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●貯蔵庫モデル]心理学基本用語

2017-06-17 | 心理学辞典

●貯蔵庫モデル
 まず、感覚情報貯蔵庫から。
 ここには、目や耳などの感覚器官を通して外から入力された情報が、ほぼそのままの形で、せいぜい500ミリ秒(1/2秒)くらいの非常に短い間、貯蔵される。パッと目をつむったときに脳裏に浮かんでくるボンヤリとした映像は、この感覚情報貯蔵庫からの情報に基づいている。
 情報は、感覚情報貯蔵庫に連続的に飛び込んでくるが、普通の状態では、それらは、ほんの少しだけしか違わない情報なので、情報間の融合が起こり、一貫かつ連続した動きを伴った映像を体験できる。映画のように、1枚1枚は静止した連続絵を50ミリ秒くらいの間隔でどんどん見せると、なめらかな動きのある映像が見えるのは、このためである。しかし、非常に短い間隔で、異質な情報を次々に見せられると、情報内容間の干渉が起こり、ある情報が欠落してしまうこともある。これはマスキング現象と呼ばれている。
 短期記憶は、感覚情報貯蔵庫から抽出された情報を高々20秒程度の間だけ、保存しておくところである。長期記憶は、短期記憶で一定の処理がなされた情報を、知識として長期間にわたり保存しておくところである。それぞれの処理特性を、されに概観してみる。
 短期記憶は、そこに貯蔵しておくことのできる情報の容量に限界がある。その上限として、情報の単位(チャンク chunk;主観的な情報のまとまり)にして、7±2(魔法の数7プラス・マイナス2)が知られている。演習4-1で、9個のキーワードを記憶してもらったが、あえて9個にしたのは、この短期記憶の容量限界一杯を体験していただきたかったからである。
 なお、ここで、チャンクとは、見た目のまとまり(ゲシュタルト;63ページ参照)、あるいは意味的なまとまりのことである。たとえば、図4-2を見てほしい。いずれも、文字、数字1個を1つの情報単位と考えると、限界を越えてしまうが、なんらかのまとまりを形成してしまえば、苦もなく覚えることができる。このまとまりがチャンクである。魔法の数7は、チャンクで数えたときの限界数である。

       (a) NECIBMSONYHITACH
       (b) 0293−53−4613
       (c) 100110011001
       (d) やまだたなかきくちすずきさとうたかはし  
       (e) きなやまとはただうさたかきしかくちずす
 図4-2 チャンクを形成するもの (c)と(e)とはチャンク化がむずかしい。

 チャンクを「主観的」まとまりと言ったのは、どのようなまとまりが作られるかは、人によって異なるからである。たとえば、図4-2の(c)を「100-1100-1100-1」のようにチャンキングする人もいるであろうし、「1001-1001-1001」のようにチャンキングする人もいるであろう。また、(e)は(d)をでたらめに並べ直したものであるが、これでも、一文字ずつ覚えようとする人はいないはずである。いくつかのチャンクを勝手に作ってしまうはずである。もちろん、3章3.2「区別してまとめる」で述べたゲシュタルトの要因のように、誰でもが1つのまとまり(チャンク)として見るものもあるが、チャンキングの多くは、その人が長期記憶に貯蔵している知識に依存して主観的に決められる。
 短期記憶では、入力された情報を頭のなかで(時には口に出して)リハーサルしながら、長期記憶に貯蔵されている知識を使って、処理目的にふさわしい符号化を行う。たとえば、先ほどの記憶実験で「メンタルモデル  長期記憶─」を覚えるときに、何度も何度も頭のなかで、あるいは口に出して、覚えるべきことばを繰り返していたはずである。これがリハーサルである。そしてリハーサルしながら、たとえば、「メンタルモデル」なら、「メンタルは心的」、「モデルは仮説に類似したことば」、といったように、覚えるべきことばに対して長期記憶のなかにある知識を結びつけていく。これが符号化である。この符号化の結果は、再び、長期記憶に転送され、符号化するときに使った知識と結びつけて貯蔵される。それによって、長期記憶の知識が活性化され、さらには更新される。
 長期記憶では、短期記憶で符号化された情報を、既存の知識のなかに再び取り込み、長期間にわたり保存する。知識は、必要に応じて検索されて、短期記憶に転送される。長期記憶での保存容量は、ほとんど無限と考えられている。情報の圧縮や統合が絶えず起こるからである。100のことばで説明されたことが、たった1つの専門用語で簡単に置き換えられたり、似たことばが1つにまとめられたり(概念化されたり)することによって、保存スペースの節約が絶えず行われているのである。
 永久に情報が保存されているとすると、われわれが日常的に経験している忘れるというのは、どのように考えればよいのであろうか。最近の記憶心理学の支配的な考えは、忘却が起こるのは、情報が消失してしまったからではなく、検索手がかりの不足や、速く思い出さなくてはといったようなストレスなどのために検索に失敗したからとされている(検索失敗説)。
 


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