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一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

2021年長崎旅行・5「あてもなく」

2021-12-30 00:04:59 | 旅行記・九州編
海沿いに出て歩いていくと、平戸交流広場があった。ここで市内のパンフレットをいただく。
その先はまだ観光地があるが、ここで引き返す。山側に行けば平戸ザビエル記念教会や「寺院と教会の見える風景」があるが、どちらも数年前に訪れているので、再訪しない。
もっともそれだと平戸に来た意味が薄れるが、松浦鉄道に乗り、鉄印状がいただけることで、十分釣り合いは取れていると考える。
平戸新町バス停の近くに「めしどころ一楽」なる食堂があったので、昼食に入る。注文は平戸ちゃんぽんだ(770円)。
平戸ちゃんぽんは野菜が多く、食べ応えがあり、とても美味かった。旅人に十分オススメできる食事処である。
12時12分の平戸口経由・佐世保行きバスに乗った。平戸大橋を通り、平戸口桟橋着。近くに瀬戸市場があるのでよほど降りようかと思ったが、先を急ぐ。
ところがこのバスが、平戸大橋へ戻り、その脇を抜けてあらぬ方向へ行くので驚いた。佐世保方面に行くのだ。平戸口経由とあったからてっきりたびら平戸口駅を通ると思ったのだが、平戸口とはこの辺のことをいうのだった。
私は北小学校入口で降車する。若干回り道をしたが、傷は浅かった。



とりえず、平戸大橋の全景を撮った。駅まで直行していたら、目にできなかった光景である。
ついでに平戸瀬戸市場にも入る。だが、にぎりの類は売っていなかった。もう、その時間帯は過ぎてしまったのだろうか。
魚売り場に行ったが、魚もあまり並んでいない。今朝は時化につき、水揚げが悪かったらしい。結局、何も買わなかった。
駅に向かう道すがら、「長崎カステラ」と大書してある洋菓子屋があったので、ここでカステラを買った。いつもは有名メーカーのそれを買うが、たまには自営の店で買うのもよい。そして、味も大手と遜色ないと信じた。
たびら平戸口駅に戻り、鉄印帳(2,200円)を買う。そして松浦鉄道の鉄印も所望した。
この鉄印状の巧妙なところは、ご朱印状を真似て、有料(300円)にしたことだ。
たとえばJRだったら、遥か昔から無料の駅スタンプがあった。スタンプ帳は500円程度で売られていたが、それは市販のメモ帳でも事足りた。
ただ無料がゆえに有難味もなかった。鉄印状はそこを逆手に取り、有料にした。そこに有難味が生じ、ヒット企画となったのである。
しかもこの鉄印状取得には、もうひとつ条件がある。すなわち、この路線の切符を提示しなければならないのだ。
釧網本線・北浜駅、指宿枕崎線・西大山駅など、駅そのものに特徴がある駅は、クルマで来てそのまま帰る観光客も多い。でもそれでは鉄道会社が儲からない。そこで切符購入を条件としたのは、いいアイデアだと思った。
あ! それで入場券か⁉ これを購入すれば、鉄印状がもらえる権利を得るのかもしれない。
もっとも私も、入場券を買った。てっきり「西浦ありさ」がデザインされていると思いきや、武骨な硬券そのものだった。
鉄印は、路線1つにつき1種類のようで、その点はよかった。ただ、紙片で支給された。つまり、帳面に直接揮毫はしなかった。神社のように書の専門家はいないし、この措置は仕方がない。
ただ、路線すべてがこの手法だと、鉄印帳が分厚くなってしまう。



次の列車は13時48分。かなり時間があるので、駅構内をぶらぶらする。改札脇でも本格的ちゃんぽんを供する店が営業していたが、さすがにもう入らない。
駅舎の外では猫の鳴き声がする。見てみると、ジュースの自動販売機の奥にある物置の下の隙間を根城にしているようだった。今回の旅では猫がキーワードのようだ。





