1969/04/09に生まれて

1969年4月9日に生まれた人間の記録簿。例えば・・・・

『三玉山霊仙寺を巡る冒険』〜6.法花寺集落と法花寺鉱床

2021-12-25 18:49:21 | 三玉山霊仙寺の記録
『三玉山霊仙寺を巡る冒険』

〜6.法花寺集落と法花寺鉱床〜

「ろう石」が採れる法花寺集落は震岳の西側山麓に位置するが、東側の正面は岩野川、南北は震岳の稜線から伸びる尾根によって囲まれていている。まるで小さな砦のようだ。人を寄せ付けまいとするかのような地形が、修行者に良好な環境を提供していたのであろう。集落の一番奥には法華寺があり、本堂には金箔の千手観音立像が奉られていている。また、境内には年代が判明している石塔塔身としては山鹿市内最古級の健保三年(1215)のものがあるほか、多くの石造物が往時の繁栄を偲ばせてくれる。本堂を背にして振り向けば、真正面には馴染みの形とは違った彦岳を見ることができる。やや丸みを帯びた山頂から続く斜面は左右対照の末広がりとなっていて、その流麗な姿に「シン・山鹿小富士」と別名を与えたくなるほどだ(笑)。

知人のNさんは、若い頃、このうら寂しい集落が好きではなかったそうだが、次第に愛着が湧いてきて、近年になって週末は必ず実家に戻り、受け継いだ土地を守ることを目的としながら山の手入れや農作業を満喫しているのだ。そうした活動のなかで、先代が採掘していたという「ろう石」を鬱蒼とした竹山の中から拾い集めてきたのだった。

一般に、「ろう石」とは印材、彫刻材、耐火物、窯業原料や農薬などに利用される蝋のような光沢と触感のある鉱物や岩石の総称として使われる言葉で、Nさんが見せてくれた岩石は、まさしく「ろう石」そのものだった。ただ、「ろう石」には、その岩石を構成する主要な鉱物に違いがあり、岩石の雰囲気や地域の地質学的な特性から、その岩石に含まれる主要な鉱物は「滑石」(かっせき)ではないのかと私は判断したのだった。

ジェノベーゼソースのピザは、大変、美味だった。しかし、私の心は「ろう石」が採れる所に早く行きたいという気持ちが高まっていくばかりだった。Nさんは、自分の仕事をとめて、予定より遅れて帰ってきた私のために、わざわざ窯の火入れから始めてピザを焼いてくれていた。午後からは自身の予定もあったはず。しかし、私は無理を承知で案内をお願いしたのだった。

案内された先は、そこから徒歩で10分弱の林道から脇にそれた急斜面の上だった。斜面を登り切ったそこは200坪くらいの平地になっていて、Nさんがタケノコ栽培の用地として数年を費やして整頓した場所だった。そこはもともと緩い斜面に手を加えて造成された土地であるとは言え、その平坦面はあまりにも不自然だった。小規模な採掘場跡、もしくは採掘した岩石の選鉱場跡ではないかと思われた。地面には大小の「ろう石」が転がっていた。私はタケノコ探しもそっちのけで雑木や竹林が茂った方へ踏み入った。残念ながら「ろう石」の鉱脈を見つけることはできなかった。また、この「ろう石」に含まれる鉱物が「滑石」であることのひとつの証左となる「蛇紋岩(じゃもんがん)」の露岩も見つけることはできなかった。かわりに、Nさんの助言もあり、タケノコはいくつか見つけることができた。

帰宅して早速、「山鹿 滑石」で検索してみた。なんと「熊本県山鹿市北方一帯の滑石鉱床調査報告」というタイトルの論文を一発でヒット。アドレナリンが体内を駆け巡った。

その論文は、現在の産業技術総合研究所地質調査総合センターが昭和30年(1955)に調査を実施し、翌々年の昭和32年(1957)に地質調査月報に掲載されもので、そこには法花寺鉱床として紹介されていた。そして、滑石鉱床については「蛇紋岩」と「石英石墨片岩(結晶片岩類)」の境界に幅数10cmの鉱脈として4箇所で確認されたと報告していた。また、法花寺鉱床の鉱量は2000tが見積もられており、採掘の背景には農薬原料として需要の高まりを上げていたのだった。

夕食後、Nさんに連絡を入れると大変な喜びの様子であった。私はNさんから頂いた新鮮な芋と筍は大変美味だったことと、近々、不動岩に登る旨を伝えた。そして、最後に、震岳の頂上で採取してきた「変はんれい岩」の岩石サンプルを庭先にわすれてきたことを伝えたのだった。

つづく

参考文献
清原清人「熊本県山鹿市北方一帯の滑石鉱床調査報告」『地質調査所月報』第8巻 第7号 p.43-48 昭和30年7月調査
山鹿市史編纂室 『山鹿市史 別巻』 山鹿市 昭和60年3月


石塔

法花寺集落から見える彦岳

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