リレー連載;第2回 筑波大学「心理学系」 海保博之 ヒューマンエラーを事故につなげないために ---心理安全工学序説
第2回 知覚管理不全
はじめに 5感(視聴嗅触味)情報に基ずく知覚は、外界の「正確な」コピーではない。それは、まぎれもなくエラーに満ち満ちた世界であるが、見方によっては、生き残りのために人が作り出した見事な適応的世界とも言える。 その世界はメタ認知がほとんで機能しない。無意識的かつ自動的な認知活動だからである。それだけに、知覚管理不全による事故は、自己管理の不全よりも、人の知覚特性を無視した外部環境の設計不備にもっぱらその責を負わされることになる。 なお、本稿では、紙幅の関係で、視覚に話を限定するが、他の感覚モダリティでも基本的な考えは変わらない。
●見えるようにする---視認性支援 見せたいものが、暗がりにあったり、小さかったりすれば、見落とされる。こんな当然のことが忘れられてしまうことがある。 たとえば、昼夜間で作業が行なわれるとき、昼間はよく見える危険表示も、夜間になると見えにくくなり、事故というような例。 あるいは、文字の大きさも、見る距離(視角)によって、その心理的な大きさが変わることを無視して、見落しエラーによる事故というような例。 いずれについても、その対策は、自明のことなので、省略するが、こうしたごく当たり前のことも、きちんと安全管理のチェック項目として入れておく必要がある。
●見えの予測をガイドする---予測支援 知覚は、静止した状態よりも、動きながら行われていることのほうが多い。そこでは、普段はほとんど意識できないが、次の適切な動きの予測を支援するための情報の取り込みが行なわれている。暗がりを歩くとそのことがよくわかる。 自然の環境ではその予測がはずれることはあまりないが、人工的な環境では、突然、段差が出てきたり、急カーブになったりすることがある。これも、事故につながる。 道路の予告信号のように、表示によって知覚の予測を支援することが多いが、表示などなくとも自然に適切な予測ができるように人工的な環境を設計することが、人の知覚特性に配慮した環境設計の王道である。
●見た目の自然なまとまりを利用する---ゲシュタルト効果支援 似たもの(類似)、近くにあるもの(近接)、囲まれているもの(閉合)、対称なもの(対称)、連続したもの(よい連続)は、一つのまとまり(ゲシュタルト)として知覚される。 掲示板などでは、このゲシュタルト効果を活用すると、伝達効果があがる。 図1 ゲシュタルト効果を活用した掲示例
●違いを際立たせる---弁別支援 文字形の「右」と「左」は、字の概形が似ているので、弁別には不適である。 男女のトイレの場所の指示も実にいろいろある。あごひげの絵と口の絵、スカートとズボン、ピンクと青などなど。それだけを単独で見せられたら何のことがわからないが、しかるべき場所で両者を同時に見ることができれば、弁別はできる。 選択枝が2つしかない状況では、とりあえずは違いだけがすぐにわかるようにする。その上で、いずれがいずれかがわかる(識別)ように工夫することになる。 図2 違いを強調した例
●概形情報と特徴情報だけを際立たせる---識別支援 人はすべての外部情報を取り込んで処理しているわけではない。特に瞬間的に取り込むのは、概形情報と特徴情報だけである。 道路の行き先表示では、簡略文字を使うことが多いが、簡略の仕方が、概形と特徴をうまく際立たせて成功している。 文字だけでなく、似顔絵にみられるように、絵などによる表示でも概形と特徴が大事である。 こうした知覚特性を忘れて、たくさんの情報を提供してかえってそれがノイズ(情報ノイズ)になって、肝心の情報を見落とさせてしまう。 図3 イラストは概形と特徴をうまく強調する
●刺激が存在する周囲の環境に配慮する---文脈効果支援 ある対象を知覚するとき、その対象だけを知覚するわけではない。対象をとりまく環境も同時に知覚する。それが、対象そのものの知覚を「歪める」。 よく知られている例は、対比である。色で言うなら、青地に黒、白地に青は文字の読み取り精度を高める対比である。 錯覚もよく知られている。道路などでは、錯覚をうまく利用すると、心理的な速度感を狂わせて安全速度に誘導することもできる。 図4 塀の高さは同じに見える?
●見たものが現実と対応するようにする---同型性効果支援 知覚の世界は外界とアナログ的な同型対応をしている。右にあるものは右に、大きいものは大きく見えている。 ときおり、案内表示などで、この知覚特性を無視したものを見かける。表示の前で首を傾けたりして、地図を傾けてなんとか外と内との同型性を作りだそうしている。 図5 どうちらが大きい?