列車に乗る。乗客は数人で、この中途半端な時期と時間、コロナ禍もあるが、旅行する人は少ないのだろう。



15時55分、伊万里に着いた。ここでは1時間ないし2時間が持ち時間となる。私は隣接の観光案内所でパンフレットをもらい、とりあえず北へ向かった。川沿いには、昔は味のある家々が建っていたようだ。でも、現在はその面影はほとんどない。
川を越えて東に行くと、伊萬里神社があった。入口に龍宮城を思わせる楼門があり、急な階段を登ると、こぢんまりした社殿があった。5円を投じ、いままでの愚行を吐露する。
社務所に戻り、ご朱印を所望しようとしたが、人がいなかったうえ、紙のご朱印は提供していない、の注意書きがあり、今回は諦めた。
もう博多に行こう。幸橋という、平戸にもあった名前の橋を渡り、駅に向かう。その途中、お茶屋があった。旅先では時々お茶を買う。伊万里茶もよかろうと購入しようと思ったが、ずいぶん人が来ている。
店の横は5~6台が駐まれる駐車場になっているが、そんなにこのお茶屋は大きいか? 見たところ、ふつうの一軒家だ。
だが駐車場はこちら側一帯にもあり、しかもかなりのクルマが駐車している。ご丁寧に警備員までおり、クルマを誘導していた。
なんなんだここは。あっ! これは、まさか……!?
(つづく)
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2021年長崎旅行・4「鉄印帳を求めて」

2021-12-29 00:12:43 | 旅行記・九州編
テレビ番組じゃあるまいし、ホテルを求めて佐世保の街をさまよい歩くのはイヤだ。
早岐のビジネス旅館は3,980円。しかも残り1室とあっては予約したくなる。ただ、すでに480円区間の切符を買っていたから、いくらかは無駄になる。それがどうにも腹立たしいが、ここは冷静に判断した。
18時13分、早岐で途中下車した。川棚からの料金は280円。純粋に200円の損で、川棚駅ではオレカの件など、いつも余計な出費をしてしまう。
早岐駅前に見覚えがあったが、そういえば「潮音荘」の文字にも見覚えがあった。ここも以前泊まったことがあるはずだ。
右手にうどん屋が見えてきた。「伊予製麺」だ。ここも同じ日に入っており、きょうも同じ行動となった。
釜揚げうどんの特大が欲しいが、ここにある大桶をセルフで取るのだろうか。
「それはこちらでやりますから」
と店員さん。ああ、前回も同じ注意を受けたことを思い出した。結局私は、進歩がないのだ。
釜揚げうどんとアジフライを美味しく食べ、潮音荘に入る。やはり以前泊まった宿だった。
応対は若旦那風の人がしてくれた。何となく、家族経営の気がした。
畳の部屋に旅装を解き、ほっと一息。あんでるせんの後は、またあと1年かと、いつも何とも言えない気持ちになる。
この日東京では、「千原ジュニアのタクシー乗り継ぎ旅」「出没!アド街ック天国」を放送しているが、放送局は東京ローカルなので、長崎ではリアルタイムの放送がない。
朝食は500円だったので、フロントに行き、注文した。
しかし部屋に戻ってもやることがない。
内風呂はないので大風呂に行くと、半円形の大舟に、ジャグジーがいくつか噴射している。独占状態で湯につかると、天下を取ったようで気分がいい。外風呂は不便ともいえるが、ゆったりできるからかえってよい。
風呂から出たらサッパリして、そのまま寝てしまった。

翌19日(日)。この日はフリーで、夕方までに博多に着けばよい。
宿は満室ではなかったようで、スマホの「残り1室」は、予約をあおるキャッチコピーだったようだ。
朝食は食堂で摂る。この食堂ももちろん見覚えがあり、以前も私ひとりだった。
魚の切り身が薄かったが、それもまた良しで、美味しくいただいた。
早岐では7時47分の列車に間に合った。タイム13分で佐世保着。きょうの天気は曇天で、降雨の雰囲気すらある。よって九十九島観光はやめにし、松浦鉄道に乗ることにした。
これにはもうひとつ訳がある。全国に40ある第3セクターが共同で、昨年7月から「鉄印帳」を始めた。全国的にブームになっているご朱印にあやかった企画だ。
詳細は分からないが、松浦鉄道は比較的老舗の第3セクターである。どうもブームに乗っかるようで味が悪いが、一番手に訪れる路線として、最西端にある松浦鉄道はふさわしいと思った。
が、松浦鉄道佐世保駅に行くと、窓口営業は午前9時からである。これなら宿でゆっくりすればよかったと思うが、ノープランだから仕方がない。なお私の経験から言うと、ノープランは誤算が多くなる。「行き当たりバッタリ」というと面白い旅に聞こえるが、実際は綿密な計画を立てたほうが、楽しい旅になる。
ここから北西に行けば、させぼ四ヶ町のアーケード街がある。私は日本全国を旅したが、偏見を承知で書けば、このアーケード街を歩く女子高生は、日本一の美しさだと思う。
だが雨がパラパラ降ってきて、私は駅前をうろうろするばかり。まさか傘は使わないと思ったから、用意していない。まったく間が悪い。
何とかアーケード街に入ったが、その中途にあるはずの、佐世保中央駅が見つからない。
いったん佐世保駅に戻ったりして、ようやっと佐世保中央駅前に着いたのは8時59分だった。味のある商店街の先に、へばりつくように佇む駅で、私が好きな駅のひとつである。



