●「恒産なき者は恒心なし」ということであろうか。今の日本のこの経済的・物質的豊かさの中で,人々はようやく自らの心の深奥に目を向けはじめたようである。心理学への過剰なまでの(時には見当はずれとも思えるような)期待が高まっている。
●その期待は,一方では,より豊かな精神生活を構築する方向へのものである。「効率的に学ぶにはどうするか」「どうすればより創造的な力を発揮できるか」「めくるめくような心の高揚を得るにはどうすればよいのか」などなど。もう一方の期待は,ストレスに打ちひしがれ,あえいでいる心を正常な状態に回復させるにはどうしたらよいかという方向のものである。
●しかし,いずれの期待にも十分に応えるものが,「学問としての心理学」の中にはない。その隙をつくかのように,人の心を無造作にもてあそぶことを生業とするビジネスが雨後のタケノコのごとく出てくる。危険な兆しである。学問としての心理学のなかに,方法論的な厳密さへ自閉していきがちな傾向に反省の機運がある。この機運が盛り上がってくれば,世間の期待をしっかりと受け止められる心理学の知見が蓄積されてくるであろう。
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