●見た目をよくする---感性効果支援 そこには自分を貶めるリスクがあることを本能的に知っているからであろうか、汚いものは見たくないし、近づきたくないと思うのが人のさがである。知覚にも感性的な要素が微妙に影響している。 たとえば、危険表示でもそれが汚れていたり、下手な文字で書かれていれば、見るのもいやとなる。 作業現場などは黙っていれば汚れる。汚れの中にエラーや事故の種が隠蔽されてしまい、何かのときにそれが顕在化して事故が起こってしまう。
第2回 知覚管理不全
はじめに 5感(視聴嗅触味)情報に基ずく知覚は、外界の「正確な」コピーではない。それは、まぎれもなくエラーに満ち満ちた世界であるが、見方によっては、生き残りのために人が作り出した見事な適応的世界とも言える。 その世界はメタ認知がほとんで機能しない。無意識的かつ自動的な認知活動だからである。それだけに、知覚管理不全による事故は、自己管理の不全よりも、人の知覚特性を無視した外部環境の設計不備にもっぱらその責を負わされることになる。 なお、本稿では、紙幅の関係で、視覚に話を限定するが、他の感覚モダリティでも基本的な考えは変わらない。
●見えるようにする---視認性支援 見せたいものが、暗がりにあったり、小さかったりすれば、見落とされる。こんな当然のことが忘れられてしまうことがある。 たとえば、昼夜間で作業が行なわれるとき、昼間はよく見える危険表示も、夜間になると見えにくくなり、事故というような例。 あるいは、文字の大きさも、見る距離(視角)によって、その心理的な大きさが変わることを無視して、見落しエラーによる事故というような例。 いずれについても、その対策は、自明のことなので、省略するが、こうしたごく当たり前のことも、きちんと安全管理のチェック項目として入れておく必要がある。
●見えの予測をガイドする---予測支援 知覚は、静止した状態よりも、動きながら行われていることのほうが多い。そこでは、普段はほとんど意識できないが、次の適切な動きの予測を支援するための情報の取り込みが行なわれている。暗がりを歩くとそのことがよくわかる。 自然の環境ではその予測がはずれることはあまりないが、人工的な環境では、突然、段差が出てきたり、急カーブになったりすることがある。これも、事故につながる。 道路の予告信号のように、表示によって知覚の予測を支援することが多いが、表示などなくとも自然に適切な予測ができるように人工的な環境を設計することが、人の知覚特性に配慮した環境設計の王道である。
●見た目の自然なまとまりを利用する---ゲシュタルト効果支援 似たもの(類似)、近くにあるもの(近接)、囲まれているもの(閉合)、対称なもの(対称)、連続したもの(よい連続)は、一つのまとまり(ゲシュタルト)として知覚される。 掲示板などでは、このゲシュタルト効果を活用すると、伝達効果があがる。 図1 ゲシュタルト効果を活用した掲示例
●違いを際立たせる---弁別支援 文字形の「右」と「左」は、字の概形が似ているので、弁別には不適である。 男女のトイレの場所の指示も実にいろいろある。あごひげの絵と口の絵、スカートとズボン、ピンクと青などなど。それだけを単独で見せられたら何のことがわからないが、しかるべき場所で両者を同時に見ることができれば、弁別はできる。 選択枝が2つしかない状況では、とりあえずは違いだけがすぐにわかるようにする。その上で、いずれがいずれかがわかる(識別)ように工夫することになる。 図2 違いを強調した例
●概形情報と特徴情報だけを際立たせる---識別支援 人はすべての外部情報を取り込んで処理しているわけではない。特に瞬間的に取り込むのは、概形情報と特徴情報だけである。 道路の行き先表示では、簡略文字を使うことが多いが、簡略の仕方が、概形と特徴をうまく際立たせて成功している。 文字だけでなく、似顔絵にみられるように、絵などによる表示でも概形と特徴が大事である。 こうした知覚特性を忘れて、たくさんの情報を提供してかえってそれがノイズ(情報ノイズ)になって、肝心の情報を見落とさせてしまう。 図3 イラストは概形と特徴をうまく強調する
●刺激が存在する周囲の環境に配慮する---文脈効果支援 ある対象を知覚するとき、その対象だけを知覚するわけではない。対象をとりまく環境も同時に知覚する。それが、対象そのものの知覚を「歪める」。 よく知られている例は、対比である。色で言うなら、青地に黒、白地に青は文字の読み取り精度を高める対比である。 錯覚もよく知られている。道路などでは、錯覚をうまく利用すると、心理的な速度感を狂わせて安全速度に誘導することもできる。 図4 塀の高さは同じに見える?
●見たものが現実と対応するようにする---同型性効果支援 知覚の世界は外界とアナログ的な同型対応をしている。右にあるものは右に、大きいものは大きく見えている。 ときおり、案内表示などで、この知覚特性を無視したものを見かける。表示の前で首を傾けたりして、地図を傾けてなんとか外と内との同型性を作りだそうしている。 図5 どうちらが大きい?
●見た目をよくする---感性効果支援 そこには自分を貶めるリスクがあることを本能的に知っているからであろうか、汚いものは見たくないし、近づきたくないと思うのが人のさがである。知覚にも感性的な要素が微妙に影響している。 たとえば、危険表示でもそれが汚れていたり、下手な文字で書かれていれば、見るのもいやとなる。 作業現場などは黙っていれば汚れる。汚れの中にエラーや事故の種が隠蔽されてしまい、何かのときにそれが顕在化して事故が起こってしまう。
右左折の矢印のわきにちょこんと 200?b先とあるのに、
すぐ見えてくる交差点で曲がってしまう。
けものみちってところに入ってしまったり……
先生の撮影された町中の標語は
なかなか効果ありそうですね。
女子トイレにはよく(男子トイレは知らないですそれこそ不"振"者?になってしまいます)
「いつもきれいに使って下さってありがとうございます。」
という張り紙があります。
ある意味心理作戦の言い回しだと思います、(先生のプロデュースされた言葉?)
使ってないうちに御礼が目に入るというところが……
仕事はじまりつかの間の休息時間にコメントです
ちょこんと200
「メートル」
近所の塀が安全標語だらけ。
とても危険なところにすんでいるような不安。
よしあしです