窓口が空いていたので、鉄印帳を所望する。しかし駅員さんいわく、佐世保駅とたびら平戸口のみの販売、記帳になるという。
鉄印帳の全容がよく分からないが、佐世保とたびら平戸口で、記帳の内容が変わるのだろうか。だとすると、ここまで歩いてきたのは失敗だったことになる。
とりあえず1日乗車券(2,000円)を買った。佐世保駅に戻る手はあるが、私はたびら平戸口に向かう。1日フリーとはいえ、博多に行くことを考えると、意外に時間はない。
車内は数人で、閑散としていた。松浦鉄道はJRから第3セクターに変換した際、駅数を32から57に増やし、列車本数も増やし、第3セクターの優等生となった。だが松浦鉄道も他の路線と同じく、過疎化とコロナ禍に苦しめられているようである。
沿線は高架もあるが木々の中を走り、風情は満点である。
9時50分、佐々で乗り換え。佐々駅舎はログハウス風だったが、現在改築中だった。その一隅に物品販売所があり、松浦鉄道では「西浦ありさ」を売りにしていた。
缶バッジがあったが、3つセットで600円は、ちょっと手が出ないところである。硬券の入場券を所望したが、「それはたびら平戸口で」と言われた。
19分の待ち合わせで、たびら平戸口方面に乗る。ここはちょっと混んでいたが、しばらくすると余裕で座れた。
タイム35分で、たびら平戸口に着いた。早速鉄印帳を買いたいが、駅員さんは改札業務に入っており、しかも市街方面へのバスが到着した。
ここでの滞在時間もはっきりしないが、最大3時間だろう。私はバスに乗ったが、どこまで行くべきか。平戸瀬戸市場を抜け、平戸大橋を抜けた。以前瀬戸市場を訪れたときは、中で購入したにぎりが新鮮で美味かった記憶がある。
平戸城に行く最寄りバス停でも降りそびれ、結局平戸新町まで行った。
この辺りも観光の宝庫なのだが、以前も訪れているので、新鮮味に欠ける。幸橋、というめでたい橋を愛でたあと、商店街に入ると、風情のある建物が目に入った。
観光用に遺しているものもあるのだろうが、日本人がほっとする風景である。





(つづく)
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2021年長崎旅行・3「今年も参加できなかった」

