のそれと変わらない。
堀女流2級、▲6三金だった。中座七段「自然な手を積み重ねている気がしますね」。
蛸島女流六段は苦しくなった。
中座七段「苦しいと、相手の読んでない手を指すしかない」
しかし、形勢が離れすぎている。蛸島女流六段は最後の反撃に出たが、▲8七同玉に蛸島女流六段が投了した。
いやはや、なかなかコクのある将棋だった。堀女流2級の将棋は強く、今後に十分期待を抱かせた。https://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=76df6616263a039763b82aec8dc33dac&p=1&disp=10#

さて昼食である。駅の構内に、うまい蕎麦を食べさせてくれる店があった。
例によってすこし迷ったが、いい散歩になった。その店に入り、昨年と同じ日替わり定食の蕎麦を注文する。今日はマグロのミニ丼にたぬき蕎麦だ。丼のご飯が固めだったのと、ワサビが妙に効いたのがアレだったが、メインの蕎麦が美味かったので、よしとする。
(つづく)
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