2021-12-28 12:10:09 | 旅行記・九州編
15番氏がトイレに行ったのは不可抗力である。ということは、マスターはそれも織り込み済だったということか。
新たに19番氏が当たり、マスターが「好きな絵を描いてください」と言う。19番氏は何かの動物を描いたが、もちろんマスターはピッタリ当てた。
あぁ、私の右隣の15番氏は残念、と思いきや、戻ってきた彼には新たに整理券が当たり、マスターに誕生日を聞かれた。カウンターには小箱が置かれている。
「8月10日です」
「じゃあ私と同じだ」
……!! マスターの人となりは謎に包まれていて、家族の類は一切明らかにされていない。でも誕生日が「8月10日」ということが分かった。これは貴重な情報と言えまいか。
マスターは手帳を取りだす。そこには各日にアイテムが書いてあり、8月10日は「チキン」だった。
そこでマスターが小箱を開けると、チキンの小物が出てきた。つまり365分の1の確率で、これを当てたということだ。これもマスターが、「結果」から予知を導いたということだろうか。
3番の女性が整理券を自ら当て、マスターから、何かの格言を書いた紙をもらった。こうした非売品のプレゼントが客としてはいちばん嬉しく、私も長年狙っているのだが、なかなか当たらない。というか、ここ何年かは一度も整理券すら当たらない。ひょっとしたら、マスターが私を意識的に外しているのかもしれない。
終盤になり、スプーンの登場である。これをマスターはぐにゃぐにゃに曲げ、さらに一部を齧ってしまった。
「このおたまのところが美味しいんです。軸のところは美味しくない」
スプーンに味があるものかと、私たちは苦笑しつつ驚愕する。
さらにコインマジックである。今回も100円玉を3つに割り、500円玉に爪楊枝を通し、10円玉を小さくし、大きくした。やっぱりコインマジックがいちばん面白い。
新たに50円玉を求められ、一瞬の間が空いたので、私が供する。ついに事前の準備が役に立った。
マスターは千円札にこの50円玉を泳がせた。客は悲鳴を上げる。その気持ち、よく分かる。
マスターはジュース缶の底から、10円玉を中に入れる。驚くのは、それを5番の女性にもトライさせたことだ。
そして女性は、10円玉を缶の底から一発で貫通させてしまった。「入った!」と、私もつい、絶叫してしまった。
これが誰にでもできることなのか、それともマスターが補助をしているのか。たぶん後者だと思うが、それはそれですごいことになる。
「予約は2ヶ月前の1日からで、もう来年2月いっぱいのカウンターは埋まっています。
あと、予約は2日以降でもできますからね。勘違いしている人も多いですけど。
なかなか電話が繋がりにくくて申し訳ないですけど……。ま、(私が)呼びますよ。皆さんに来てほしいときはネ」
とますたーが静かに言った。
さて、長かったマジックショーも終わらんとしている。時刻は午後5時にならんとし、確かに長時間となっている。
卵のマジックのとき千円札を供した女性に、代わりの千円札が出される。その際にマスターが貫通、異動のマジックをやった。しかし、失敗っぽい感じがした。
いままで私たちは驚異のマジックをさんざん見てきたから、カウンターの実年男女は、これも演出のひとつと思ったようだ。だがこれは違う。こんな結果は見たことがないからだ。
マスターは6番の女性から新たに千円札を借り、今度は成功した。私はマスターの意地を感じたのである。
これにてお開きである。今年も面白かったのだが、何となくマスターの雰囲気がハードというか、全体的にピリピリしたムードが漂った気もした。
最後は一本300円のスプーンを、みなが買うのが慣例である。私は先ほどの50円玉を回収せねばならないが、それはスプーンを購入するときでよい。
今年はカウンターでの会計を兼ねており、そのぶん時間がかかる。個人の名前を書くサービスも、省略されているようだ。
私の前の女性は、右腕に気をかけてもらっていた。いよいよ私の番である。だが、カウンターにはおカネが一切なかった。私の50円玉は、誰かが持って行ってしまったのだろうか。
「面白かったです。スプーンをください」
マスターは何も言わず、スプーンをくれた。マスターのマジックを初めて拝見してから22年。この間マスターは人生の指針を教えてくれた。だが私は守れず、結婚もできぬまま転職を繰り返し、いまも人生の底辺で迷走している。マスターには、私が堕落した人間にしか見えないのだろう。もう、掛ける言葉もないということだ。
私は50円玉のことを言うと、マスターが返してくれた。これが私の出した50円玉だったのか、レジから出した50円玉だったかは判然としない。前者であることを願う。
川棚駅に戻ると、17時23分の上下線は出ていた。次は17時54分で、これも上下同じ時刻である。
私はこのあとの予定をまったく立てていない。昨年の2日目は、長崎・眼鏡橋近くの匠寛堂に行った。今年も行って、今年は皇室御用達のカステラを購入しようか。だが、カステラだけのために、わざわざ再訪するのもどうかと思う。購入するならネットでもいいからだ。
駅員さんは女性だった。それで、駅員さんにどちらの列車に乗るか、決めてもらおうと思った。
「長崎駅の方が宿泊場所はいっぱいありますけど」
駅員さんは困惑しつつ、答えた。
「ホテルは男ひとり、どこでも泊まれると思いますので、推しの観光地をお願いします」
と言ったって駅員さんが私の運命を決められるはずもなく、私は何となく、佐世保に行くことになった。
「480円です」
駅員さんが券売機の「480」を押してくれ、私は480円区間を乗ることになった。
この駅はまだオレンジカードを使えるし、私も所持しているが、この券売機はオレカ使用にやや不安があるので、現金で買う。
と、構内に真っ白い毛並みに絶妙な黒ぶちの猫が現れた。メスなのか、ものすごい美形で、彼女?が人間だったら、相当に男を惑わすことだろう。
私はカメラを向けると、猫は逃げないどころかこちらに寄ってくる。よほど人間に慣れているのだろう。



私は猫の盆の首あたりを撫でてやると、猫はさらに擦り寄ってきた。そして私の手首を噛み、爪を立てた。これは猫なりの愛情表現と解した。
列車が到着したようだ。猫ともお別れである。
「佐世保駅前に東横インがあります」
「ああどうも、私、会員なんです」
私は気持ちよく列車に乗り込み、スマホで佐世保の東横インを繰る。すると、満室になっていた。ほかのホテルも同様である。
佐世保にはサイバックというネットカフェがある。しかし場所がうろ覚えだし、ネットで調べてもそれらしき店はなかった。むろんほかにもネットカフェはあるが、1泊だけなので、布団の中で眠りたいところでもある。
ためしに、佐世保の手前の早岐を調べると、1軒だけ、ビジネス旅館の空きがあった。
どうしようか……。
(つづく)
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2021年長崎旅行・2「マジックつづく」

2021-12-27 00:32:10 | 旅行記・九州編
(25日のつづき)

4、5個揃った指環のいくつかを、マスターが小さい小箱に入れる。それをライターで下からあぶると、やがて音がしなくなった。あとは例年通り、マスターのキーホルダーから出てきたり、マスターが首から下げたネックレスから出てきたりした。
カウンターの1番から4番までは一組で、年配の男女が座っている。「あらあー」と頓狂な声を出すが、これくらいで驚いていては身が持たない。
軽いジャブが終わったあと、マスターがおカネを所望する。例の夫婦が速攻でお札を出し、硬貨ともども、全種類がたちまち揃った。やはり、私のおカネの出番はなかった。
マスターが千円札を薬指に立てる。さらに8つに折り、中空に浮かせた。みなが「ゲエッ」と驚き、私はゲラゲラ笑った。私のように23回目になると、もはやみなの反応を見て楽しむスタンスになる。
「ハウス!」今度は千円札がマスターの肩の上に乗った。
お次はESPカードである。これもカウンターの4人が当てるのだが、というかマスターが当てるのだが、これもうまくいった。
続いてカード(トランプ)に移る。これも素晴らしいマジックばかりなのだが、カードについては、手練れのマジシャンのそれをテレビで見たりするので、やや驚きは落ちる。ただ、かぶりつきで見るマジックはやはり一味違う。
「まいちゃん、ちゃんと見てますか」
私の後方の女性が、あいまいに返事をした。彼女がまいちゃんだったのである。時々これを挟んでくるからマスターのマジックは恐ろしい。
3番の女性が整理券を引き、1番の男性が当たった。
「この紙に、あなたの好きなトランプのマークと数字、それと1から52までの好きな数字を書いてください」
男性は戸惑いながら書き、それを丸めてカウンターに出す。だがマスターは不満そうである。
「違うんです」と、マスターがかみ砕いて説明する。つまり、一例では「♥5・38」とか書くのだが、男性のそれには不備があったらしい。
男性が書き直し、前に出した。
「……もう、やめます!」
マスターが不機嫌そうに言い放った。「あなたは最初、♦の9、今度は♠の9を書きましたよね。だけどそれだけではダメなんです。1から52までの数字も書いてもらわないと。それがカードの上から同じ枚数のところにあるから、このマジックは面白いんです。でもあなたは書けなかった。このマジックはもうしません」
マスターが1番氏の書いた数字やマークを透視していたのに驚いたがそれよりも、マスターがこんなに不機嫌になったのを初めて見た。「やめます」と言うから、今日のマジックが休止になると思ったほどだ。
マスターのマジックは観客参加型で、観客と一緒にイベントを作っていくところがある。だからマジックには純粋に驚かなければいけないし、笑わなければならない。無反応の客や、マスターの指示に迅速に従わない客は敬遠される。実はマスターは、すこぶるストイックな人である。その本質に気付いている客はごく少数だと思う。
でも幸い、マジックは続行された。
このあとは、「ウルトラセブン」や「AKB48」と、定番のマジックが披露された。
壁の額縁に切れたカードが瞬間移動するマジックも披露された。今回はカードが現れるのに微妙なタイムラグがあり、それが妙に可笑しかった。
「壁のカードは、後日あなたの家へ移動しますよ。だけど新聞の間とかに移動するので、半分以上の方が、分からずに捨ててしまいます」
これは相当眉唾だが、どうなのだろう。
マスターが再びお札を所望した。例の夫婦の旦那のほうは長財布を用意し、中には札束が見えていた。壱万円札だって4枚でも5枚でも出しますという意気込みが感じられ、これじゃあこっちは勝てないと思った。
でも千円札を出したのは7番の女性。その千円札を使い、例の生卵マジックが披露される。
袋の中で生卵と千円札がご一緒し、千円札が生卵から出てくるという離れ業だ。この千円札はどろどろに濡れてしまうので、マスターが一時預かりとする。
その後も新作旧作を織り交ぜたマジックが展開される。今年面白いと思ったのは「π」の書籍で、小数点以下の数字がただ羅列されているだけの本があるのだ。マスターはそれを眺めるのが好きだという。鉄道マニアは、時刻表を読み物として楽しみ、列車の発着時刻だけ見て愉しむのだが、マスターのそれもかなりマニアだ。
マスターが女性に任意の2ケタの数字を2つ言わせる。するとマスターが4ケタの数字を答えた。たとえば「52頁の12行目」と言ったとして、その行の最初の数字4つを当ててしまったわけだ。つまりマスターはこの本の数字ほとんどを憶えているというわけだ。
マスターがスマホの電卓で、カウンターの人々に4ケタの数字を入力させる。
「それは○頁の○行目です」
しかしこれは外れていた。でもこれは、無理もないのだ。1番の男性の動きが怪しく、ちゃんと計算できていなかった可能性があるからだ。年配の人は見る専門にしてもらいたいが、上にも書いたように、このマジックは観客参加型なので、そうもいかない。
また複数で来店する場合、客の中でもマジックに対する熱量に差があり、低い人に当たると、シラケることがままある。ここが複数客の難しいところだ。
続いてルービックキューブのマジックをいくつか。これもすべて素晴らしいが、圧巻は一瞥したキューブを客に渡し、マスターが頭の中で6面を完成させるというものだろう。
これは将棋でいえば、長編詰将棋を一瞥して頭の中で解くようなものだが、レベルとしてはキューブのほうがはるかに難しいと思う。
「宿命、という言葉があります。きょうはこのときのために来てくれた人がいますよ。その人にはこれから、絵を描いてもらいます」
3番さんが整理券を引く。「15」で、私の右の男性(夫婦の旦那)が当たった。だが彼は現在、トイレに行っていた。
「じゃあ宿命の人ではなかったということで」
なんと、15番氏を除く、再抽選になったのだ。
「ええっ!?」
15番氏が宿命の人ではなかったのか⁉ 私たちは驚いた。
(つづく)
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2021年長崎旅行・1「長崎へ」

2021-12-25 01:58:34 | 旅行記・九州編
(10月2日のつづき)

ヒトは、楽しみにしている日は早く来ればいい、と考えるものだろうか。
でもその楽しい日が過ぎれば、また空虚な日々が来るわけで、早い話、今回の長崎行きも私としては、来てほしいような来てほしくないような、複雑な気分だった。
しかし12月18日(土)はやってきた。今年も1泊2日の長崎旅行に出発である。
所持金は28,210円となった。お札は壱万円札が2枚、千円札が7枚である。しかしあんでるせんでは、二千円札と1円玉以外のお札と硬貨を用意したい。というわけで、あんでるせんに着くまでに、壱万円札を崩して五千円札を入手しなければならない。
しかし崩しすぎて千円札ばかりになったら、また壱万円札を崩さなければならない。だが2回目をやると、今度は壱万円札がなくなってしまう。それで出発直前に、もう1枚壱万円札を加え、38,210円とした。実はこれが結果的に微妙なドラマを生むのだが、それはもう少し先の話。
往路は昨年に続いて、スカイマークの羽田―神戸―長崎便を利用した。チケットの予約は早かったので、7,990円で済んだ。関係者に申し訳ないくらい安い。
早暁の上野東京ラインに乗り、品川で京急に乗り換えた。いままではモノレールを利用していたから、初の試みだ。ここから羽田空港までは300円という安さである。
空港でチェックインに臨むが、窓のない15Aか、外が見える29Bか30Bで迷った。が、30Bを選んだ。
席に向かうと、30Aにいたオッサンが盛大に脚を拡げ、偉そうにしている。肘掛けの肘も、こちら側に侵食している。私はおずおずと座るが、オッサンの態度は変わらない。前途多難を思わせた。
ちなみに30Cは真飛聖を思わせるインテリ風の女性が座ったが、前の席を見れば、29Aが若い女性、29Cが若い男性で29Bは空席。これなら29Bのほうがはるかに良かったが、まあ結果論だろう。
定刻に離陸。右の女性に関心をはらえば、まあ快適な空の旅である。
スカイマークでは飲み物の無料提供はないが、マスクとKit-Katのサービスがあった。
9時20分ごろ、神戸空港で一旦降機。チケット代が安いから、このくらいの手間はなんでもない。
空港から望む空は雲が山脈のように連なり、ちょっと異様である。「雲脈」とでもいうべきか。



9時30分ごろ、再搭乗。例のオッサンはやはりいた。どうもこのエリアは、全員長崎行きだったようである。
長崎空港は10時50分着だが、10分ほど遅れる、とのアナウンスがあった。そこで初めて気づいたのだが、例年は長崎空港発11時ちょうどの連絡バスに乗っていた。
だが今回の便だと、たとえ定刻に着いたとしても、11時発のバスには乗れない可能性が高い。今回はあんでるせん着が13時でいいから大勢に影響はないが、例年だったらけっこうマズイことになっていた。
飛行機は12分遅れで長崎空港に着いた。バス乗り場に行くと、川棚方面に行くバスは11時20分である――と待っていたのが錯覚で、その先のバス乗り場が川棚行きで、11時25分の出発だった。飛行機の到着時刻に合わせ、バスもダイヤ改正したのだろう。
しかし私も慌てたため、昨年に続き、またSuicaで乗ってしまった。
川棚バスセンターには、定刻の12時06分を数分遅れで着いた。降車は私を含む3人だったが、前のふたりはあんでるせんに行くのだろうか。
まだ時間があるので、この間に腹ごしらえである。駅前の歩道橋に上り、あんでるせんの全景を撮る。



川棚駅は、駅舎の一隅が軽食喫茶になっていた。でも雰囲気は変わっていない。
道路の反対側にある「まゆみ」という食事処に入った。ここ数年はあんでるせんでの食事が主だったから、「外食」は久し振りだ。
海鮮天丼(1,000円)を注文する。これは期待通り、美味かった。
会計の際、あえて壱万円札を出す。すると姐さんは、五千円札を含んだおつりをくれた。これで心置きなく、あんでるせんに臨める。
13時近くに、あんでるせん前に着いた。実に23年連続、23回目のあんでるせんである。このコロナ禍において遠出をしてしまい心苦しくはあるが、今年もこの地に着くことができたのはよろこばしい。
店頭には、まだ準備中の札が置かれている。ホントに13時からなのだ。
やがて、奥さん??らしきいつもの女性が開店を知らせに来ると、1階の待ち合わせルームから続々と人が出てきた。
ここは以前、マスターのご両親?が経営するお菓子屋で、その後クリーニング屋になったが、ここ数年は空室になり、現在は待ち合わせルームとして使われている。
入店すると、中は以前と変わらなかった。マスターが検温してくれ、1,000円の請求書が渡された。本当にもう、飲食の提供はないのだ。
私たちはとりあえず椅子に座る。すぐにでもマジックに入れそうだが、奧さん?が「店内の写真を撮られる方は、いまのうちに撮ってください」と言う。私もありがたく1枚パチリ。でもこれをブログに上げるかどうかは、別問題だ。
続いて「集金」である。私たちは奥さん?に1,000円を払う。これで完全に、マスターの余興ならぬ、おカネを払ってのマジックショーを見ることになるわけだ。
私たちは所定の位置に振り分けられた。私は「13」で、まあどこに立ってもいいのだが、できればお札や硬貨をカウンターに出せる距離にいたい。
と、カウンター5番席と6番席の後ろに1つ設けられた椅子席があてがわれた。実は5番、6番の女性と、私の右の14番、15番の男性が夫婦だったので、彼らのどちらかが13席に座ればよかった。6番の女性は、不気味な男性が後ろに座ったから、怪訝な顔をしていた。
マスターが登場した。1年振りのマスターだが、全然変わっていない。対して私はこの1年でハゲが進行し、白髪も増えた。もう完全な別人といってよく、マスターに合わせる頭がない。
マスターはおばけの手で驚かせたあと、指環を所望する。と、例の2組の夫婦がすぐに差し出した。
今回に向けて、予習は万全というところか。当然おカネも用意しているに違いなく、私がおカネを出す機会はなくなったと思った。
(つづく)
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